「チッ、あの野郎…!」
睨み付ける手の上の画面。そこで繰り広げられていたのは路上ライブ。私はそれを近所繋がりのバンドマン連中と見ながらギリギリと歯を食い縛っていたワケで。
連中とはいろいろな話をしていた。大学祭のために組んだバンドでステージに立ったとか、自分らで曲を作ったりしてまあまあ充実したバンドライフを久々に送れたとか、そんなようなことを。
なず姉――今は社畜をしている私の姉も一緒になって各々の楽器をペンペンとかベンベン鳴らしていた年越しも今は昔。なず姉は社畜の名に恥じぬスケジュールだし、私は騙し討ちを食らっている。
『芹ちゃーん、見てたー? すごいでしょー今日の曲もリン君がわざわざ書き下ろしてくれてー』
「和泉お前そっち戻ったらボコるから覚えとけよ」
『えーまいったなー』
「チッ」
「全然参ってなさそうだなカホン君」
「ドMだからちょっと殴ったくらいじゃ逆効果なんだ」
タバコをふかしながら、兄のように親しくしているその人がプレッツェルを差し出してくれる。つーか乾き物よこすなら酒かコーヒーも一緒によこすだろ普通。
「芹サマ、コーヒーでございます」
「ついでに灰皿も付けてくれー」
今回の路上ライブは和泉発のドッキリらしい。ライブ後、ご丁寧にも「大成功」と書いた紙を掲げた和泉の写真がリンから送られてきた時には本当に殺してやろうかと思ったのは内緒にするまでもない。
連中はどうして私が物理的に手の届かない場所にいるときにこういう面白いことをしでかすのか。まあ、それをわかっていなければドッキリになるはずもないのだけど。とりあえず和泉は殺す。
今回、リンはいつも通りピアノで和泉はカホンという、前のブルースプリングとは少し様相を変えたライブになっていた。しかもリンに曲を書き下ろさせるとかどういう口説き方をしたんだ。
このライブ動画を一緒に見ていた地元連中も触発されたのか今は各々の楽器をドカドカと鳴らしている。このメンツの飲み会は暴飲騒音何でもありだ。楽器が置いてない理由もない。
「芹、なずなはどうしてんの。久々に聞きてーのにあの荒れ狂う三味線」
「なず姉はクリスマス前から1月中旬頃まで25連勤とか言ってたな」
「マジか、よくやるな」
私はああはならない。そう思って就活は早々に切り上げた。極端すぎるとはよく言われる。でも、型にハマった活動なんざしなくてもなるようになる。どーせ35には死ぬ予定なんだから。
「なるようになるっつって適当に収まったなずながどうなってんのか見てるクセによくそんなことが言えるな」
「つかそれバンドマンの言うことじゃなくね? あ、つかお前さ、動画配信とか出来るっけか」
「出来るけど。やる?」
やられたらやり返す。漢字の変換は殺すでも演じるでもいい。こんだけバンドマンが集まって、しかも最近じゃ動画配信もごくごく一般的になりつつあるご時世。即興のライブ配信が出来ない理由もない。
『もしもし芹ちゃーん』
「うらァー和泉ィー! リンもいるんだろ! 今から指定するチャンネルに入れ! テメーら私抜きでブルースプリング騙ってんじゃねーぞコラぁ!」
『フッ、上等だ。そこまで言うなら見せてもらおうか』
「あっリンテメーこの野郎」
end.
++++
春山さんの帰省中にいろいろあったお話。地元の兄ポジの人に名前はまだない。春山姉のこともちらりと。
青山さんとリン様の仕掛けたドッキリには見事にギリギリとしている春山さんですが、やられたらやりかえすのがモットーだよ!
ところでこないだすってんすってんとやらかした蒼希の怪我はどうなったんだろうか。