健康診断で気になるのは、身長とか体重とか目に見えるデータもあるけれど、そういうんじゃなくて目に見えないところのことがより一層心配になったりもする。
174センチ65キロ、体脂肪率も高すぎず。視力は少し悪いけど、聴力は異常なし。血液や尿も健康そのもの。一見健康体の俺だけど、ひとつだけ昔から引っかかり続けてる項目がある。
「心電図ですか?」
「そうなんだよ。これだけは昔から引っかかる」
「不整脈というヤツですね」
「それな。はあ。憂鬱だ」
「へー、イケメン詐欺の辞書にもアンニュイという単語があるんですね、さすがノサペディア」
今日は2年生の健康診断の日だ。寝坊で受けそびれないように例によってこーたの車で大学まで来てそのまま一緒に列に並ぶ。そして身長体重視力聴力レントゲン尿検査血液検査もろもろを受けていく。
こーたは、自分がメタボなのはわかりきっているから糖尿にさえなっていなければいいと開き直っている。それどころか俺にもそろそろ危ないんじゃないかと呪うような笑みを振りまく。
確かに俺も甘いものが好きだけど、糖尿やコレステロールよりはよっぽど心電図の方が気になる。異常はあるけど取り立てて騒ぐほどではないとは言われ続ける。でも気になって気になって。
「と言うか野坂さん、心臓に不安があってよくラグビーなんてやってましたよね」
「生活には全く支障ないし、運動も全然していいレベルだからな」
「そういうものなんですね。ま、サークル方面でも圭斗先輩や菜月先輩が引退されましたし、先輩に対するときめきが薄くなる分心臓への負担は軽減されそうですね」
「それなら俺は心臓を酷使したいに決まってるじゃないか! 先輩たちへのときめきが俺の心に与える潤いは計り知れないんだぞ!」
圭斗先輩の神々しさや麗しさ、そして菜月先輩の凛としつつも滲み出るかわいらしさ(脳内補正がかかってるじゃないかという指摘は受け付けない)を思い出すだけで得も言われぬ高揚感に包まれる。
ああ、先輩方が引退されたなんて今でも信じたくない。何を糧に俺は大学生活を送ればいいんだ。いや、勉強だってあるしサークル活動は楽しいけれど。ああ、先輩方。せめて一目お会いしたい。
「と言うか卒業式で会ってからまだ10日ほどでしょう。欠乏症に陥るのが早くありませんか」
「会える機会が今までよりグッと減ってると思うだけで禁断症状が」
「菜月先輩なんて向島にいない日もあるでしょうしね」
「それな! くそっ、就活め」
「野坂さん、あなたは不整脈よりも先輩依存を気にしなさい」
「こーたのクセにマジレスすんなよ」
そんなことを話しながらも並んだ列は着々と前に進んでいく。あーあ、やっぱり健康診断なんて憂鬱だ。いや、健康診断がと言うより今の話題がか。
「どうします、野坂さん」
「何が」
「今までは生活に支障のない不整脈でしたけど、程度が酷くなっていたら」
「それでもお前のメタボよりは軽いと思う」
「余計なことを言いなさんな!」
end.
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健康診断はノサ神。前々からあったノサカの隠れ設定、不整脈が表に出てきました。
と言うか今回のノサカは先輩大好き振りに拍車がかかっているような気がするよ! それこそ禁断症状か……
しかしながら圭斗さんや菜月さんに対するイメージに脳内補正がかかってるという自覚は多少あったのねw