公式学年+1年
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「鯖の味噌煮は絶対にあった方がいいよ! 悪いことは言わないから!」
「でもそれだったら白い飯もいるじゃん?」
「白いご飯も持ってくこと前提で話してるからね」
俺たち2年生にとっては2度目のゼミ合宿だけど、その準備の前にはやはり先人の知恵を入れておきたい。そういうワケで、俺たち3班メンバーは果林先輩と岡山先輩を取り囲んでいる。
岡山先輩からは主に合宿の本題である卒論発表会や勉強に関することを、果林先輩からは自由時間の過ごし方やセミナーハウスの食糧事情のありがたい話が聞けている。
「白い飯なんてどうやって持ってくんすか」
「部屋には湯沸かしポットがあるから、そのお湯でちょちょっと。お湯とか水を入れたら食べれる非常食のアルファ米っていうのが割と簡単に手に入るから、そういうのを持ってくの。あと、レトルトパウチは湯煎したりね」
果林先輩基準で語られる食糧事情の話は俺たちには縁遠い……かと思いきや、食い入るように聞いているのが鵠さんだ。鯖の味噌煮には白い飯。アルファ米とは何ぞやという話をメモしている。
緑ヶ丘大学のセミナーハウスはそれはもう結構なコテージのような施設で、スキー場と併設している。夕飯はフランス料理のフルコースだし、朝ご飯はホテルのようなバイキングだ。
「やっぱ飯のことは千葉ちゃんに聞くのが大正解じゃん?」
「そうでしょ鵠さんもっとホメていーよ」
「鵠沼クン果林が調子に乗るから程々にしてね」
「うす」
去年の合宿での鵠さんは、白い飯が食いてえ白い飯が食いてえと譫言のように呟いていて、日が経つにつれ覇気も薄れたし、心なしか体も小さく見えた気がした。
俺はフルコースも朝食のバイキングも普段に比べれば盛大な食事だったから割と満足してたけど、果林先輩の持ち込んでいたカップラーメンを一口食べさせてもらったときの感動には敵わなかった。
「でも2年生ってことはお酒も解禁か。タカちゃんどれだけ持ってく?」
「あ、そこは俺に振るんですね」
「今や佐藤ゼミ1番の酒豪だもんねイケメン君」
「えっ、3年生もカウントしてるんですか!?」
自分が全然飲んでないつもりでいるとか、と安曇野さんが俺を蔑むような笑いを浮かべる。確かに2年生の中では顔色も変わらない方だけど、一滴も飲めない鵠さんと一緒にいるから飲んでるように見えるんだと思ってたよね。
「タカちゃんはウィスキー外せないだろうけど、ビンは帰りにかさばるからちょっと考えた方がいいかもよ」
「まあでも、中の液体がなくなって軽くはなりますよね」
「サービスエリアで珍しいお酒買い込むから絶対行きより重くなるよ。MBCCの歴代ゼミ生に受け継がれてる酒飲みの血らしいからね、タカちゃんにも眠ってるはずだよ」
「それじゃあウィスキーのビンは小さめのにして、紙パックの焼酎とかにしておきます。それならリッター単位のパックでも潰せますし最悪捨ててこれますもんね」
「つか仮にもゼミ合宿なのにリッター単位で飲む気でいるとかさすがゼミ1の酒豪じゃん…?」
ゼミ合宿は、卒論発表会がメインだけどやっぱり遊びの要素も強い。スキーやるならそれ用の装備もあるといいという話にもすっかり心が躍ってしまっている。問題は財政面、だけですよねー。
end.
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果林基準のトンデモ食糧事情が人様のお役に立つことがあるだなんて素晴らしい話じゃないか。鵠さんだからこそ通用するんだろうなあ。
この頃のタカちゃんはおそらくハナちゃんによる洗脳計画が成功してすっかり焼酎などにも手を出しているものだと思われる。
ちなみにあずみんもサービスエリアなんかでリンゴキャンディーを買い漁るし鵠さんもサークルへのお土産を買い漁るのでみんな荷物は帰りの方が多い模様。