ブブッと小刻みに震える携帯。メールだ。そのメールを開いてみると、本文やタイトルには何も記されておらず、ただただ真っ白な画像だけが添付されていた。
今日の昼、何気なくつけていたニュースで流れてきたのは大雪のニュース。雪かきをする人の映像が映し出され、手押し式の赤い未知のアイテムを装備したおばちゃんが「腰が痛なるわー」と嘆いていた。
その画面の斜め上に表示されていたのは、見覚えが、と言うよりは聞き覚えのある地名だった。「緑風・光星」と。それは紛れもなく彼女の実家がある町。帰省中の彼女は今、そこにいるはずだ。
気が気でなく、雪は大丈夫ですかと簡単なメールを送った。向島でも一応雪は降るけど、それでもよほどじゃないと降らないし、積もることもあるけど雪国ほどじゃない。
今日明日は向島でも寒いぞとか雪が降るんじゃないかと言われたりもしたけど、それよりもあの銀世界に押し込められた彼女の安否確認だ。いや、現地の人には慣れたことなんだろうけど、どうも心配で。
画像の白さが一瞬わからなかった。動物の毛のようにも一瞬思えてしまったから。菜月先輩は動物がお好きではないはずなのに、と思ってよーく見返してみると、雪の接写画像だったのだ。
画像の解析にしばし時間を要した。それに込められた意図が。返す言葉も見つからない。ありのままに、正直に。「異次元の世界です」と返信した。
次のメールも間髪置かず、今度は自宅の窓から撮影したと思われる外の写真が送られて来た。相変わらず本文やタイトルに文字はない。
今度の画像は、奥の方に雪をかぶった木が生い茂り、手前の方には小さな建物らしき物があるのがわかる。建物だと断定できないのは、ほぼほぼ雪に埋もれているからだ。
建物がほぼほぼ覆われるほどの積雪だということを、文字を使わずに言い表したかったのだろう。「大丈夫ですか」という温暖な地方からの生温い心配なんて、というポーズかもしれない。
これにも思ったままの感想と、次の質問を投げかけた。壮絶な世界ですね、雪かきなどはどうされているのですかと。ニュースで見たイメージでしかないものだから、気になって、つい。
するとまた間髪置かずメールが送られて来た。本文やタイトルがないのも当たり前になりつつあった。画像にあったのは、ニュースであのおばちゃんが使っていた未知のアイテムと、紫色のプラスチックスコップ。
どうやらそれを用いて雪かきをするということなのだろう。申し訳程度に脇に置かれた時計は、氷点下のままの温度表示。どうやら今日の緑風は真冬日なのだろう。
頑張って下さいとメールを送ってからは、メールが途絶えていた。俺は俺で、あの未知のアイテムがママさんダンプと呼ばれることや、その使い方をググっていたから時間間隔を失っていたのだけど。
それからもネットのニュースやワイドショーなんかでも大雪のニュースが散々流れていた。この間彼女はどうしているのだろうか。ニュースの映像を見ても、掻いた雪はどこへ捨てるんだということが気になる。
夕方になって、ようやく携帯が震えた。今度は本文にもちゃんと文字がある。気温が上がらなかったからパウダースノーに近くて雪かき自体はやりやすかった、と。
湯気を上げるマグカップの中身は恐らくココア。そしてその脇にはミカンが2つほど置かれていた。どうやら、返信のなかった間、雪かきをされていたらしい。
これに対して、俺は何と言って彼女を労えばいいだろうか。氷点下の中、それだけ長時間雪かきをしていたのだから、きっと体は冷え切っているだろう。ココアだけであったまるとも思えない。
ここも率直に、汗もかいていると思いますので体を冷やさないようにしてくださいと返信をした。間髪置かず返って来たメールに添付されていたのは、お湯が張られたお風呂の画像。これ以上の詮索は、野暮か。
end.
++++
メッセージも何もなく、情景とメールのやりとりだけがあるお話。大層雪の降ったらしい緑風と、向島でネサフやら何やらでごろんごろんしてたらしいノサカのあれこれ。
菜月さんは実家では嵐を呼ぶ女として認識されていたりする。それと言うのも彼女が緑風に戻ると少なからず大雪に見舞われるというジンクス的なヤツ。
ノサカがこんなところに行った日にはさみーって震えるか、メンバーによっては真っ白な雪原にヒト型の跡をつけたりとかしてはしゃいだりするんだろうな! 若い!