ーー乱れていく、心
優子side
なにか、おかしいんだよ
理由はわからないんだけどさ
いつものお昼休み
いつも通り机を三つくっつけて楽しくご飯を食べていたときだった
『今日予定ある?』
大好きなチーズパンにかじりつきながら目の前のこじぱとばっちり目が合う
少し真剣な顔付きのこじぱはみいちゃんを一切見ない
『映画見に行かない?』
返事をしなきゃいけないからチーズパンを噛むスピードを一生懸命上げてみたけどなかなかごっくん出来ないで焦っていたんだけど、次に話したのもこじぱだった
『あのね、ペアでチケットを貰ってタダで入れるの』
やっと口の中からなくなってくれたチーズパン
話そうと思って息を吸い込んだときにはポケットからごそごそと出した2枚のチケットが机の上に置かれた
なんてゆうか、今日のこじぱは、グイグイくるなあ。
そんなことを思いながらちらっとこじぱを見ると、じっと真剣な顔で見つめられた
『今日?』
『うん。学校終わってから』
『これは2枚しかないの?』
『うん。優子一緒にどうかなと思って』
え、でもみいちゃんは…そう思って左側に座っているみいちゃんを見ると、あたしはいかない!映画って苦手なんだよね!と、なぜか鼻息を荒くして、もう一つ言えば目を輝かせながら言われた
『苦手ってなに』
『苦手は苦手!だからいかない!』
『ああ、そお…』
『優子、予定ある?』
『ううんないよ。あたしで良いなら行きたい。これ見たかった映画だし!』
そう言うと真剣な顔のこじぱがぱっと明るい顔になった
******
『こじぱなんか買う?』
『うーん。アイス食べたい。けど』
『けど?』
『太っちゃうかな…』
『あははっ!』
上映まであと20分。
今日のお昼休みにあたしにチケットを差し出したときみたいにまた真剣なこじぱについ笑ってしまう
『あ、優子ばかにした』
『違うよ。そんなことで悩むんだなーって』
『そんなことじゃないもん。最近食べ過ぎだからやばいの』
『こじぱは太ってないよ。むしろ丁度いい。食べな?』
『…丁度いい?』
『うん?丁度いいよ?いい女って感じ』
『…そっか』
嬉しそうに笑ったこじぱはじゃあ買ってくると言ってレジの人にチョコレートがかかってるソフトクリームを頼んでいた
美味しそう!ともっと嬉しそうにしながら戻ってきた
『どこ座るー?』
『んーとね、んー』
上映まであと15分。
席は自由席だったから好きに座っていい。キョロキョロと周りを見渡したこじぱは、あそこがいい!と指さした所は
『カップル席?』
『うん!』
決ーまりっ、と言いながら割と上のほうのカップル席に座るこじぱ
あたしも後を追う
『空いてるねー』
『ね。平日だから?』
『かも知れない。あ、こじぱアイス溶けちゃうよ!』
『あーやだー』
夏が近づいて暑くなってきたしね
ソフトクリームは溶けかかっていた
美味しい、と言いながら食べるこじぱを見て、買って良かったねーと言う
『優子も食べる?』
『食べる!くれるの?』
『はい。あーん』
『へ…』
『ほらー。あーんして?』
うわ、恥ずかしい
カップル席でアイスをあーんされるとか、なんか
固まっていたあたしは溶けちゃうよ〜というこじぱの言葉で我に返ってあたふたする
ぱくっとアイスを食べた
『美味しい!』
『ね?もっとあげる。はいあーん』
『…わ、う、うん』
にこにこしながら何回もあーんを
してくるこじぱ
恥ずかしいけど美味しいからあたしも何回も口をあけちゃった
『ふふ、この前の逆だね』
『ほんとだよー。やばい。恥ずかしい』
『…なんか、ね。恥ずかしいね?』
上映まであと5分。
証明が消えて徐々に暗くなっていく
始まるね、って声をかければ、暗い見えない、なんて当たり前のことを言うこじぱ
笑いそうになるからやめてほしい
あたしは笑いを堪えるのに必死だった
映画が始まった
『……?』
始まって何分たったかな
左側の肘おきに腕を置いていたんだけど、予想外の感触に、正直、動揺を隠せないでいた
『……へ』
思わず出てしまった情けない声。
だって…小指と小指が触れるだけだったはずの手
少しずつ、少しずつだけどこじぱの掌全体に包まれていく
びっくりして固まっているとゆっくりと指に指が絡まれていく感覚
(うわ、これって)
やっと動きがなくなったと思ったら、こじぱの手が落ち着いたのはカップル繋ぎの形だった
なにがなんだかわからなくてそっと顔を向けてみると、いつから見ていたのかこじぱもこっちを見ていて、目が合って固まる
『こじ、ぱ?』
『…いや?』
『へ?』
『これ、いや?』
ぎゅっと握られた左手
これってのはこの繋いだ手のことだってのは明らかだ
こんな可愛い子に手を繋がれて嫌だと思う人間はいるのかな
嫌じゃないって気持ちを込めてふるふると顔を横に降ると、もう一回ぎゅっと握られた
どくどくと脈が激しく打っているし、全神経を左手に集中させている自分に気づいてかっと体が熱くなるのを感じた
だから、映画の内容なんて見てるけど覚えてない
何分経過したのかさえわからない
やっぱり、今日はなにかがおかしい
お昼休みから、いや…朝、下駄箱でこじぱを見た瞬間からかも知れない
本当は今日一日ずっと心臓のどきどきが収まらないんだ
なんでかなって考えるために目を閉じたけど簡単に浮かんだ
(付き合えるってなったらどうする?)
みいちゃんのせいだよ、もー…
昨日のあの話からこじぱを変に意識していた
しかも、昨日の今日だし…
こじぱがまた手をぎゅって握った
どくん、とまた心臓が鳴った
あたしはそっと握り返してみた
このまま映画が終わらなければいいのに
理由はやっぱりわからないけれどこの手をずっと握っていたいと素直に心が訴えていた