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愛とは祈り、もしくは許しに似たいきもの






ずっと、ずっと昔から思っていた。
自分はどこまでいっても、誰かを真に理解することも、しようともしない。
求められるままに与え、疎ましくなれば切る。それで充分だった。
あの、どこまでもどこまでもお人好しで、泣きたくなるほど優しい女の子を見つけてしまうまでは。



本当は、鳴海のもののはずだった。それでもだめだった。欲しくてたまらなかった、我慢出来たはずなのに。
俺は初めて、ただひとつのものを見つけたのだ。




「………タロー。そんなにスマホ見たってすぐには産まれないぞ」



客そっちのけでスマホをガン見する従業員に、川橋は溜息混じりに注意する。
確かに帰してやれないのも申し訳ないが、このご時世に立ち会い出産が叶うはずもなく、家にいたって落ち着けるはずもないので、こうして出勤させたが間違いだったかもしれない。
先程入荷したばかりの半衿を検分しながら、川橋はもう一度溜息を漏らした。
注意したって無駄なのは解っていた。現に1ミリたりとも動きもしないし、返事もしない。



「……こーすけ、じゃない。若、ごめん」



きっかり三分後、はっと我に返ったのか、タローは恐る恐る川橋を振り返り、謝罪を口にする。
その間に半分以上、終わってしまった検分済の半衿が入ったダンボールを川橋はそっと渡してやった。
いつもはこうじゃないし、こうなる理由もよく解る。
その理由は先程から握り締めて離さないスマホに届いた一通のメッセージだった。
先程、彼の恋女房から陣痛が始まったと連絡があったのだ。




「いい。そうなる理由はよく解るし、俺は貴巳と湯野からお前を見張ってくれって頼まれてるからな…」



「加那は解るけど貴巳まで頼んでたの…」



「お前は湯野のことになると、人が変わる」



ぴしゃりと言い放つと、タローはますますしゅんと肩を竦めながら、半衿を棚に整理し始める。
反論しないところを見ると、自覚はあるらしい。賢明な心構えだと思う。
まだ19になったばかりで人の親になるのだ。
タローにしろ、湯野にしろ、まだ心の準備なんてものは出来ていないだろう。
それを抜きにしたって、湯野が妊娠したので専門学校を辞めた、とまだバイトであったタローから聞かされた時は本当に薄ら寒い気持ちになったものだ。
絶対に逃さないつもりでやったはずだ。そうに違いない。
聞くのも恐ろしくて本人には確認していないが、安定期に入った頃に湯野に会った時、彼女の無言の訴えを川橋は見逃しはしなかったし、あまりに哀れでかける言葉も見つからず、無言で出産祝いの肌着を渡した。
その時の湯野のどこか諦めの入った、しかしながら幸せそうな顔は忘れようもない。




「立ち会いしたかったなあ」



「お前からそんな台詞聞くと思わなかったぞ…」



「加那に退院するまで会えないんだよね、本当コロナ死んでほしい」



看護師たらしこんで、許可とろうとしたら加那に怒られたんだ、と溜息混じりにタローが呟くので、ことさら川橋は薄ら寒くなった。
確かに湯野と貴巳は正しい。この男を今家に帰したら、絶対に病院に忍び込むに違いない。




「ウィルスに死ぬも何もないし、仕方ないだろう。ほら働け」



「加那や貴巳と同じこと言わないで。飯田が出産する時は若だって俺の気持ちがわかるよ」



「解ったから、お前は店内掃除をしろ。今日は品に触るな」




不貞腐れて唇を尖らせるタローに、川橋はその頃にはコロナも落ち着いているし、面会できるようになってると思うとは言わなかった。
まだ午前中だが、無事に今日出産が終わることを願わずにはいられない。
明日もこんなポンコツ状態の男を働かせるなんて、勘弁してほしい。
タローが棚に整理した半衿はすべて種類がごちゃ混ぜに仕舞われていて、彼はそれに全く気付いていない。
結婚や子供が産まれるとなって、まあよく働くし、と思って正社員にしたが、減給してやりたい気持ちを抑えて、時計を見る。
早く産まれて欲しい。心底思いながら、川橋は溜息をついた。




「よお、川橋。監視ありがとっヴ?!」



昼下がり、貴巳は悪びれなく店先に現れた。
その頃にはひたすらタローのフォローをしていて疲労がMAXだった川橋は無言で貴巳のつま先を踏みつける。
高校を卒業したあと、バーレストランでバーテンダーを始めた彼はさらに女たらし感が増しており、それがことさら川橋の苛立ちを煽った。




「何の用だ、貴巳」



「いやあの…どうせタローが大変だろうと思って手伝いに…」



「賃金はないぞ。最初からお前があいつを椅子にでもしばりつけておけよ」



「うわあブラック企業」



相当痛かったらしく、うずくまったまま軽口を叩く貴巳を睨めつける。
彼ははーあと深いため息をつきながら立ち上がり、さてと呟いた。




「どうせあと2時間で閉店だろ? タローに酒飲まして、今日は俺ん家連れて帰るよ」



貴巳の台詞に川橋は無言で頷いた。さすがは貴巳である。仕事終わりにバイクで病院に向かう可能性すら潰すつもりらしい。
そこまで周りにされるタローもタローなのだが。
と、そんな時だった。背後でがったん!と派手に何かが倒れる音がした。




「今度はなんだ!次に備品壊したら、お前減給だぞタロー!!」



「今日1日で何壊したんだよタロー…」



川橋が慌てて店内に駆け戻っていく後ろ姿を眺めながら、貴巳は店内に散りばめられた美しい装飾品たちを思い出す。
川橋の家が営む呉服店は言っちゃなんだが、高級店だ。額ももちろんそれなりである。
壊れたものが事務用品とかだったらいいな、と川橋に向かって心の中で合掌した。



「若、違う。椅子倒しただけで…それより聞いて」



店内に戻って見たものは椅子ごと床にぶっ倒れて放心するタローの姿だった。
あの、クール、無関心、無感動の三拍子揃った彼が椅子ごと床に沈む姿は何とも滑稽でさすがに川橋も貴巳も思わず固まった。
しかし当の本人は全く気にならないらしく、そのままの体勢でスマホの画面に釘付けである。



「なんだよ、というか起きろよ…」



「産まれた。女の子。俺、もう帰っていいかな」



川橋がはっと我に返って、タローに手を差し伸べる。タローはその手をとりつつ、なんでもないような口振りでサラッと告げた。
………時が、止まった。



『……はぁあ?!』



「うるさっ、え、何2人してどうしたの」



「えっなにその急な落ち着きぶり。つーことはさっきはびっくりして椅子ごと転けたの?」



「うっさいんだけど。ていうかいつ来たの貴巳」



「お前はいつ何時でも俺に冷たいなタロー」



通常運転のタローに戻り、川橋は安堵混じりの溜息を漏らした。
普通、産まれたあとの方がドタバタしそうなものだが、そういうものなのだろうか。



「まあ今日はいいだろ…そこ片したら、上がっていいぞ」



これ以上の被害が出ないと解り、川橋はそう言ったが、貴巳は首を横に振る。
不思議に思って貴巳を見ると、彼は心底呆れ顔で湯野とのメッセージのやりとりを俺に見せてくれた。



『退院するまで面会出来ないんだけど、絶対無理やり来るから悪いけど今日から4日間、面倒見てください』



ご丁寧に土下座する猫のスタンプまでついていた。さすがは嫁、だてにこの男に振り回されてきていない。
心底呆れ返る川橋をよそに、しらっと仕事の後片付けを始めるタローに貴巳はものすごいいい笑顔で詰め寄っていく。
あれは相当怒っている。しかしながら、それがタローに通用するだろうか。


「お前なあ!そういうとこだからな!まじで!高校卒業してまでお前らカップルの世話をいつまでやらせるつもりだよ!」



「あーうるさい。別に頼んでないし」



「お前の嫁に泣きつかれてんだよ!そのねじ曲がった独占欲と愛情マジでどうにかしてくれ!」



「何度も言うけど個人メッセージのやりとり本当にやめてくれない? 本当に俺嫌なんだけど」



「だからそれだよ!その独占欲!やめろ!」



最終的には笑顔もすっかり剥がれて、さらっと受け流すタローを正座させてこんこんと説教が始まっていた。
……一応、店先なのだが、もう何も言うまい。どうせ今日は予約もないし、在庫の整理が目的だったのだ。終わってないけど。




そこまでつらつらと考えていた川橋はふと、いつかの寒い春先の出来ごとを思い出す。
いつまで経っても、報われない二人だと思った。
お互いに必要としていたのに、お互いに踏み入らず、遠巻きに相手を見ているような間柄。
哀れで哀れでたまらなかった。ともすれば、苛立つほど。




そんな二人がこうして結婚し、子供を授かると思うと、何とも言えない幸せな気持ちになれた。
きっと、やっとあの女は何かを許すことが出来たのだろう。
そうして、やっと必要なものを欲しいと言うことが出来たのだろう。
ふと、タローのスマホ画面が目に入った。そこに映っていたのは、産まれたばかりの赤子を抱きしめて、涙目で微笑む湯野で。




「……よかったなあ、」




あの、いつもどこかで他人に線引きしていたあの子がやっと幸せになるのだ。
今日くらいは、大目に見てやろう。今日だけは。




「……ああもう。お前たちがうるさい」



「ねえ片付いたから、俺帰るね。こーすけ」



「お前が帰るのはおれんち!バイクは禁止!湯野から言われてんだろが!」



「今日はうちに泊めてやるから…二人とも本気でそろそろ静かにしてくれ……」




注意すればするほど喚く二人に、川橋はそろそろ1本もらっておくかと思ったとか、思わなかったとか。




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ハローベイビー!




2020/11/15
明日、誘発剤使って分娩に臨むわけなんですけど。
怖くて死にそうなので、この続きは産んだら書きます怖ぇよお怖ぇよお…

きみがどうしてもほしかった





『それじゃあ、唯くんまたねえ?』



アミを自宅近くまで送って、2人きりになった途端、本当に海里から表情の一切が消えた。
ケントメンソールを吸いながら、無言で車を走らせる。
海里の横顔を見ながら、俺はふと海里の車に乗ったのはこれが初めてなことに気づいた。



『…なあ、ほんとにどういうこと?そんなに俺を切りたいの?』




海里は本当に一切、俺に触らなかった。
半ばやけくそにアミを抱いていたけれど、時折、やってる最中に見せるような物足りなさげな顔はしていたが、本当に見るだけで何一つしようとしない。
アミがハナちゃんも一緒にしたい〜と言っても、ただ笑うだけだった。
海里は俺の問いに何も答えない。喋るのも面倒なのか、何となくふてくされた子供のように見えた。



『なあ、俺別にこんなこと頼んでない』


『わたし、妊娠したんだー』


『は?』



コントみたいな返答を俺がしたところで、海里はやっと今日初めて俺の顔をちゃんと見てくれた。
俺が初めてキスだけした日の、かわいい笑顔だった。



『嘘だよ。でも、それが答えでしょ?』



もう潮時なんだよ、と海里は言った。
そんなこと旦那と別れて俺と結婚すればとか、言おうとしてーーどうしても言えない俺が海里の言う答えだと思い知った。



『だって海里…』


『今日はやたらわたしの名前呼ぶじゃん、唯くん笑える』



普段一切呼ばないくせに、と煙草を灰皿に押しつけて、海里が乾いた笑いをあげる。
そうだよ、俺は海里の名前なんてひとつも呼んだことなんかない。
解ってる。解ってるよ、でも、でも俺は、海里。海里がいい。
俺の腕の中でひんひん鳴いて、蕩けた顔で俺がすきだとキスをする。
それが海里への好意でなく、ただの独占欲だと解っていても、どうしても海里がよかった。



『なんでだめなの』


『元々、1回寝れば満足すると思ってたんだよ』



元々、海里が積極的に会おうとすることは最初の気まぐれ以降、あまり無かった。
時々、甘えるように顔が見たいな、なんてメールを送ってきたかと思えば、次の日にはもうそろそろ会うの辞めない?なんて言ってきたりする。
つい先日もそろそろ彼女作りなよ、とやんわり拒否されたばかりだ。
海里の細い指先がハンドルを手遊びするようにぱたぱたと叩く。
彼女はすん、と小さく鼻をすすり、もう一本煙草に火をつけた。



『まあそんなわけないよね、でもさあ…やめられなかった』



彼女はふふ、と穏やかに声を立てる。その横顔はひどく疲れていてともすれば今にも消えてしまいそうにも思えた。



『だって、穴があるだけなのに求めてくれるんだもん』


『海里、』


『あたし、求められたかった。それだけでよかった、なのに唯くんのこと好きになっちゃって、馬鹿みたいに連絡待っちゃうの』




笑いなよ、馬鹿な女ってさあ。
まるで年老いた老婆のように掠れた声で海里は自嘲した。
深夜3時を過ぎた街はひどく静かで、車のエンジン音とオーディオから流れるボーカルの低い声がやけに耳障りだった。
ゆるゆると車が停車する。気がつけば、もう待ち合わせした駐車場だった。
既に店仕舞いしたコインランドリーの駐車場には俺の車しかない。




「着いたよ、降りて」


「まだ話は終わってないだろ」


「終わりだって。わたしはもう会わない、あのことよろしくやりなよ」



思わず身を乗り出した俺をあしらって、また海里は煙草を一口吸った。
もう俺の顔すらも見ようとしない。完全に拒否のポーズだった。



「……煙草消して」


「もう何も言うことなんかない」


「海里。消して」



強い語調で名前を呼び、ちょっと力を込めれば、折れてしまいそうな彼女の手首を握った。
海里は一度深く息を吸い込み、苛立ちをぶつけるように灰皿へ煙草を放り込む。
そして俺に向き直ると、唇をきゅっと強く噛んで、震える声で囁いた。




「わたしから、これ以上、何をもらいたいって言うの?」



その科白はひどく静かで、いっそう俺の弱いところに鋭く刺さった。
それを誤魔化すように頬をすべらせ、海里の唇を奪うとメンソールの甘苦い味がした。



「ちょ…嫌だ何考えてんのやめて…っ」



そのまま海里の胸元に手を伸ばすと、息継ぎの合間に海里が嫌がって抵抗する。
それを無理やり制して、ニットの裾から手を忍ばせてブラジャーをニットごと無理やり押しあげた。
まろびでた胸を手のひらで強く揉むと海里が痛そうに顔を歪める。




「海里、ダメだよ」


「やだやめて痛い唯くん!」


「海里、」



海里の弱いところを擽るように愛撫する。ヒッ…と小さく息を呑む音がして海里の抵抗する力が弱まった。
海里の前髪に隠れる顔をそっと覗き込む。彼女はひどく怯えた顔で俺を見ていた。
あの、初めて俺が手を出した時と同じ、顔。
どうして? と怯えた眼差しが一瞬だけ俺の目を見て、さらに怯えてゆらゆらと目線が彷徨う。
先ほど吐き出したはずの欲がむくむくと沸くのを感じた。体の中心に熱が集まって、海里をひどく犯したい衝動にかられる。



「なあ、俺から離れられんの?」



自分でも、驚くほどひどく冷たい声が出た。途端に俺の顔の上を彷徨っていた視線がぱっと逸らされる。
その仕草に図星なのだと思ったと思う。海里は俺に惚れていて、やっぱり無理だと泣いてほしかった。
……のちのち、海里にしたことを思い出して、俺はそう思った。
離れることが、海里からの最後の愛情だったのに。
俺の声の余韻が消える頃、ようやく海里が震える声で何かを言った。
聞き取れなくて、首を少し傾げる。今度は、はっきりと聞こえた。



「…さっさと済ませて…」



聞き取れた言葉に少しだけいらついた。海里をもう一度、よくよく見つめると彼女は泣きもせず、怯えてもいなかった。
感情ひとつ入らない、人形みたいな顔だった。



「…んむっ、ん、んーっ」



征服欲だったのか、それとも苛立ちだったのか、それは今も解らない。
顔を背け続ける海里の顎を捕らえて舌を差し込んだ。硬く閉ざそうとする唇を舌で無理やりこじ開けて、思うままに貪る。
互いの涎に塗れた唇を舐めて、そのまま首筋に頬を埋めた。
海里はもう抵抗しなかった。目を閉じて、声を出さないように手の甲や、自分の人差し指を噛んで俺のなすがままになっていた。
海里の胸先を舌で潰して弄ぶ。唾液を垂らして、舌先で転がすときゃう、と子犬のような嬌声がこぼれ落ちた。
そのまま胸元に舌を伸ばしつつ、片手で海里のスカートをたくし上げて下腹部をまさぐると、下着の上からでも解るほどにそこは湿り気を帯びていて、俺は隙間から指を差し込んだ。



「え、や…っ、ァん、んーっ…」



くぷりと俺の指を飲み込んだそこは熱くうねって、指先を少し曲げるとコリコリとした肉壁に当たった。
そこをほぐすように指の腹で押すと、海里はびくびくと震えてますます強く己の手の甲を噛んだ。



「海里、かわい」



強く噛みすぎて歯型のついた手を奪い、キスをする。少し潤んだ目が俺を見て、もっとと強請るように舌を伸ばす。
彼女の少しずつ理性のタガが外れるさまはいつもどうにも艶かしい。
つい口の端が緩む。伸ばされる舌に応えながら、もう下着の意味をなさなくなったそれを脱がせて、自分のベルトに手をかけた。
服を弛めて飛び出してきたいきり立つそれに海里の手を触れさせて、扱かせる。
ひりつくような快感に腰が意識なく動いた。



「海里、」



名前を囁く。それだけで海里はなめらかに動いた。
シートから身を乗り出して、俺の膝の間に顔をうずめる。喉奥まで俺の自身を飲み込んで、舌を使った。
海里の髪が動く度にさらさらと流れる。熱に浮かされたような顔で必死に俺を責める様はどこまでもエロかった。



「…ぁ、海里、きて上乗って」



ペロペロキャンディでも舐めるかのように、丹念にしゃぶりつく海里をしばらく楽しむと、そっと止めて腕を差しだす。
海里の顔にはもう快楽しかなく、それでも羞恥心は残っているようで、戸惑うように身じろいだ。
早く、と視線で促すと彼女はおずおずと俺の上に跨り、ゆっくりと腰を沈めた。
避妊具のことなんて頭にもなかった。早くこの女の中に入りたくてたまらなかった。



「あ…っ、や、や、今動いちゃ、あっ」


「は…気持ちいー…」



沈めきる前に腰が動く。ぬるつく中がひどく熱を持って、俺の自身を締めつけてくる。
反射的に逃げようとする海里の腰を押さえつけて、最奥部を責めた。



「だめ、や、やら…っゆいく…ヒッぁ」



突けば突くほど、嬌声がこぼれ、海里の潤んだ目尻から涙が零れた。
快楽に歪む顔が可愛くてたまらなく、動く度にぷるぷる揺れる乳房を舌先で虐める。
すると海里は子供がするように首をイヤイヤと横に振って、呂律の回らなくなった口でキャンキャンと鳴いた。



「や、らめ、一緒にしな…でっや、やだぁ…あァっ」


「きもちーの?ねえ」



耳元で囁くと、海里がこくこくと必死に頷く。伏し目がちに俺を見つめるその眼差しは熱っぽく潤んでいて、先ほどまでの冷たい態度が嘘のようだった。
質問に答えやすいようにゆるゆるとした動きに変える。
彼女はは…と小さく息を切らせて、猫のように俺の首筋へすり寄った。



「…きもち…、」



そこで言葉は途切れた。ぱた、と生温かいものが胸元に落ちる。
さらさらと流れる海里の髪の毛が少しずつ湿ってゆく。
ぽろぽろと声もなく、彼女が泣いた。
その事実に気づいて、さすがに行為を止める気になった。けれど。



「…っちょ、海里動くなって、ん、」


「あっ、そこ気持ちっん、ァあ」



俺の首に腕をまわして、海里がめちゃくちゃに動きはじめた。
耳元でこぼれる吐息と予測出来ない快感も相まって、急速に限界が近づいてきて、焦る。



「ゆいくん…すき…ゆいく…んっ、」


「海里だめだって、イきそうだから…ッ」




海里は既にびくびくと震えて、限界を超えているようだったが、時折俺の頬を包み込んでは触れるだけのキスをする。
もう限界だった。



「あ、いく、ッ」



ギリギリで引き抜いて吐精した。海里の太ももを白いものが汚す。
互いに息を乱したまま、どちらともなくキスをした。
啄むだけのキスを交わして、ふにゃふにゃになった海里を抱き締める。
行為後の海里はいつも甘いシャンプーの匂いと微かな汗の匂いがした。
口許が寂しくて、海里の首筋に口づける。
ふにゃふにゃな海里は何をしても無抵抗だった。
ティッシュで綺麗にしてやると、大人しくしていた。いつもなら嫌がって、うーうー唸るのに何も言わない。
解っていた。これが最後だ。



「……煙草吸ってい?」


「…いいよ、」



ポケットからごそごそとライターと煙草を取り出す。
カチリと火を点すと、甘苦い煙が車内に細くたなびいた。 海里が無言で窓を少しだけ開ける。
春先のまだしんと冷たい空気が滑り込んできて、火照りの治まらない肌を冷やした。
すでに周囲はほの白く、もう幾ばくもしないうちに朝を迎えようとしていた。
終わりの朝だな、と静かに思った。



海里のぼうっとした表情を横目で見ていると、ふと視線がかち合った。
簡単に身なりを整えた海里は緩慢なしぐさでひとつ、ゆっくりと瞬いた。
それを皮切りにひとつ、ふたつと滴は眦からこぼれ落ちていくのに、海里はゆるゆると微笑んでみせる。
泣いている自分にも気づけないのか、そんなにまで歪めてしまったのは、他であろう俺に違いなかった。



唇がこわばる。嘘でも、何かしら優しい言葉を与えたかった。
望む言葉は違うのかもしれなかったが、その涙を止めたかった。
けれども、俺には何も言えない。言う資格がない。中途半端に夢を見せられるほど、俺は極悪人にはなれない。




「…ねえ、」




ふと、海里が口を開いた。鈴の鳴るような、柔らかい声。
どうせまた海里の職場に行けば会うことになるのに、離れがたい。



「ん?」


「……わたしのこと、忘れてね…」




そう言って、薄闇の中で微笑んだ海里に、俺はなんと声をかければよかったろう。
いつもなら強請ってくる手繋ぎや頭を撫でてなんて台詞はなく、俺は強請られもしないのにどっちもやって、なんならおまけにハグをしてから車を降りた。
俺を振り返らずに去っていく海里がふと、頬をぬぐうのが見えた。
それが海里を見た最後だった。



「…なあ、あのチーフの人休みなの?」




3週間後、海里の働くカフェに寄ると、平日には必ずいるはずの姿がなかった。
いつも仲良さげだった店員をつかまえて訊ねると、彼女はとても残念そうに眉をひそめてみせた。



「それがー…まあお知り合いみたいだからいっか!チーフ、赤ちゃんが出来たんです。それでちょっと早めに事務職の方に移られたので、もう店舗には出られないんですよー」




あの人の接客、ほんとに神様みたいなんですけどねー、と店員は本当に寂しそうに言った。
注文したラテを袋に入れながら、彼女はしみじみと海里との思い出話を俺にしてくれる。
それはすべて俺の鼓膜を通り過ぎるだけでひとつも頭に残らない。
店を出て、いつも海里の車が停めてあった場所を見る。
毎日いすぎて、もはや景色の一部になりつつあったのにそこは空っぽで、ますます海里の不在を際立たせた。
ふと、時間を確認する。次の取引先へのアポは何時だったか、と考えた瞬間、ぱた、と俺の手の甲に生ぬるい水が落ちてきた。
あれ、と思う。首を傾げて空を見上げるが、雲ひとつない快晴だ。
不思議に思いながら、車に乗り込んでバックミラーを覗いてーーーー自嘲が溢れた。
なあ、海里。ごめんな、俺どうしても、おまえがほしかった。
次のアポまでは時間があった。だから少しだけ。ほんの、少しだけ。


出来れば、ずっとつかず離れずでいてほしかった。
どうせ裏切られるのなら、俺のもんになんかならなくてよかった。
どうせ海里は俺を好きだから、なんだかんだそばにいてくれると思っていた。
別れたって、顔くらいは見れると馬鹿みたいに思い込んで。


何故だろう。海里は何度も俺に笑いかけてくれたはずなのに顔がもう思い出せない。
声すら、本当に合っているのか解らなくなってくる。
記憶なんて曖昧なものだ。あんなに抱いたはずなのに。
ただ最後のひとことだけが、合っているのかすら解らない声でずっと聴こえてくる。
……ねえ、わたしのこと、忘れてね……。
まるで、魔女の呪いみたいだった。



海里がいなくなって2ヶ月過ぎた頃、1度だけメッセージが来た。



『ごめんね、あいたいよ』……あの薄闇の中から届いた声のように感じた。
『俺も会いたいよ』とは返したが、すぐに『また送っちゃうから、拒否登録してね』と返ってきて、それきり。
嘘ではなかった。会いたかった。俺はまた一体何を間違えた?
いつ会える、とも言わなかった。SNSでは子供のエコー写真をあげて、つわりがどうとかお腹が痛いとか嘆いているのだけを知っていた。
もうそれ以上、海里を追えなかった。
次第に膨らんでいく腹を写した写真やエコー写真を何度も眺めた。
時折映り込む、少しふっくらとした頬の海里を見つけると安堵感すら感じた。
臨月の近づいた冬だった。ふと、俺は海里の腹の子は『どちらの子だったのか』という疑問を抱いた。
何故、俺はまだ海里のSNSを見ることが出来るのだろう。
海里は、どうして俺を拒否登録しないんだろう。ふと、まるで懇願にも似たひとつの可能性を思いついて、自分に吐き気がした。



海里が身ごもったのはどちらの子だったんだろうか。
まるで逃げるように消えた海里。本当は俺の子を妊娠していたのではと薄々思っていた。
なぁ、海里。頼むよ、お前は忘れてと言ったけれど、俺は忘れてほしくないんだ。
確かめようと思うのに、指先はひとつも動かない。
俺は改めて、海里の言葉の意味を思い知る羽目になった。




ごめんな、ごめん。海理。でも、俺どうしてもほしかったんだ。




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きみがどうしてもほしかった






あの日、あの店に行かなければ、俺はこの子をこうも歪めてしまわずに済んだのか。
煙草の煙の向こうで微笑む壊れた女の子を見つめて、ふと思った。



再会は本当にたまたまだった。
自宅近くに出来たコーヒーショップに立ち寄った時に対応した店員に見覚えがあった。



『なあ、どっかできみと会ったことない?』




そう訊ねると、店員のほうも困ったように笑いながら頷いた。




『わたしもそう思うんですけど、思い出せなくて…』



差し出されたカフェラテを受け取った際に触れた指先はひどくかさついていた。
胸元につけられた名札の苗字をちらりと盗み見てからまた来るわ、と告げた後、やけに気になってSNSで名前の検索をしたら、出身校が同じだった。
思わず友達申請をして、メッセージを送った。それが、一番最初。
高校時代は会話すらしたこともなかったが、彼女はやたらと明るかった。
趣味が似ていて、話していると穏やかになれた。
そうして少し…欲しくなった。
どちらかといえば、好意と言うよりも、好奇心の方が勝っていたと思う。
恋人がいるのは解っていた。
けれど、恋人と上手くいってはいないらしく、何となく彼女も好意的だったから、2回目の食事のあと、警戒心の全くない彼女を部屋に連れ込んで抱いた。
拒否はされたが、強く出られると断れないのは解っていたから、半ば強引に抱いて、何事もなかったみたいに解散した。
もう連絡はないだろうなと思ったら、普通にお礼メールが来て驚いたのを覚えている。
それから1年当たり障りなくメールのやり取りを経て、彼女の気まぐれをきっかけにちょくちょく会ってはセックスするようになった。
その間に彼女は人妻となり、俺は人妻とセフレになった。
別に、それでよかったわけじゃないけど。




待ち合わせ場所に行くと、珍しく彼女は遅れてきた。
車内で待っていたが、いつも俺の車で動くのにメッセージで降りてくるように指示される。
不思議に思いながら、車を降りて海里の車に向かうと何故か助手席に明らかに海里よりも若い少しけばけばしい女がいた。
なぜ、と思った。
俺が名前を呼ぼうとすると、彼女はしー…と悪戯っぽく笑ってジェスチャーする。



『唯くんお疲れ様。今日は後ろでもいい?』


『おん…別にいいけど、』




にっこり笑う海里に気圧されて、言われるがままに後部座席に乗り込むと、彼女は自分のことを俺の知らない名前で呼びながら、連れてきた見知らぬ女に馬鹿みたいに間延びした喋り方で話しかけ始める。



『ねぇ〜ハナねぇ、あそこの角の…ね、知ってる?アミちゃん』


『あ〜知ってる〜、じゃあそこにしよぉ』



綺麗だと有名なラブホテルの名前を口にして、彼女はにこにこしながら車のナビを設定し、ふと助手席に座る知らない女の頬へキスをした。
俺が思わず面食らう中で知らない女がやだなあに〜と騒ぐのに、海里は仕事中によく見せていた愛想笑いをして、いたずら〜と言った。




ふと海里が後部座席の俺を見た。それは見たこともない、初めて見た表情で、一切の感情が無かった。
交わった視線は直ぐに外れて、車が動き出す。
海里はアミと名乗る女にはハナと名乗っているらしかった。
海里は普段の無口で無表情とうってかわって、よく喋り、馬鹿みたいによく笑って、アミに俺をよく紹介した。
かっこいいでしょ?ほんとに優しくてね、仕事もすごく真面目だし、話もすごく面白くてね、なんて話していたが、俺は海里に仕事内容を話したこともないし、会話なんて最初のデート以降、ほぼ無いに等しい。
ただ解るのは、海里はアミの興味を俺に向けようとしていることだけだった。




週末の夜のラブホテルは割とすんなり入ることが出来た。
部屋に入るなり、女二人は手を取り合ってきゃーきゃー騒ぎながらキレイキレイとはしゃいでいた。
一通り騒ぎ終わって、気が済んだのか、海里は椅子にアミはベッドに腰かけた俺に擦り寄ってきた。
ますます俺は意味がわからなくて、アミの腰に回しかけた手を抑えて椅子に座って楽しそうにこちらを見ている海里に救いを求める。




『なあ、これどういうことなの?俺何も聞いてないけど』


『えーハナちゃん言ってないの?』



俺の首筋に腕を回しながら、アミも椅子に座った海里を見る。
海里はにこにこしながら立ち上がり、俺達に近寄ってきたかと思うと、アミの口元をくいと持ち上げ、舌を差し込んだ。
いきなりの暴挙に俺は思わず固まったが、アミは全く動じず、海里の舌に応えた。


『ン、んぁ、は…ァん…』


アミが吐息混じりに喘ぎ、とろんとした目で海里を見て笑う。
くちゅり、と濡れた音と共に唇が離れて、海里の笑っているけれど笑っていない瞳が俺を見た。



『ハナのセフレの唯くんをアミちゃんにあげるの〜』



時が止まったかと思った。



『はぁ…?』



『唯くんはあ、セフレが切れて欲しくないみたいだからぁ、ハナがね?ちゃーんと次のセフレ用意してあげたらオールオッケー!みたいな?』



で、今日は引継ぎみたいなもん、と海里は歌うように告げる。



『あ、アミちゃんはあ、唯くんに彼女いても全然OKって感じだからそこんとこ安心して?』



二の句も継げないほどに驚いて固まる俺をよそに、ね〜と2人は声を揃えて笑いあった。
冷静に聞いても、おかしな状況だった。新旧セフレの引継ぎなんか聞いたことがないし、前例なんかそもそもないだろう。
アミの魔女みたいな爪をした細い指先が俺の背中をスルスルとなぞる。
何考えてんだよ、海里。俺は、お前が、お前じゃなきゃ。
なあ、海里。どこ見てんだよ、いつものように俺を見て、切なそうに鳴いてくれよ。
かいり、と声もなく呟いた。海里が俺を映さない、暗い色の瞳で俺を見る。
ふいに彼女は花が咲くように笑った。



ーーーーそれは、見知った愛想笑いだった。



『今日は唯くんとアミちゃんのえっち見ててあげるね』




海里の見たこともないほど艶っぽい微笑みが合図かのようにアミが痺れを切らして、俺の唇を塞ぐようにキスをした。




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どこにいけっていうんだよ






おしりが痛い。
死ぬほど痛い、立とうが座ろうが寝転がろうが痛い。
そんな感じで8月中旬から先週半ばまで切迫早産で入院してました?
退院決まりかけた途端に、坐骨神経痛になるってなんなん?



あれ?なんか太もも痛いなー?と思ったら一瞬ですよ
寝返り打てないくらい痛くなって、寝転べないから座って過ごすけどお腹がめっちゃ張る…



最終的に自力で歩けなくなったので、医療麻薬まで使う羽目になって2、3日ほどわたしは地獄を見ました…いや世の中もっと痛いことあると思うけど正直いっそ殺せと何度か思いました。
医療麻薬もいてーんだ…筋注だから…



そして人生初のMRIまで撮り、看護師さんから地獄の解しも受け、(正直2番目に辛かった。人に触られるのもうトラウマになってる)、どうにか20メートルくらいは歩けるようになって退院したんですけど、まあいてえ。



退院して5日目ですけど、いまだに左足全体に痺れとおしりに鈍痛は常にあるし、同じ姿勢1時間もしたらもう痛くて立つのも辛いし、寝転がるとかもってのほかですよね。死を意味する。
そして歩けなくなったせいで足もものすごいむくむんですが、たまに感覚消えるの恐怖なんだけど…



ちなみにMRI検査の結果はヘルニアもあるにはあるけど、そこまでの痛みを引き起こす程の大きさでは無いらしく、単純に神経を圧迫されてるから痛いんだよね〜、産んだら治るよハッハッハとか言われて、いや、今治して?


帰ったら働けない分、せめて節約ご飯頑張りたかったんですけどね…
もう残りの雇用保険諦めて、なんかしらの内職するしかない…
なんというか、こんなに痛い思いして産むのか…と思うとことさらお産が怖かったり、夫氏にわたしのローンやら何やら全部背負わせることになったのもものすごい精神的ストレスだし、産む前から鬱々してます。



今年の医療費が既に50万超えてるのも恐怖…お産って…お産って…
まあ愚痴はいくらでも出てくるんですよね、しんどいので
とりあえず何とかせねば!なのでちみちみ頑張ります\(^ω^)/
出産予定日まであと2ヶ月きってるのも正直怖い…
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