−−あたしのだから
優子side
『小嶋せんせ〜』
遠くから聞こえた声にぴくりと耳を澄ますのと首を思いっきり振り向かせるタイミングは同じだった
『なに?』
『せんせー今日も綺麗だなあ』
たまたま廊下を通った小嶋先生とかっこいい系の身長170センチはあるだろう女子があたしの10メートル先に
『なっなっ…』
『はいはいゆっぴー。ヤンキー通り越してヤクザ顔だよ』
『優子まずいって。お願いだから暴れないでね』
あたしが本気を出したら一瞬でそこまでワープして一瞬でおまえをぶっ飛ばせるんだからな!
でもあっちゃんのお願いだから仕方なしに我慢してやってんだぞばっきゃろおー!
視界の隅には笑うまりちゃんと焦るあっちゃん
心の中はふつふつと…
なんか出てきそうだなこりゃ
『先生って彼氏いる?』
『いないけど』
『え?まじ?やっば、今度さ』
あたしの目はその瞬間きっと開きすぎるほど開いたと思う
『うあああ〜!!なにしんんんん!!!んー!』
『ゆっぴーお腹痛いって!?大変だ!トイレ行かなきゃ!』
廊下中、いやもしかしたら学校中に響いたかも知れないあたしの怒りの雄叫びをまりちゃんの右手に制される
んー!んー!言いながら体を持ち上げられるように引きずられるけどびっくりしてあたしを見てるあの女と陽菜からは一切目を離さなかった
『はあ!はっ!うおらあいつ!!』
『待った待った!ゆっぴー落ち着いて!』
空き教室に入ったらやっと息をさせてくれた
『まりちゃん!あいつ、あいつ…!』
(腰に手を回しやがった)
しかもがっちりと
『殺す』
『待ったゆっぴー!ゆっぴーは先生と付き合ってるわけだし、それ以上だって』
『だからって触らせないよ!あたしだけの特権が!』
『そうだけど騒ぎ起こすわけにはいかないでしょ…ばれたらどうするの?』
わかってるけど!
けど、あたしのなんだよ
だから…だから学校で見るのはいやなんだよ
『…はあ。まりちゃんごめん。止めてくれてありがとう』
『いーえ。きっとあっちゃんが周りにフォローしてくれてるし大丈夫だよ』
『あっちゃんにもありがとうって言っといてよ』
あの廊下に戻りたくなくてあたしはしばらく空き教室にこもることにした
まりちゃんはよく頑張ったってあたしを誉めてくれて教室を出ていった
『あ〜もー』
ほんといやになる
小嶋先生小嶋先生って学校内で人気者すぎるんだ
男からだけじゃなくてギラギラした女子生徒たちがああやって簡単にタッチする姿を何度見ればいいんだよ
(もてるからな…)
陽菜はほんと、尋常じゃなく
『だあ〜!!!』
『優子?』
『えっ?あ、はる…小嶋先生』
後ろを振り向くと追いかけてきてくれたのか陽菜が立っていた
学校では小嶋先生と言わなきゃいけないのも今はすごく歯がゆい
『びっくりした。声』
『ん、すいません』
敬語もやだな
ほんとめんどくさい
本当ならあたしのだって叫びながら学校中を走り回りたいぐらいなのに
『怒ってる?』
『怒ってないよ』
『ごめんね』
『はる…!うーあ、先生は悪くないじゃん。あたしがガキだから。逆にごめんなさい』
ゆっくりとした足取りで近づきあたしの目の前で立ち止まる
『いっぱいがまんさせてごめん』
ふわりと陽菜の匂いがして、あたし抱きしめられてるんだ
『ちょ、まずいよ。見られたら』
『んーいい』
『よくはないでしょ!』
『だって優子が不安になるのやだ』
あたしを思いっきり抱きしめたまま思いっきり甘い声でそんなこと
『…陽菜に触んなよな』
『うん』
『あたしのなのに』
『うん』
『もーあたしちっさいね』
『そんなことないよ』
陽菜の手がゆっくりとあたしのほっぺを撫でてくれる
安心する
この手はどうしてこんなに優しくあたしに触れるのかな
『陽菜は優子に愛されてて嬉しい』
かわいいなあ…ほんと
好きだよ陽菜
伝えたい本音は胸の中に押し込んで
きっといま言葉よりも必要なものがあるでしょ
『わっ!んんっ…』
やっぱりちゅうしながら学校中回るかな
腕を引っ張ったらよろけた陽菜を抱きしめてなにもかも忘れてキスをした