思えば、愛だ恋だというそれに関して自分からどうこうしようと動いたことはなく、今この瞬間も俺は自分の想いの行き場を一人の男に委ねようとしていた。自分だけがその場で止まっているような感覚。まるで、取り残されているような。

 見慣れたお団子ではなく、下ろした髪が風に揺れていた。それは、俺と会うということとほぼイコールで結び付けられる行動、ヘルメットを被るということを予測してのことだろう。大学はまだ秋学期に入ったばかりだし、向島ではまだらしい。割と自由はあった。
 会おうと思ったのに特に理由はなかった。それこそインターフェイスの夏合宿で顔を合わせて以来だから、最後に会ったのが取り立てて昔と言う程でもない。ただ、何となく。顔を突き合わせて1対1で話したくなる、それが奥村菜月だ。