−−ある日の放課後
陽菜side
『あれ』
今日は火曜日の放課後じゃないから陽菜はさっさと帰ろうと思ってた
『いま大丈夫ですか?』
保健室のドアを開けたのが大島さん意外なのは久しぶりでなんだか違和感
それも変な話なんだけど
『どうかした?』
『少し先生と話しがしたくて』
そう言ったのはあっちゃん。たぶん
だって大島さんがよく言ってるから
まりちゃんのほうじゃないと思う
『いいよ。えーっと』
『前田敦子です』
『前田さんね』
座ったら?と言ったけど前田さんは首を振ってすぐに終わるんでって
今さら思うけどこれが生徒と教師の距離だよね
敬語とかテンションとか
礼儀正しいなあって思うのは大島優子に慣れちゃったからかな
『小嶋先生は優子のことどうゆう風に見てるんですか?』
ほんとにストレート
そこ意外の話題なんて考えられなかったからなんとなく心構えはしてたけど
『どうって。一番仲良しな生徒かな』
『それだけですか?』
『うーん』
『ほかになにかあるんですか?』
少し特徴的な声はきっと笑うとかわいいんだろうな
陽菜を見つめる真剣な目も柔らかくなるときがあるんだろうな
『あたし、優子が好きなんです』
大島さんの前ではきっと
『ずっとずっと好きなんです。高一のときは入学したときすでに優子に彼女がいて、でも惹かれちゃってる自分に気づいちゃって』
『……』
『気づいたらすごい好きで、優子が別れるたびにあたしにチャンスがきたかなってほんとに嬉しくて』
『……』
『ついこの間のだってあたし最低だけど嬉しかったの。ちゃんと言おうって、卒業前に気持ち伝えたいって思ってた』
ほんとに、ほんとに好きなんだ
さっきまでの強い瞳が切ない瞳に変わるから陽菜まで胸がきゅって締め付けられる
『でも、先生が来た。小嶋先生小嶋先生って毎日言うんだもん。あたし、だめなんだなーって。優子に好きになってもらえない…』
頬を流れるその涙はきっと陽菜が見ていいものじゃないのに
『でも好きだから。すんごい好きだから。優子が好きってすぐに言えない小嶋先生になんか渡したくないんです』
『……』
『あたしのほうが優子をいっぱい知ってるもん。先生なんかなんも知らないじゃん…』
そうだ、ね。
でもね前田さん、陽菜はこれからたくさん知りたいって思ってた
昔の大島さんだってできれば本人の口から聞きたかったなって思っちゃってるぐらいなんだ
『うっ、ひくっ…やだ。優子取らないでよっ』
さっきまでの強さはどこにもなくて陽菜の目の前にいるのは恋するひとりの女の子
陽菜は、
陽菜はこんな風に大島さんのために泣けるのかな
『うぅーあ…中途半端な先生にはあたし負けないんでっ』
最後の一言はしっかり陽菜の目を捉えてた
『ああ…』
妙な解放感に体をがくっと机に落とす
大島さんみたいにドアノブを失敗しないで出て行った前田さんは芯が強い子なんだと思う
(も〜、どうすれってさ)
別に言えるよ
陽菜だって、大島さんのこと…ちゃんと
『ばかみたいにモテるなよ…』
一番悪いのはすきになられちゃうあいつじゃん
なんて大人げないことを考えるのが精一杯だった