スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

そして僕は途方に暮れる。

 




 浩介が布団を抱えて部屋へ戻ると、なかなか珍しい光景が視界へ映った。
 安心しきった顔の親友を起こさぬように、彼は小さな呟きを零す。



「壮太、寝たんですね」


「うん、泣き疲れたみたい」



 千晶が穏やかに笑いながら応じる。
 千晶の膝に頭を乗せて、まるで小さな子どものように壮太は寝息を立てていた。
 寝顔だけ見ていれば、今にも壊れそうな少年でしかないのに。



 一度、枷が外れてしまえば、誰よりも冷徹で無慈悲だ。



「‥‥誰を殴って来たんでしょうね」



 青くなった拳は所々赤く、裂傷になっていた。
 千晶は壮太の額に掛かる髪を払いながら自嘲する。
 自分がこちらへ戻ってきて以来、血気盛んな輩は性懲りもなく現われた。
 だが、自分が全く相手にしない為か、彼等の視線は壮太に向いた。
 今回もそうだろうと、思う。



 自分は忠告に来た筈だった。
 『一人になる』のをやめるように。
 けれど、それは全く無意味なものとなってしまった。
 怪我はしていないにせよ、自分の行動の遅さに苛立つ。



「それは壮太に聞きな。多分、言いやしないけど」



 千晶のつっけんどんな言い方に浩介は軽く目を瞠った。
 そうしてゆっくりと吐息を漏らす。
 この兄弟は本当に世話がかかる。



「拗ねないでください」


「…拗ねてない」



 まるで窘めるように囁くと、千晶は唇を尖らせる。
 浩介がますます呆れたように溜息を吐いた。



「…きっと、」



 ふと、千晶の声音が震えた。
 彼はひどく優しい眼差しで膝で眠る弟を見つめている。
 それはどこか安堵しているようにも思えた。



「きっとこいつはこれからも俺を邪険に扱うんだろうねえ」



 壮太ももう小さな子どもではない。
 自分で選択し、自分で守れる。
 もう待つしか出来なかった子どもではないのだ。
 千晶はもう、必要ない。



「あんなに俺のあとひっついてきてたのになあ」



 寂しそうに俯く千晶の横顔はどこか嬉しげでもあった。
 浩介は小さく笑い、そっと壮太を抱えあげる。
 先ほど敷いた壮太の布団へゆっくり降ろすと、壮太はむずがるように僅かに身じろいだ。



 千晶が髪を優しく撫でてなだめると、安心したように寝返りを打つ。
 まるで子どものような仕草に、二人は顔を見合わせて笑った。



「…寂しいですか、」


「…ん、ちょっとだけね」



 千晶は肩を竦めて笑い、いそいそと壮太の隣りに潜り込む。
 その行為に浩介はまた小さな溜息を吐いたけれど、もう何も言わなかった。



「おやすみ、浩介」



 千晶が優しく微笑む。
 浩介はその微笑に笑い返してから、そっと部屋の明かりを消した。



「…おやすみなさい」



 明日は少しだけ、いつもと違う景色を見れそうだ。




そして僕は途方に暮れる。


続きを読む

震えた指先

 




 ねえ このハグはいったいどんな意味?



 声が出ない。
 ジャケットの冷たさと、抱き締める腕の強さに戸惑った。
 桐島の唇が、あたしの旋毛をなぞって耳元に近付く。
 その一瞬、桐島の吐息が耳元で震えて。



「……ありがとう」



 呆然と桐島を見上げると、彼は曖昧な笑みを浮かべてヘルメットを被った。
 そして無言でバイクに跨がり、エンジンをかける。



 ねえ、まさか嘘でしょう?
 ねえ、桐島。いま、なんて、



 なんて、



「…桐島、」



 掠れた声で名前を呼ぶと、彼は肩越しに振り返り、優しく笑ってみせる。
 メット越しに笑う桐島はひどく、ひどく、遠く感じて。


「おやすみ」


「桐島、」



 今にも帰りそうな雰囲気の桐島の腕を慌てて掴む。
 その腕は微かに震えているようだった。
 ねえ、桐島。どうしたの、いつもみたく笑って。
 そんな顔であたしを見ないで。
 あのひとに、――なるちゃんにそっくりな眼差しで、表情で、あたしを、



 そんな切ない顔で見ないで。



「‥‥きてくれて、ありがと」



 ぎこちなく笑ってみたけれど、どうしても言葉は掠れてしまった。
 桐島が笑う。そっと腕から手を離した。



 一歩離れた瞬間、桐島のバイクはあっという間に遠のいて。
 あたしはどんどん小さくなる背中を見つめながら、自分が泣いていることにぼんやりと気が付いた。



 ねえ、桐島。
 どうして笑ったの。
 どうしてあたしに会いにきたの。
 どうしてあんなハグをしたの。どうしてどうしてどうしてどうしてどうして、



 どうして、あんな切ない顔したの。



「‥ねえ、桐島ぁ」



 顔を覆って、低く呻く。
 ふわりとライオンハートが爽やかに香って。
 その時、あたしはようやく震えていたのは桐島ではなく。



 あたしの手が震えていたことを知った。




震えていたのはそう僕の手の方だよ



続きを読む

ハロー! 応答願います。

嬉しすぎる><


浪路さまに捧げます。



※またもや勝手なコラボです。
似非すぎてすみません。
添付は浪路さまにいただいたタローはぴばイラです。
本当にありがとうございます浪路さまー!
そして文中の馬鹿発言を許してください…すみません…。



続きを読む

引き際は心得ていた。

 




※ちょっぴり18禁です。
リア友はぜったいぜったい読まないでー読まないでー特に相方さん読むなー!
浪路さまの素敵なお話に触発されました。
静くん……(´□`)
とあるエロシチズムボーイに恋した女の子の話。



続きを読む

青春ララバイ

 




 三月は嫌いだ。
 一年の中でいちばん、寂しい月だから。
 さびしくてかなしくて、壊れてしまいたくなるから。



「誕生日おめでとう、タロー」



 なるちゃんが優しく笑いながら、俺の髪を撫でた。
 俺はその温かくて大きな掌の心地良さに目を細める。
 今日は、俺の誕生日。
 毎年、この日だけは必ずなるちゃんと過ごした。



 けれども、今年は。



「ごめんね、もう行かないと」


「うん、いってらっしゃい」



 なるちゃんが申し訳なさそうに笑う。
 俺はちょっとだけ困ったように笑い返した。
 なるちゃんは今日、どうしてもバイトへ行かなくてはならない。
 人手が足りないからと、急に頼まれたらしい。



 ひとりは嫌だった。けれど、我が儘を言うのはもっと嫌だった。



「ちゃんと帰ってくるよ。明日、どっか行こう」



 なるちゃんはくしゃりと俺の髪を掻きまぜると、慌てた様子で出て行った。
 鍵をかけて振り返ると、ガランとした部屋が視界に映る。
 テーブルの上にはなるちゃんがプレゼントにくれた香水がある。
 けれど、誰もいない部屋はひどく寂しくて哀しかった。


「‥‥もう子どもじゃないよ」



 ぽつりと囁く。
 子どもじゃない。
 けれど、大人でもない。
 解っているけれど、解りたくない。
 大丈夫。なるちゃんはちゃんと約束を守ってくれる。
 ちゃんとそばにきてくれる。
 だから、待っていよう。



 ソファに腰掛けて、香水を開けた瞬間、あのひとの顔が浮かんだ。
 なるちゃんたら、わざとなのかな。
 心臓がどくんと脈打つ。
 あのいつも強気で、でも無防備で、本当はすごくさみしがりやな女。



「‥‥ゆの‥」



 あいつを好きになってから、俺はいったい何を得ただろう。
 恋なんて、愛なんて、いちばん知りたくはなかったのに。
 どうして、こうもあいつの顔が浮かぶのだろう。



 時計を見やる。
 時刻は20時を過ぎたところ、着く頃には21時を周るだろう。
 俺は、ヘルメットを抱えて外へ飛び出した。



 なるちゃんがあいつを、湯野を好きなのは知っている。
 湯野も同じように、なるちゃんを好きでいる。
 けれどお互いに近付きはしない。
 だから好きになってしまったのかな。
 だから諦めてしまえないのかな。
 考えはただ、巡るばかりで。



 エンジンを止めて、湯野の部屋を見上げる。
 湯野にしては珍しくバイトが休みだったようで、窓からは皓々とした明かりが漏れていた。



 湯野の番号をコールする。
 数秒の呼び出し音の後に、湯野の声が聞こえた。



『もしもし? 桐島?』


「……、もしもし?」



 心臓がどくんと騒ぐ。
 この心臓を満たす気持ちはいったいなんだろう。



『なに、珍しいね。桐島が電話してくるとか』



 湯野がけらけら笑いながら囁く。
 俺はどうしようもない息苦しさに小さく息を詰めた。



「声。……声、聴きたくなったって言ったら、信じる?」


『あーはいはい、寂しくなった?』



 湯野がますます可笑しそうに笑う。
 普段あれだけ喧嘩しているのだから当たり前かも知れない。
 けれど、そのたった一言がひどく、あたたかい。



「‥ねえ、窓の外見てよ」



 ぽつりと呟くと、電話越しに湯野が戸惑った反応をした。
 衣擦れの音の後にカーテンがそっと開かれる。
 湯野のひどく戸惑った表情へ小さく手を振った。



『え…えぇえ!? ちょ、待っ、ちょっと待ってて!』



 その一言を最後に電話越しからドタバタとやかましい音が響く。
 どうやら慌て過ぎて電話を切るのを忘れているらしかった。
 くすりと、自然に笑みが零れる。



「き、桐島?」



 携帯を握り締めたまま、階段の踊り場から湯野が顔を覗かせた。
 僅かに頬が紅潮しているのは風呂上がりなのだろうか。
 通話を切ってポケットに入れる。
 ねえ、なるちゃん。
 今日だけ、今日だけは許してね。



「びっくりした?」


「……寿命が百年縮んだ」


「……あんた、あと何年生きるつもり?」



 階段を降りながら、湯野はいちまんねーんと馬鹿丸出しな答えを怒鳴る。
 こんな馬鹿を好きになった俺は相当な馬鹿かもしれない。



「ところで桐島、何かあったの?」



 湯野が何気ない顔でそっと尋ねた。
 俺は小さく笑って首を振る。
 好きだと言えたら、どんなに楽になれるだろう。
 けれど言わないのは、言ってしまったらきっとこの女は壊れてしまう気がして。



「そっか」



 湯野が優しく笑う。
 作り笑いだって解っているのに、ちっとも嫌じゃなかった。
 心配してくれているのが、解るから。



「ねえ、湯野」


「ん、何だい?」



 一言。たった一言が言えない。
 好きだと言ったら、欲しくなる。
 本当は言わなくても。
 なるちゃん、早く奪っちゃってよ。
 こいつを迎えにきてやって。



 じゃないと、おれ



「目つぶってくれない?」



 湯野が怪訝そうに眉を顰める。
 けれど、そっと目を閉じた。



「十秒、俺の好きにさせて」


 そう言い放って、湯野の小さな身体をそっと抱き締める。
 早春の空気に冷やされて肌は僅かに冷たいが、どこか温かい。
 そう感じた瞬間、ひどく安心して。



「――――」



 唇をそっと動かす。
 声にはしない。結果は見えている。
 ねえ、聞こえた?
 湯野。湯野、俺はあんたが、あんたのことが、



「‥‥ありがとう」



 かっきり十秒後、俺は湯野を手放した。
 そしてフルフェイスのメットを被り、バイクに跨がる。



「…桐島、」



 湯野が呆然と俺の名前を読んだ。
 俺はメット越しに笑う。
 伝わればいいのだ。僅かでも、少しでも、あんたに。



「おやすみ」


「桐島、」



 湯野が縋るように俺の腕を掴む。
 ライオンハートがふわりと香った。



「‥‥きてくれて、ありがと」



 湯野が微笑む。俺も笑った。
 エンジンをかけて、出発する。
 湯野の横を通り過ぎる瞬間、湯野が泣いた気がして。



 それでも、俺は止まらなかった。



 なんだろうか、ひどく、目が熱い。
 頬を熱くて冷たいものが伝い落ちる。
 寂しくはない。苦しい。
 心臓が痛くて、痛くて、壊れてしまう。



 ああもういっそ、



(すきだすきだすきだ、でもあんたがすきだから言わないよ)






続きを読む
前の記事へ 次の記事へ
カレンダー
<< 2009年03月 >>
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31
アーカイブ