「はー、よいしょ!」
ずしーんと音が聞こえそうなほどに大袈裟な素振りを見せる我が彼女サマが落としたその束は、このご時世ではダイレクトメール以外になかなか見ることのない年賀はがき。
まさか、元日に届けるには25日までの投函をとしきりに呼びかける中で、今からこの量を書こうと言うのか。いや、パソコンがあるなら出来なくもないだろうけど手書きだと大変だぞ。
「お前、年賀状とか書くのな」
「今はいろんなサービスがあるから書くと言うか作る人も増えてると思うよ。まあ、うちはちゃんと描くけど。カズが24日と25日の趣味活動させてくれないからー」
慧梨夏の喋っている内容を深く考えると負けだ。特に、同音異句の漢字変換だ。何はともあれ、50枚はあるだろうそれを、今から頑張ると言うのだ。
確かに「私、宮林慧梨夏は24日と25日は趣味活動をしません」という誓約書を書かせたのは俺だ。だからと言って今作業をするか。いや、別に、今に始まったことじゃないのでいいんですけどね?
って言うか年賀状がどうして「趣味活動」の方に含まれるんですかね慧梨夏さん。お年賀って、普通は趣味じゃなくないですかね。お世話になった人への挨拶が基本だろうし。深く突っ込んだら負けだけど。
「あのねえ、趣味で同人とかやってるとこういうお年賀交換企画っていうのもあるんですよ」
「ふーん」
「ポストカードの物々交換を体よく言い換えてるんだけどね」
「表立って言うと怒られないかそれ」
パソコンの画面と睨み合いながら、誰にはこの絵柄、誰々にはこの絵柄と振り分けていくその手捌きだ。つーかお前こんだけの絵いつ描いてた。授業には出てたんだろうな。
ただ、この光景を見ていると、仮に趣味の一環だろうと年賀状自体を何年も書いてない俺からすれば感心してしまう。いつ頃から書いてないかな、中学とかそれくらい?
「慧梨夏」
「んー?」
「それ、趣味以外の友達とかに書いたりすんのか?」
「……ナ、ナンノコトー」
「目がブレてるぞ」
「こほん。ま、まあ、大学の友達とかにはメールとかSNSで重すぎない感じにしとくし。って言うか趣味以外の年賀状とかよっぽどマメな子以外だったら結婚しましたっていう写真付きの報告しか来ないよ」
「ああ、あれな。俺らはどうする?」
「やんないよ、やるワケないじゃん」
結婚報告はともかく式の写真をつけるのとかは他人からすれば興ざめだと、そういうところは意外にシビアな慧梨夏サマだ。ネタにすらならないと吐き捨てる様は、まるで積年の恨みを見るようでもある。
慧梨夏の年賀状に向けるベクトルがわからなくなってきたけれど、そんな混乱を無視してプリンターは規則的に動いている。あくまで年賀状はポストカードの物々交換イベントなのな。
「やっぱお前すげーわ。就職先が年賀状書くような文化の残ってるトコだったらデザインしてもらおうかな」
「カズ、身内だからタダで済むとは思わないでよね。デザイン料や工賃は取るからね」
「ホント、きっちりしてることで。しっかりした奥さんがもらえる約束になってて俺は幸せです」
「でも冷静になって考えたらカズがしてくれてるうちのお世話ってそれに値するなあ。よし、サービスだ! もってけドロボー!」
end.
++++
歳末のバカップルお年賀話である。いち氏が慧梨夏に誓約書を書かせるお話は来年以降か……いつかやりたい。
最近ではウェブ受付だったりスマホであれこれっていうサービスもあるようですが、慧梨夏はまめまめしくやっております。
あと慧梨夏の場合、いち氏からはネタも萌えももらってんだからこれ以上何を言うんだという気もするけど現金大事