行事予定のホワイトボードを前に、仁王立ちをする林原さんがいつにも増して威圧感を放っていた。ずもももも、とか、ゴゴゴゴゴ、といった音まで聞こえてきそう。
対して、おはよーさんといつものように現れた春山さんは少し上機嫌なようだった。土産が欲しいなら早めに言えよと年末年始の帰省を心待ちにしているらしい。もうそんな時期なんだなあ。
「春山さん、浮かれるのは結構だがアンタはテスト時期にシフトに入ってるんだろうな」
「あ? 私がテストごときで金策をやめるように見えるか」
「見えませんが、卒業が怪しいので一応」
「テメーナメてんのかこの野郎、就職する気はないが単位と卒論は余裕だ」
テスト時期、それは言うまでもなく情報センターの繁忙期。もちろん俺たちスタッフも学生だから、アルバイトと学業が同時にドサドサと覆い被さってくるというのは夏にも体験した。
4年生の春山さんはそろそろバイトのシフトからもフェードアウトする……はずなんだけど、林原さんの言い方からすると、もう少しいてもらえるのかな? 嬉しいような怖いような。
「川北、春山さんで思い出したが毎年この時期は屑の4年が卒業を楯にスタッフを脅しに来るが怯むなよ」
「えっ、どう脅されるんですか?」
「ここで課題や卒論が出来なかったことで卒業出来なかったら情報センターの所為だからお前らを訴える、というのが基本だな。利用規約に反した結果退場させられて落とした単位の責任は負わんという利用規約は覚えておけ」
「リンはそれで過去何人も留年させてるからな。しかも、天下の大企業サマに就職決まってた奴までいたらしい。あー恐ろしい」
「ふん、利用規約の全文を覚えろとは言わんが壁にデカデカと書いてある項目まで破るような連中が世に出ることの方が恐ろしかろう」
脅されるのは怖いけど、正直春山さんから語られる林原さんの武勇伝の方が怖いし、言ってしまえば春山さんも結構怖い人だからそこらの4年生が脅しに来たところで何も感じなさそうだ。
慣れって怖いなあと思ってしまったけど、それを口に出したらどうなることやら。俺はいつの間にか今まで以上に鈍感に、それか、自分も台風の目か何かになってしまったのかもしれない。
サークルの方でもテル先輩が情報センターのスタッフはマジで怖いみたいなことを言ってたもんなあ。テル先輩の恐がり方はちょっとオーバーなように思えたけど。やっぱり慣れって怖い。
「夏はまだ怯んどったようだが、テスト期間も2度目になるんだ。お前も容赦なく摘み出せるようにならんとな」
「えー、やっぱり怖いですよー」
「摘み出されても自業自得だ。B番のスタッフは自習室の環境を守り、学生の補佐をすることが仕事だ」
そうなんだよなあ、それがB番の仕事なんだもんなあ。林原さんまでは行かなくとも、毅然とした態度でいられるようにはならなくちゃ。
「でも、私もB番で睨み利かせてた日に、最後まで残ってた真面目な子に感謝されたことはあるな」
「と言うか春山さんに礼を言える度胸があるなら自分で何とか出来そうな物だがな」
「確かに。そうですよねー」
「川北ァー、何が確かになのかなー?」
「わーっ! スイマセンスイマセンってばー! 謝るんでお土産にはバターサンドかチョコレートを!」
end.
++++
わしゃわしゃされてるどさくさ紛れにお土産を注文するミドリであった。チョコレートは溶けないといいね。
\リン様マジリン様/な武勇伝もいくらかあるとかないとか。就職の決まってる4年生だろうと容赦なく追い出すよ!
ところでリン様、どうして春山さんと屑の4年が結びつくんですかね……ひい恐ろしい恐ろしい