春休みも終盤に近付いてくると、サークル棟にも人が続々と戻ってくる。どこもやってんなーと思う。ま、MBCCにしたってこの時期は新歓の準備だ何だって忙しくはなってんだけど。
「しかし軽音はうっせーな!」
「扉閉めないなら防音室MBCCにくれてもいいんじゃないかなー」
「ま、優先順位は部活のが高いだろうから次は演劇部だろうな」
サークル棟の防音室を占領している軽音部の演奏がけたたましく響く建物の中。防音室なのに扉を閉めないとかいう無意味な行動には理解を示せるはずもない。
こんな状況では落ち着いて作業も出来やしない、と匙を投げる。高木は小腹が空いたと言うし、ちょうど俺も何かつまみたい気分になったから食堂にでも行くかと部屋を後にした。
少し歩くだけでも、春に向けた賑やかさがが分かる。隣の美術部も活動をしているようだし、大学祭実行委員だとわかる作業着もバタバタと走り回っている。どこも活気があって感化される。
「何か、春って感じだね」
「そうだなー、桜もそろそろだべ」
建物の外でもバタバタと走り回る連中が多く見られた。少し歩けば運動部みたいなジャージ連中もいるし、やっぱり動き出すならこの季節なんだろう。
外に出ても聞こえる軽音の音。バンドごとに練習場所っつーのがあんのかもしんねーけど、防音室で足りねーならスタジオでも借りればいいじゃねーかと思ってしまう。
「あっ、あれカノンじゃない?」
「おー、そうだなー」
第1学食の前にある小さな広場の前では、軽音部連中が機材セットの練習をしているようだった。入学したときにもガン見したけど、軽音部や軽音サークルが昼休みにここでライブをやっている。
バンドの色は様々。カバーメインだったり、オリジナル一本でやるところもある。ポップとか、ロックとか、ジャンルもいろいろ。ボサノヴァアレンジのアンプラグドバンドなんてのもいたな。
「カノーン」
「あっ、タカティちょうどいいところに!」
「どうしたの?」
「これさー、音が鳴らないんだよねー」
「ちょっと見ていい?」
「おねがーい」
主に軽音部としての活動に身を置くカノンこと瀬戸幹奈はMBCCにも籍を置くミキサーだ。ちなみにバンドではベースを担当している。今はよくあるガールズバンドをやってるとか。
高木と幹奈が機材をセットする中、俺の興味は楽器に移る。最近じゃご無沙汰だけど、これでも地元じゃちょっとしたバンドをやってたこともある。あー、久々にギター弾きてーなっていう。
「エージヒマならアタシのベース触ってていいよ、まだかかりそうだし」
「ベースはあんま出来ないっていう。ギターはねーのかギターは」
「あるけどアタシのじゃないしレフティ仕様でもないよ」
「だよなー。あと別に右か左かっつーのは気にせんべ」
「エイジ、それか先にお好み焼き買って食べててもいいし」
「いや、それなら見てる」
こうしてライブに向けた空間が出来ていくのを眺めるのも悪くはなかった。バンドに限らず、演劇でも機材やセット組みを眺めるのが好きだったなーと今になって思い出す。
「高木ー」
「なに?」
「帰りお前ン家寄ってくべ」
「それはいいけど、ギターは明るい間だけだからね」
end.
++++
ありがとうタカエイ、さよならタカエイ、タカエイフォーエバー2014(年度)。
前にも春のタカエイとカノンの話をやったけど、あのときはカノンがMBCCのサークル室に顔を出してた。今回はタカエイが外に出たよ!
来年度はもう少しカノンも絡めた話がやりたいなと思いつつ、カノンが軽音をメインにしてる以上なかなか出番が以下略!