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隣の女神 5




ー地元はほっとする




うちの実家は緑溢れる良いところ
空気も美味しくて、平和で



って、今だから思えるけど、あの時の陽菜はそんなTHE 田舎を出たくて出たくて出たくて
とにかくここを出ることが目標になっていた




『ママ、パパ、東京でお洒落な仕事をしたいの』
『お洒落な仕事って。陽菜、ここでもお洒落は出来るぞ?』
『あら?ママはいいと思うけど?陽菜は都会が似合う顔してるわ。ママ似だからね。ふふっ』




パパは出ていく事に猛反対
ママは陽菜が可愛い服や髪型や、メイクも大好きなのを知っていたから東京でもっと輝いてほしいって
やっぱりママは分かってる
あの時味方してくれたママのおかげで陽菜は上京することが出来た
そんなママに乗せられてパパもしぶしぶ許してくれたんだよね





『んーーーっ。ついた!ただいま』




パパに空港に迎えにきてもらって
THE 田舎の実家に到着
念願のお盆休みをもらえたからやっと地元に帰って来る事が出来たの




『おねーちゃん!』
『あー、あっちゃん!』
『おかえりー』
『ただいま。久しぶりだねー!あっちゃん髪の毛伸びたねー』
『そうなんだー。いま伸ばしてるの』




にこにこと嬉しそうに話してくれるこの子は可愛い可愛い妹ちゃん
歳は5歳下で少し離れている
あっちゃんは高校1年生になっていた
最後に会ったのは中学1年生だけど、やっぱり女の子は変わるんだ
大人びていて、お姉ちゃんはびっくりする




『あっちゃん、大人っぽくなったね』
『えーあたしの台詞。おねーちゃんはやっぱり東京が合うんだね?なんか、都会のおんなーって感じになってる〜』
『えーそう?ありがとう。ふふっ』



あっちゃんと陽菜は話し方とか性格とかあんまり似てないと思う
でもうちの妹は可愛い
間違いなく可愛いと思う




『あ、ねえねえあっちゃん。ゆうちゃん、どっか旅行とかじゃないよね?』
『え?優子??どこも行ってないと思うけど。夏休み入ってからまた飽きもせず走ってるよー』
『ふーん。そっかーー』
『どうして?』




あっちゃんがすごく不思議そうな顔をする
陽菜は言おうか迷ったけど、なんでなんでと一度気になったらとことんしつこいあっちゃんからは逃げられない




『なんでーー?』
『んーー、無視ってやつ?』
『無視?』
『そ。ライン見てるのに返ってこなーーい』
『...へーー』
『なんでかなあ』
『なんて送ったの?
『昨日ね、明日帰るよーって。だからゆうちゃん会える?って』
『ふーーん』




あっちゃんは何か考えているけれど
ふんふん。なるほどとかいって1人で納得している




『あっちゃん、なんか知ってる?』
『んーん知らない。けど、家にいるよきっと。いってきたら?』




陽菜はあっちゃんに言われて、素直にそうしよっかなと思った

隣の女神 4



ー期待なんて、しなきゃいいのに




『っつ、うっ!』




体を動かすのは昔から大好きだった
中学、高校と部活はバド部でキャプテンを務めていたけれど、そのバド部人生も終わり





『はーっ、、ふー』




部活を引退したからって訳でも無い
筋トレは好きだし、夏に走るのなんて最高だと思う
体は引き締まっていた方が絶対にいい
何もない私だけど、引き締まった腹筋を見るとほんの少しばかりの自信になったりね
結局、自己満足みたいなもんだけど




(チリンチリン!)




『ゆーこ!おーーーーい』



後ろを振り向くと自転車のベルを鳴らしながらゆっくりと自転車を漕いでくる女の子



(キキーッ)



その子は良いブレーキ音を出して私の横に付いた




『ねーラインしたんだけど』
『ごめんごめん。携帯家だわ』
『いい加減その癖やめたら?女の子が1人でいて、不審者にでも襲われたらどーするの』




自転車から降りたその子は私の隣をぶつぶつと文句を言いながら歩く
色々言われている私だったけど、最近しっかりしてきたなーなんて成長が嬉しく感じたりするんだ




『はーーもう。笑ってるけど聞いてるの』
『ああ、うん。聞いてるよ』
『もーいいよ。優子は襲われても殴り返して返り討ちに出来そうだしね。もういいやこの話』
『はははっ。心配ありがとう。あっちゃん』




この子はうちの隣に住んでいるあっちゃん
本名は小嶋敦子ちゃん
優子って呼ぶけれど、歳は2個下で、隣の家の小嶋さんの娘さん




『それよりさ、どうした?私に用だったよね』
『あ、そうそう。優子さ、花火大会、行くの?』




ー花火大会




その言葉に一瞬、固まってしまった
ほんの数日前に花火大会の夢なんて見たからだろうか
いや、違うか
毎年、この時期になるとどこかそわそわしている自分に気づいている




『んーー迷い中です』
『迷い中って事はお誘いあり?』
『んーーまあ?』
『へー。もしかしてあの子?』
『んーーーー』
『はいはいそうなんでしょ』




そっかそっか、と言いながらあっちゃんは何か言いたげな顔をする




『なに?』
『今年、お姉ちゃん帰ってくるって聞いた?』
『えっ...』




(どくん)




心臓が大きく鳴った




『ラインきてないけど...』
『うん。私にもさっき来たから。帰ったらきてるんじゃない?』
『そっかそうなんだ。帰ってくるんだ』
『らしいよー。一週間ちょっと休み貰えたから帰るって』




急に、早く家に帰りたくなってきた
帰って携帯を見たい
ラインが入っているかも知れない




『で、花火大会楽しみにしてるみたいだったからさ。優子は誰かと行くのかなって思って』
『花火見にくるみたいなもんだもんね』
『でも先約ありかー』
『....』




私はあの後、すぐに家に帰って携帯を見る




『...なんだよー』




連絡は入っていなかった
ひどく落胆する
久々に会える、と高鳴るこの胸は
きっと私だけ
ただ1人だけ




『ん、もっかい走るかー』




期待してた分、なんだか切なくなってきて
私はまた走り出す
午後14時
1日で一番暑い時間に
頭がくらくらしてきそうだ

隣の女神 3



ー暑いのは嫌い



『あっつ...』



東京は暑い
今日だって真夏日ってやつで気温は30度を超えている
家から徒歩10分
たったの徒歩10分が地獄に感じる



でも10分後、そこには天国が待っている



『あーー涼しい』
『あ、おはよ。小嶋さん』
『おはようございます。今日も暑くてやばいんですけどー』
『ねー店の中は涼しくていいよね』




朝9時30分
お店の先輩と挨拶を交わし、いつもの様に暑いですねと会話をする
7月の後半から朝はいつもこの会話が決まり文句になっていた
お店のクーラーが10分間の地獄をまるで無かったことにしてくれるのも毎日の日課



(ウィーン)



自動ドアのドアが開いた



『いらっしゃいませ』
『あの、初めてなんですけど』
『ありがとうございます。ではご記入して頂きたい事があるので、こちらにどうぞ』




長くやっているから慣れたもの
いつもの台詞と、営業スマイルでお客様の対応はもう完璧になった



朝10時にお店はオープンする
今日一番乗りで来たお客様はご新規様
目をキョロキョロとさせて、どぎまぎって表現が似合う、綺麗な女の子



(あー、高校生ね)



丁寧な字で数字が書かれ、高校生って事がわかった
見た目が綺麗だから、大人っぽく見えて、大学生かな?なんて思っていたけど、そこはさすがこっちの子
服装もお洒落にしていて、髪も綺麗なロングストレート




『ネイルサロンは初めてですか?』
『はい。自分で家でやった事はあるんですけど、上手に出来なくて...』
『あー難しいですよね。高校三年生?学校は大丈夫ですか?』
『いま夏休みなので、羽目を外そうかなって』



その子は恥ずかしそうに微笑んだ
そうか、夏休み
いい響き
陽菜だってあのうんと長い夏休みをもう一度味わいたい
社会に出てから、一ヶ月以上も休みがあった学生時代はどれだけ幸せだったんだと痛感している




『羽目、外しちゃいましょうね』
『はいっお願いします』
『じゃあどんな風にしたいか、イメージはありますか?』




目の前にいる綺麗な女の子は好きな色はピンク、でも白も好き
大人っぽいネイルをしたいと、嬉しそうに話してくれる




(夏休み、かー)




いいなー
陽菜も一ヶ月ぐらい地元に帰りたい
お母さんのご飯を食べて、DVD見て、寝て




それからー




『はい。じゃあ、イメージは決まったので早速ネイルに移りましょう』
『はい!』
『お時間は大丈夫ですか?』
『あ、この後ランチがあるので』
『わかりました。あんまり時間を掛けないようにしますからね』




お願いします。と笑う顔はやっぱりまだどこか幼さが残っている



(優子、元気かなー)




その子の見せた幼い顔があの子と重なる
今年は地元に帰れるから会うのが楽しみになっていた
偶然、目の前の綺麗な女の子も高校三年生だと言うから、頭の中の片隅で優子の事を考えてみる




(変わってるかなーゆうちゃん。そのままかなー。お土産は何がいいかな)




陽菜の短い短い夏休みまであと3日


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隣の女神 2

ー憂鬱な朝





『.....あー』



目を開けると見慣れた天井
ベット下にずり落ちた布団




(懐かしいなあ)




いつだろう。小学かな
あの時は楽しかった
あの時は




『おはよー』
『あら、どうしたの優子』
『どうしたのって別に朝だし』
『朝だしって、夏休みなのに珍しいわねって事よ』
『ん、え?...あーーうん』



そんな事は分かっているけど
あんな夢を見てしまったから二度寝しようとしても出来なかった
でも、そうだった
昨日は、調子こいて夜更かしして映画を見ていた
なんとなく感じていた頭痛の原因はこれか




時計を見るとまだ6時




『えー、昨日寝たの2時だよ。早起き過ぎた』
『いいじゃない?たまには。ほら、二度寝しないで、散歩!いってきて!』
『うえーー』




懲りずにもう一度二度寝してみようと思い、ソファに寝転がった私だったけど、お母さんに犬の散歩を命じられる




(まだ寝たいのに...)




ぶつぶつと文句を言いながらも、散歩と言う言葉に目を輝かせて、尻尾が振り切れてしまいそうな程にぶんぶんと振りながら私の元に駆け寄ってきた愛犬のその可愛さに
私の顔はだらしなく緩むんだけど




(ゆうちゃん)




私はまた、今朝の夢を思い出す
あの柔らかい声で起きた朝は幸せだったけれど
やっぱりあれは夢で



『っつ、あたまいたいよー』



楽しそうな愛犬には申し訳ないけれど、寝不足すぎて鈍痛が


もう一度眠りに落ちたい
けど、正直もう眠れそうにないのは自分が一番分かっていた



ふと空を見上げた
暑い日差し
雲一つない真っ青な青空
風は吹いていない



また、今年もあの季節がやってきた

隣の女神 1

ー夏のある日



『きれいだねーゆうちゃん』



ふわっと優しい声がした
上を見上げても暗闇であまり顔が見えないけれど




『うん!きれい!』




私は笑顔で答えるんだ
とびっきりの笑顔で



いつも優しい顔で私を見守ってくれていた貴方は



いつの間にかその笑顔を私じゃない他の誰かに向ける様になったね



張り裂けそうな胸の痛みに気づかないフリをするのは思っていたよりも辛い



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