ーー恋の駆け引き
陽菜side
別に
抜け駆けしないで、とか
ずるい、とか
卑怯者、とか
そんなこと言わない。思わない
だって、陽菜が同じ状況でも手を出していたかも知れないもん
『ニャロ、は…陽菜の好きな人ってさ。やっぱり優子?』
どこか不安げに困ったような顔で陽菜を見る麻里子
『わかってなかった?』
『半信半疑だったかな。友達としてかなって思ってる部分もあった』
そうだよ。だって陽菜はあからさまに《好き》って気持ちを出さないもん
もう麻里ちゃんにはばれちゃったから隠す必要もないけど
『気づいたらね?好きだった。そばにいてほしいって思うようになってたの』
話だしたら気持ちが止まらなくなりそうで、陽菜は一回会話を止める
溢れ出しそうな思いは伝える人が違うと思うし
『…そっか』
一言だけつぶやいて麻里ちゃんも黙る
たぶん、お互いに、必死。
疑惑のポーカーフェイス
なんて言われてるけど余裕なんてなさそうでそれぐらい優子を好きなんだなってわかってしまって胸がざわざわして仕方ない
『守りたいって思うんだ』
優子の頭にそっと触れながら話すの
『私がこの子を包んであげたい』
優しい眼差しを向けて優子に触れるから、ざわざわが大きくなって、本当ならやめてって手を払いたいのにできない
だって、わかるの
麻里子みたいな大人の女性に勝つためには陽菜だって本気を出さないといけないって。本能が騒ぐの
『陽菜は…陽菜だって優子のこと支えてあげたいから』
『できるの?ニャロに』
『できる。じゃないとこんな状況になってないって麻里ちゃんだってわかるでしょ』
『…陽菜、しっかりしたね。大人になったね』
そうだよ。陽菜だって好きな人のために本気になれるようになったの
だから一歩も譲るつもりなんてない
ちゃんとこの人に立ち向かえるよう、子どもっぽい恋愛なんてするつもりなんてない
『…んう、』
あ、起きちゃう
2人の会話がうるさかったかな?
優子の目がゆるゆると開いた
『…んあ。あ、れ…?』
『起きた?ごめんねうるさかった?』
『んーん。あたし寝てたあ?ごめんね?』
優子は体を起こす
自分が下着だって気づいたら、また脱いでたー?なんて呑気なこと言っちゃってさ
『麻里ちゃんもにゃんにゃんもなにしてたの?』
『ゆっぴー鑑賞会、かな?』
『いやーん。いやらしいことしないでよー?』
なにも知らないで言うんだから…
へらへら笑いながら空気を凍らせてるのわかってよ、もーばかばか
『優ちゃん、お布団ある?』
『お布団?』
『うん。陽菜と麻里ちゃん一緒に寝るからお布団』
『ん、えっ。2人で寝るの?あたし1人?』
『優ちゃんのベッドだし。疲れてるでしょ』
眉毛をすごく下げて寂しそうに陽菜を見る
うっ…そんな顔で見ないで
仕方ないじゃん。麻里ちゃんの気持ちを知っちゃって一緒に寝かすほど陽菜はばかじゃない
『篠田と2人で寝るって手もあるよゆっぴー』
なのにこの変態はまた変なことを言い出すから思いっきり睨んどいた
『んー三人で寝る…』
『狭いよ』
『くっつけばいいもん』
『でも、うん。でもね?』
『にゃんにゃん、あたしと寝るのいや?』
えっ…
な、わけないじゃん!
『嫌なら麻里ちゃん真ん中にしよ』
優子の爆弾発言に心臓が止まるかと思った
麻里ちゃんを見ると同じように固まってる
なんてこと言い出すのこの子は
『…そう、する?』
『だめ!!それなら陽菜真ん中』
『いやいや、篠田が真ん中になるよ』
『ほんっと、無理。優ちゃん陽菜は優ちゃんと寝たくないとか思ってないから』
『…ほんと?』
もーどうすれって言うの
そんな泣きそうな顔されたら諦めて三人で寝るしかないじゃん
てか必死な自分に笑えてくる
もーだめだ。陽菜ははまっちゃってるんだ
『にゃんにゃんと麻里ちゃんと寝る』
結局その日、陽菜と麻里子はほとんど寝付けなかったと思う
口論の末、優子が真ん中になったから優子が寝返りを打つたびに心臓が跳ねておかしくなりそうになる
ほんっとにお願いして服はきてもらったけど
『ニャロずるい』
隙を見て密かに優ちゃんを抱きしめたら麻里ちゃんが不満そうに優子の背中にぴったりくっつく
『ちゅうしたくせに。ばーか』
『ははっ。恋はスピード感大事ですから』
『負けないからね。陽菜』
『…私の台詞ね』
やっかいな人、ライバルだなあ
優子の体に密かに触る変態美人を監視するのに気を抜けない一夜だった