ー暑いのは嫌い



『あっつ...』



東京は暑い
今日だって真夏日ってやつで気温は30度を超えている
家から徒歩10分
たったの徒歩10分が地獄に感じる



でも10分後、そこには天国が待っている



『あーー涼しい』
『あ、おはよ。小嶋さん』
『おはようございます。今日も暑くてやばいんですけどー』
『ねー店の中は涼しくていいよね』




朝9時30分
お店の先輩と挨拶を交わし、いつもの様に暑いですねと会話をする
7月の後半から朝はいつもこの会話が決まり文句になっていた
お店のクーラーが10分間の地獄をまるで無かったことにしてくれるのも毎日の日課



(ウィーン)



自動ドアのドアが開いた



『いらっしゃいませ』
『あの、初めてなんですけど』
『ありがとうございます。ではご記入して頂きたい事があるので、こちらにどうぞ』




長くやっているから慣れたもの
いつもの台詞と、営業スマイルでお客様の対応はもう完璧になった



朝10時にお店はオープンする
今日一番乗りで来たお客様はご新規様
目をキョロキョロとさせて、どぎまぎって表現が似合う、綺麗な女の子



(あー、高校生ね)



丁寧な字で数字が書かれ、高校生って事がわかった
見た目が綺麗だから、大人っぽく見えて、大学生かな?なんて思っていたけど、そこはさすがこっちの子
服装もお洒落にしていて、髪も綺麗なロングストレート




『ネイルサロンは初めてですか?』
『はい。自分で家でやった事はあるんですけど、上手に出来なくて...』
『あー難しいですよね。高校三年生?学校は大丈夫ですか?』
『いま夏休みなので、羽目を外そうかなって』



その子は恥ずかしそうに微笑んだ
そうか、夏休み
いい響き
陽菜だってあのうんと長い夏休みをもう一度味わいたい
社会に出てから、一ヶ月以上も休みがあった学生時代はどれだけ幸せだったんだと痛感している




『羽目、外しちゃいましょうね』
『はいっお願いします』
『じゃあどんな風にしたいか、イメージはありますか?』




目の前にいる綺麗な女の子は好きな色はピンク、でも白も好き
大人っぽいネイルをしたいと、嬉しそうに話してくれる




(夏休み、かー)




いいなー
陽菜も一ヶ月ぐらい地元に帰りたい
お母さんのご飯を食べて、DVD見て、寝て




それからー




『はい。じゃあ、イメージは決まったので早速ネイルに移りましょう』
『はい!』
『お時間は大丈夫ですか?』
『あ、この後ランチがあるので』
『わかりました。あんまり時間を掛けないようにしますからね』




お願いします。と笑う顔はやっぱりまだどこか幼さが残っている



(優子、元気かなー)




その子の見せた幼い顔があの子と重なる
今年は地元に帰れるから会うのが楽しみになっていた
偶然、目の前の綺麗な女の子も高校三年生だと言うから、頭の中の片隅で優子の事を考えてみる




(変わってるかなーゆうちゃん。そのままかなー。お土産は何がいいかな)




陽菜の短い短い夏休みまであと3日