ー期待なんて、しなきゃいいのに




『っつ、うっ!』




体を動かすのは昔から大好きだった
中学、高校と部活はバド部でキャプテンを務めていたけれど、そのバド部人生も終わり





『はーっ、、ふー』




部活を引退したからって訳でも無い
筋トレは好きだし、夏に走るのなんて最高だと思う
体は引き締まっていた方が絶対にいい
何もない私だけど、引き締まった腹筋を見るとほんの少しばかりの自信になったりね
結局、自己満足みたいなもんだけど




(チリンチリン!)




『ゆーこ!おーーーーい』



後ろを振り向くと自転車のベルを鳴らしながらゆっくりと自転車を漕いでくる女の子



(キキーッ)



その子は良いブレーキ音を出して私の横に付いた




『ねーラインしたんだけど』
『ごめんごめん。携帯家だわ』
『いい加減その癖やめたら?女の子が1人でいて、不審者にでも襲われたらどーするの』




自転車から降りたその子は私の隣をぶつぶつと文句を言いながら歩く
色々言われている私だったけど、最近しっかりしてきたなーなんて成長が嬉しく感じたりするんだ




『はーーもう。笑ってるけど聞いてるの』
『ああ、うん。聞いてるよ』
『もーいいよ。優子は襲われても殴り返して返り討ちに出来そうだしね。もういいやこの話』
『はははっ。心配ありがとう。あっちゃん』




この子はうちの隣に住んでいるあっちゃん
本名は小嶋敦子ちゃん
優子って呼ぶけれど、歳は2個下で、隣の家の小嶋さんの娘さん




『それよりさ、どうした?私に用だったよね』
『あ、そうそう。優子さ、花火大会、行くの?』




ー花火大会




その言葉に一瞬、固まってしまった
ほんの数日前に花火大会の夢なんて見たからだろうか
いや、違うか
毎年、この時期になるとどこかそわそわしている自分に気づいている




『んーー迷い中です』
『迷い中って事はお誘いあり?』
『んーーまあ?』
『へー。もしかしてあの子?』
『んーーーー』
『はいはいそうなんでしょ』




そっかそっか、と言いながらあっちゃんは何か言いたげな顔をする




『なに?』
『今年、お姉ちゃん帰ってくるって聞いた?』
『えっ...』




(どくん)




心臓が大きく鳴った




『ラインきてないけど...』
『うん。私にもさっき来たから。帰ったらきてるんじゃない?』
『そっかそうなんだ。帰ってくるんだ』
『らしいよー。一週間ちょっと休み貰えたから帰るって』




急に、早く家に帰りたくなってきた
帰って携帯を見たい
ラインが入っているかも知れない




『で、花火大会楽しみにしてるみたいだったからさ。優子は誰かと行くのかなって思って』
『花火見にくるみたいなもんだもんね』
『でも先約ありかー』
『....』




私はあの後、すぐに家に帰って携帯を見る




『...なんだよー』




連絡は入っていなかった
ひどく落胆する
久々に会える、と高鳴るこの胸は
きっと私だけ
ただ1人だけ




『ん、もっかい走るかー』




期待してた分、なんだか切なくなってきて
私はまた走り出す
午後14時
1日で一番暑い時間に
頭がくらくらしてきそうだ