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青い春 11

ーー恋ってやつ。



優子side



『あー、すっかり暗いね』
『ほんとだ』
『送ってくよ』
『え?いいの?』
『もちろん。女の子を一人で帰らせるわけにはいかないからね』
『ふふ』


いい雰囲気だったあの時。
あのあと、映画館の人が来て、出てくださーいと言われたからわたわたとシアターを出た
時計をみたら19時半。ここで一人で帰らせるほどばかじゃない


行こっか、と言って歩き出す
けど、ついて来ないこじぱを不思議に思って振り返ると、ぷくっと頬を膨らませて可愛い唇は突き出ていて、もっと可愛くなっている



『…?こじぱ?』
『ん、』
『帰らないの?』
『んー、てー』
『へっ?』
『だーかーら』



不満そうにそういいながら、前に伸ばされた右腕
掌をパーにして、ひらひらと動くのが見える
ああ、そうゆうことか



『はい、お姫様』
『…優子ばーか』
『ええ?なんでー?』
『だって、鈍感なんだもん』



陽菜恥ずかしいじゃん、と言いながら逸らした顔は赤みを帯びていた
ばーかと言いながらも繋いだ手と手はしっかりカップル繋ぎでぎゅうっと握ってくるもんだから、
ふう…可愛くて仕方ないなあ、これは。



『ねえ、こじぱ』
『なーに』
『こじぱの好きとあたしの好きは一緒かな?』
『…優子の好きは、どうゆうの?』
『あたしはね、手を握りたいし、可愛いって思うし、そばにいたいって思うし、それに、こじぱにもそう思ってほしいって思うよ』



夏の夜風は気持ちいい
二人はゆったりと歩きながら会話をする
素直な気持ちをぶつけるのは、なんだか慣れなくてこそばゆい



『じゃあ、一緒だ』



そう言ったこじぱはすごく嬉しそうに微笑んだ



『優子は陽菜の恋したの』
『あは、やっぱりそれ?』
『恋して、落ちて、好きになったの。優子は陽菜が好きなのー』
『自分でそんなに自信満々に言うの?』
『だって、嬉しいんだもん。優子が陽菜のものになる!』



繋がれた手はぶんぶんと振られた
どうやら、あたしはこじぱに恋に落とされたらしい。しかも、こじぱのものになってしまうらしい。
ほんとうにお姫様みたいな事を自然に言うこの子には完敗だ。



『こじぱ、落としてくれてありがとね』
『ん?』
『あたしのこと好きになってくれてありがとう。好きって教えてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう』
『…陽菜こそ』
『だから、……好きです。付き合ってくれませんか。幸せにするから。頑張るから』



いつの間にか歩くのをやめて、こじぱの両手を握っていた
今までで一番緊張したし、声も手も震えていた
決してかっこ良くない告白
世の中の人達はこんな難関を通り抜けて恋人になっているなんて、すごいと思うよ



『…陽菜ね、本気だよ』



真剣な顔のこじぱがいた



『うちら、女の子同士だし。きっと色々あるけど、でも本気で優子と一緒にいたいよ』
『こじぱ…』
『自分から好き好きってなったのなんて初めてだし、てか、優子のことしか見えてなかったし高校入ってから』
『嬉しいなあ』
『途中で捨てたりしないでよ?』
『えー?あり得ないよ!』
『だって、わがままってよく言われるし…』
『そんなん、余裕。可愛くて仕方ないから大丈夫』
『ほんと?』
『ほんと。いくらでもこいって感じ』



あたしのほうが背が低いのが悔しい
こてん、と寄りかかってきたこじぱを本当は包み込んであげたいのに出来ないもどかしさ
それでもあたしを見つめるこじぱの表情を見ればそんなことどうでも良くなってしまう
だって、愛情が溢れてるのが伝わってくるから



『好き…』
『うん。可愛いほんと』
『優子にだけ』
『あたしのこじぱだ』
『陽菜のゆーこ』
『あは、独占欲だ』
『そうだよ。お姫様だからね?ほしいものはほしいのー』




初恋を教えてくれた彼女は可愛くてちょーっとわがままなお姫様
あたしだけのお姫様
高校一年生の夏、初めての彼女が出来ました。
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青い春 10

ーー好き、大好き。


陽菜side



鉄は熱いうちに打て


ってゆうでしょ?
使い方合ってるとか合ってないとか陽菜はよくわからないけど、まあそんな感じってこと。


優子の心も熱いうちに打っちゃおってこと。



2人の間で繋がられた手と手
映画館てゆう暗い空間でどきどきが収まらないけど、触れたことを拒否されなくてよかったって心底思う



(あっ、)




時々、盗み見ていた優子の顔
こそっと見ていたはずなのに優子に気づかれちゃった
優子は陽菜と目が合って笑う
ん?って顔をする
その次に、ゆっくり顔を近づけてくる優子にどくんどくんと心臓が大きく鳴り響いた



『どうかした?』
『っ、ううん。だいじょぶ…』



(ち、かいっ…)



どうかした?じゃなくてさ、近いよ、ねえ。
映画館だから声を潜めて話しているのはわかるけど、耳元でそんな風に囁かれたら、本当にどうかしてしまいそう。
しかも、いつもの明るい声じゃなくて低めのハスキーな声が鼓膜に小さく響くんだもん。
なんか、それってずるい…




*******



『わっ、眩しい』



優子が言った通りに明かりが戻ってきた
てか、戻っちゃったーって感じだけど、映画は終わったんだもん仕方ない



『楽しかった?』
『んー、わかんない』
『あは、見てた?』
『見てたけど見てない?』
『一緒だ。集中出来ないよね』



そう言った優子は、ぎゅうの力を強める
映画はもう終わったはずなのに繋がれたままの手に嬉しくなる
だから陽菜も握り返す



『優子』
『ん?』
『…もう一回、映画見てく?』
『あははっ!もう一回?見ちゃう?』
『んー…』
『こじぱ、なんか今日甘えん坊さんだね』



そう言って繋がれてないほうの手が陽菜の髪を触る
陽菜の大好きな大好きなよしよし
ずいぶん甘えん坊だけど、また風邪引いたりしてないよね?って冗談っぽく言って笑った



『ずっと映画終わらないでいいのにー』
『どうして?』
『だって、ずっとこうしてられる』
『あーもー可愛い。ずっとこうしてたいの?』
『うん。いや?』
『…まさか』



繋がれた手はまたぎゅってして大好きなよしよしは続いている
優しい目で見つめられて心の奥まで見られている気がする
てか、見られていい。鈍感さんには陽菜の気持ちに気づいてもらわなくちゃ困るの
友達以上恋人未満。そんな曖昧な関係いらない。
今にも爆発しそうなこの気持ちはとどまることはもうできないみたい。



『ねえ、優子は陽菜のこと好き?』
『え?えっと、好きだよ』
『友達として?』
『…うん』
『それだけ?』



ちょっと待ってね。
そう言うと優子は考える顔をした
しばらくしてよしよしされていたほうの手が繋がれていないもう一つのほうの手を掴む



『こじぱ、あたしに好きって言ってみて?』



陽菜の右手を自分の心臓に持っていった
つい、ふくよかな膨らみのほうに意識がいってしまいそうになるけど



『好き』
『うん』
『大好き』
『あは、うん』
『んー、大好き大好き大好き』
『ははっ、やばい』



嬉しそうに笑った優子はやばいやばいと繰り返したあとまた優しく陽菜を見て言った



『こじぱに好きって言われたらさ、心臓がどくんってなる。心臓ってか体かなあ。全身どくんってなる。これってさ、』



すごく、嬉しそうに笑いながら優子は言ったの



『あたしもこじぱを好きってことだよね?初恋ってやつかなあ?』



って。

青い春 9

ーー乱れていく、心


優子side



なにか、おかしいんだよ
理由はわからないんだけどさ



いつものお昼休み
いつも通り机を三つくっつけて楽しくご飯を食べていたときだった



『今日予定ある?』



大好きなチーズパンにかじりつきながら目の前のこじぱとばっちり目が合う
少し真剣な顔付きのこじぱはみいちゃんを一切見ない



『映画見に行かない?』



返事をしなきゃいけないからチーズパンを噛むスピードを一生懸命上げてみたけどなかなかごっくん出来ないで焦っていたんだけど、次に話したのもこじぱだった



『あのね、ペアでチケットを貰ってタダで入れるの』



やっと口の中からなくなってくれたチーズパン
話そうと思って息を吸い込んだときにはポケットからごそごそと出した2枚のチケットが机の上に置かれた
なんてゆうか、今日のこじぱは、グイグイくるなあ。
そんなことを思いながらちらっとこじぱを見ると、じっと真剣な顔で見つめられた



『今日?』
『うん。学校終わってから』
『これは2枚しかないの?』
『うん。優子一緒にどうかなと思って』



え、でもみいちゃんは…そう思って左側に座っているみいちゃんを見ると、あたしはいかない!映画って苦手なんだよね!と、なぜか鼻息を荒くして、もう一つ言えば目を輝かせながら言われた



『苦手ってなに』
『苦手は苦手!だからいかない!』
『ああ、そお…』
『優子、予定ある?』
『ううんないよ。あたしで良いなら行きたい。これ見たかった映画だし!』



そう言うと真剣な顔のこじぱがぱっと明るい顔になった




******



『こじぱなんか買う?』
『うーん。アイス食べたい。けど』
『けど?』
『太っちゃうかな…』
『あははっ!』



上映まであと20分。
今日のお昼休みにあたしにチケットを差し出したときみたいにまた真剣なこじぱについ笑ってしまう



『あ、優子ばかにした』
『違うよ。そんなことで悩むんだなーって』
『そんなことじゃないもん。最近食べ過ぎだからやばいの』
『こじぱは太ってないよ。むしろ丁度いい。食べな?』
『…丁度いい?』
『うん?丁度いいよ?いい女って感じ』
『…そっか』



嬉しそうに笑ったこじぱはじゃあ買ってくると言ってレジの人にチョコレートがかかってるソフトクリームを頼んでいた
美味しそう!ともっと嬉しそうにしながら戻ってきた



『どこ座るー?』
『んーとね、んー』



上映まであと15分。
席は自由席だったから好きに座っていい。キョロキョロと周りを見渡したこじぱは、あそこがいい!と指さした所は



『カップル席?』
『うん!』



決ーまりっ、と言いながら割と上のほうのカップル席に座るこじぱ
あたしも後を追う



『空いてるねー』
『ね。平日だから?』
『かも知れない。あ、こじぱアイス溶けちゃうよ!』
『あーやだー』



夏が近づいて暑くなってきたしね
ソフトクリームは溶けかかっていた
美味しい、と言いながら食べるこじぱを見て、買って良かったねーと言う



『優子も食べる?』
『食べる!くれるの?』
『はい。あーん』
『へ…』
『ほらー。あーんして?』



うわ、恥ずかしい
カップル席でアイスをあーんされるとか、なんか
固まっていたあたしは溶けちゃうよ〜というこじぱの言葉で我に返ってあたふたする
ぱくっとアイスを食べた



『美味しい!』
『ね?もっとあげる。はいあーん』
『…わ、う、うん』



にこにこしながら何回もあーんを
してくるこじぱ
恥ずかしいけど美味しいからあたしも何回も口をあけちゃった



『ふふ、この前の逆だね』
『ほんとだよー。やばい。恥ずかしい』
『…なんか、ね。恥ずかしいね?』



上映まであと5分。
証明が消えて徐々に暗くなっていく
始まるね、って声をかければ、暗い見えない、なんて当たり前のことを言うこじぱ
笑いそうになるからやめてほしい
あたしは笑いを堪えるのに必死だった



映画が始まった



『……?』



始まって何分たったかな
左側の肘おきに腕を置いていたんだけど、予想外の感触に、正直、動揺を隠せないでいた



『……へ』



思わず出てしまった情けない声。
だって…小指と小指が触れるだけだったはずの手
少しずつ、少しずつだけどこじぱの掌全体に包まれていく
びっくりして固まっているとゆっくりと指に指が絡まれていく感覚




(うわ、これって)



やっと動きがなくなったと思ったら、こじぱの手が落ち着いたのはカップル繋ぎの形だった
なにがなんだかわからなくてそっと顔を向けてみると、いつから見ていたのかこじぱもこっちを見ていて、目が合って固まる



『こじ、ぱ?』
『…いや?』
『へ?』
『これ、いや?』



ぎゅっと握られた左手
これってのはこの繋いだ手のことだってのは明らかだ
こんな可愛い子に手を繋がれて嫌だと思う人間はいるのかな
嫌じゃないって気持ちを込めてふるふると顔を横に降ると、もう一回ぎゅっと握られた



どくどくと脈が激しく打っているし、全神経を左手に集中させている自分に気づいてかっと体が熱くなるのを感じた
だから、映画の内容なんて見てるけど覚えてない
何分経過したのかさえわからない



やっぱり、今日はなにかがおかしい
お昼休みから、いや…朝、下駄箱でこじぱを見た瞬間からかも知れない
本当は今日一日ずっと心臓のどきどきが収まらないんだ



なんでかなって考えるために目を閉じたけど簡単に浮かんだ



(付き合えるってなったらどうする?)



みいちゃんのせいだよ、もー…
昨日のあの話からこじぱを変に意識していた
しかも、昨日の今日だし…



こじぱがまた手をぎゅって握った
どくん、とまた心臓が鳴った
あたしはそっと握り返してみた



このまま映画が終わらなければいいのに
理由はやっぱりわからないけれどこの手をずっと握っていたいと素直に心が訴えていた
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青い春 8

ーー二人の心境


みいside



『ねえ、みいちゃん』
『なにー』
『こじぱって可愛いよね』
『…。ん!?いまなんて、なんていった!?』
『え?だからこじぱって可愛いよねって』



聞き逃すわけにはいかない台詞
国語の授業は自習でみんな外に声が漏れないようにうまくサボっていたときだった



『陽菜が、可愛い!?』
『痛い痛いよっ、手ー!』
『あ、ごめん』



ガタリと大きな音を出してまでつい立ち上がって両肩をがっちりと掴んでいた
もーみいちゃんって昔からオーバーリアクションなの?って言いながら肩を摩る優子を見るとなんとなく自分のキャラがうざいキャラになりつつあるんじゃないかって不安になったり



『どうゆうところ?可愛い?』
『まず顔でしょ』
『だろうね』
『で、思ってたよりわがままじゃない』
『そ、そうかな?』
『お弁当作ってくれたり優しい』
『ほおほお』
『んでさ!美味しかったんだよ!お弁当!』



最後の言葉を言うときにそりゃあもお、キラキラと目を輝かせて嬉しそうに言うもんだから、ああ、なるほど。なんとなくわかった。



『料理上手な人好き?』
『うん!!あたし食べるの好きでさ、ご飯美味しいって最高だと思うんだよね』



陽菜、きたよこれ。あんた胃袋しっかり掴んでるじゃんこれ。



『で、気づいたんだけどさ、こじぱって女の子の神様だよね』
『あーわがまま姫にしか見えないけどね私には』
『そのわがままなとこもいいんじゃん?』



嬉しそうに話す優子を見てなんかもおいけるんじゃないかって思ったわけで



『じゃあさ、じゃあさ優子。もしもで考えてよ』
『うん。なに?』
『もしも、…陽菜と付き合えるってなったらどうする?』
『……え』



どんどん開いていく目、ぽかんと空いた口、みるみる内に赤くなる顔
えっと、え、え、とか言いながら口ごもる優子!
おお…どうした!なんだ!その先の答えはー!



『む、む、む、無理に決まってんじゃんかあ!!』



ガターン!って大きな音を立ててイスを後ろに飛ばして立ち上がった優子
なになに?って教室中の視線が優子に向いた



『ええええ!優子?』
『み、みいちゃん変なこと言わないでよ!』
『変なことって…。落ち着いてよ、とりあえず座ろ?』
『…うう』



盛大に教室中を盛り上げてしまった優子の代わりにごめんね〜とみんなに謝るけど、みいちゃん優子いじめたらだめだよ、なんて女子たちの鋭いお言葉が刺さります。はい。いい加減悪者扱いされるこのキャラから卒業したい。ぐすん。



『ごめんね?優子、そんなにびっくりすると思わなかったから』
『ううん…あたしもごめん。うるさかった』
『えーっと。もしもの話だから、ね?』
『考えたこともないよ…そんな、こじぱとあたしが、つきあ、付き合うなんてそんな』
『うんうん』
『てか』



そう言っていいずらそうに口ごもる
だからしばらく待ってあげる
言う勇気ができたのかゆっくりと泣きそうな顔がこっちを向いた



『こじぱもあたしも、女の子だよ』



そう言った



『そうゆうの気にする?』
『気にするってゆうか、普通はさ』
『優子はやっぱり男の子と付き合いたい?』
『んーこじぱが』
『陽菜が?』
『あんだけ可愛いんだから今までだって彼氏いたでしょーが』
『ああ、まあ』
『だから、考えたこともないよ。こじぱと付き合うなんて』





******



『だ、そうです』
『ふーん』
『まあとりあえず。陽菜が好印象だったのは良いことじゃん?』
『気にするのかな…そうゆうの』



女の子同士とかやっぱりあり得ないのかな
そう言った陽菜も泣きそうで今日の私の役目ってけっこう嫌な立場だなって考える



『はっきりと言ってはいなかったしさ。やっぱり肝心な所は陽菜が聞くべきだと思うよ』
『…うん』
『優子は少なくとも偏見とかないように感じたし』
『うーん』
『それに、陽菜だって実際、女の子は初めてなわけじゃん』
『うん』
『だったら尚更、陽菜が頑張るしかないよ』



んーーって机に伏せたあと、上げた顔は意外にもすっきりしていた



『ねえ、みいちゃん』
『ん?』
『今まで落とせなかった人っていないんだよね陽菜』
『ああ、そうね』
『でも本気で落ちた人もいなかった』




だからね?



『絶対、優子にも落ちてほしいんだ』



今までの陽菜を知ってるからだと思うけど今回は違う
ちゃんと悩んで苦しんで恋してるんだなって思う



『よしよーし』
『ふふ、なに?』
『振られたら慰めてあげよう』
『は?振られないし』



あんたはそんぐらいが丁度いいよ
そう言うと、確かに女神のように笑った

青い春 7

ーーお昼休み


優子side



(キンコーン…)



『う〜お腹すいた…』



今日の朝なにも食べなかったのが悪い
4時間目の授業はお腹が空いてまるで集中出来なかった



『ゆうちゃん?これあげる。チョコ』
『これ美味しいよ。新発売だったの』
『え?くれるの?ありがとう!』



(優しいいいい〜〜)



お腹が空きすぎて購買に走ることもしないで机にへたっていたあたしに、前の子も後ろの子も隣の子もそのまた隣の子もなにかしら食べ物を恵んでくれた
なんて素敵なマイフレンド
感動しながらその全てを有難く受け取った



『あは、いっぱい』



チョコに飴にグミにクッキーもある
入学して2ヶ月が経ったばかりのクラスだけどみんな優しくてみんな好き
一人一人にありがとうを言うと、また買ってくるね、とか、明日も持ってきてあげる、とか、とにかく嬉しい言葉ばかりかけられた



『なになに?なんでお菓子いっぱいなの』
『あ、みいちゃんも食べる?みんながくれたの!』
『はーん。相変わらずのモテ子ですね』
『???お腹空いたって言ったらくれただけだよ』
『私が同じこと言ってもたぶん集まらないと思うけど』



みいちゃんは感心したように机を見ていた
そんな大袈裟な話じゃないと思うんだけどなあ



『そういえば、陽菜こないなあ』
『あれ?そうだね。あたし購買ついでにこじぱの所いってくるねー』



隣のクラスのこじぱは初めて一緒にお昼を食べてから今日まで毎日うちのクラスでご飯を食べている
今日はなぜか遅いから迎えに行こう
財布を持って教室を出た



『なに食べよ、わあっ!!』
『わっ…びっくりした。あ、』
『こじぱ来てたの?ごめんねーぶつかりそうになっちゃった』
『大丈夫。えっと、購買?』
『そうだよ!こじぱ遅いから今迎えに行こうと思ってたんだ』
『あーうん。うん』



教室を出てすぐそこに立っていたこじぱに危うくぶつかりそうになった



『どうしたの?入らないの?』
『入る』
『…?』



って言いながら落ち着かない様子で目線を左右に動かしている
よく見ると大きな耳がほんのりと赤い気がするのは気のせいだろうか



『あたし、購買いってくるね?』
『んーうん…』



不思議に思いながらもこじぱの横を通り過ぎようとした



そのとき



『ふ、え?』
『あ、えっと、優子』



右腕をがっちり掴まれて止められた
あのね、あの、んうーってごもごもとなにか言っているのだけは聞こえる



『購買いくの?』
『え、うん。ご飯ないんだ』
『実はね、これ…』



おずおずと差し出されたのはお弁当箱
可愛いピンクの巾着袋に包まれたお弁当箱



『作ってきたの。優子のお弁当…』



いきなりのことにびっくりしてこじぱを見るとさっき赤かった気がする耳はしっかり赤いとわかるほど染まっていて、ほっぺも分かりやすく赤い



『…あたしに?』
『看病してくれたし、それに、優子いつも購買ばっかだし、それに、あの』
『こじぱー!!ありがとう!嬉しいよお!お礼なんていいのに!うわあ、ほんと嬉しい!』



まさかこんなサプライズがあるなんて!



『今日すごいお腹空いてて、ご飯食べたかったんだ』
『ほんと?良かった…』
『なんかね、お腹空いたって騒いでたらみんなお菓子くれてね』
『うん、うん』
『でも、一番嬉しいよ!ほんと一番!』
『っ、ん…美味しいかわかんないけど』
『美味しいよ!絶対!食べようこじぱ!』



こじぱの手を引いてルンルン気分で教室に入る



『みいちゃんみいちゃん!』
『あれ?優子、それ』
『じゃーん!こじぱが作ってくれたんだ』
『へえ!陽菜あんた、やるじゃん?んー?』
『っ、その顔やだ。峯岸』
『…態度違いすぎる』
『ねえ、早く食べよーよ。こじぱの愛妻弁当だ』
『愛妻!陽菜聞いた?愛妻だってよ?あ、い、さ、い』
『うっさい峯岸』
『……』
『食べちゃうよ?いただきまーす!』



その日食べたこじぱのお弁当はすごーく美味しくてあたしはペロリと完食した
美味しい?あ、卵焼きしょっぱくないかなって心配そうに見ていたけどむしろあたし好みの味付けだったから、さらにテンションが上がった



『美味しかった!ご馳走様でしたこじぱ!』
『ふふ、また作ってあげるね?』



そう言って微笑んだこじぱは天使に見えた

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