「だる……」
しとしとと雨の降る音の中、体の重さで目覚める。乾ききって開かない目蓋をこじ開け、数字を目に入れると14時47分。今日はダメな日だ。
食べる気にもならないのだけど、食べなければまた血を吐くことになるだろう。またあの痛みに襲われるのは勘弁だ。1日3食規則正しく食べるよう、医者からも言われている。
内臓に穴を開けて入院してからまだ1年も経たない。完治はしているだろうけど、調子のいい日と悪い日の差は未だに激しい。今日は悪い方の日だ。
思えば、あれ以前の俺は多少の体調不良ぐらいなら黙ってやり過ごしていたし、悪い顔色だってそれが地だと思っていた。多少生気がないくらいで大騒ぎすることではないと。
入院して学習したのは、今までは黙って見過ごしていたそれは意外と重大なサインだったということ。そのまま放っておいたら俺は間違いなく死んでいた。リアルに。
人を呪わば穴二つ、なんて言ってる場合ではなく。そもそも俺は呪いの民俗学を専攻にしているだけで実際に人を呪ったことがなければ呪詛返しを受ける覚えもない。
知っている中にはエナジードリンクを飲みながら気力だけで動いてる奴とか、炭水化物や酒を暴飲暴食してる奴もいるけど、そいつらは多分後からツケを払うのだろう。
1ヶ月の入院を経て、3年の春学期は丸々捨てることにした。それまでの単位数と秋学期の分でどれだけ取り戻せたかは計算する気力もない。
ただ、卒業を半期遅らせるという手段もあるし、急がなくてもいいと親は言っていたから場合によってはその言葉に甘えるかもしれない。今はどっちつかずだ。
昼食と言うには遅い時間だし、今から食べると夜が入らなくなる。分量を考えてちょうど良さそうなバナナを1本。ちょうど食べごろ。柔らかくて、甘い。
血を吐く夢を見ることがある。それは回想なのか、別の世界の俺がまた血を吐いているのか。いい方の日にはあの血は鮮やかな赤だから回想ではないなと思うだけの余裕がある。
必要な措置は行ったから再発の心配はほぼほぼないと聞いているけど、それでもたまには不安になる。入院生活で矯正された生活が乱れれば、とか。
酒は飲まなくなったし、コーヒーやなんかの刺激の強いものは意識的に避けている。辛い物なんかもそう。ついでに食べ物の塩分にも気を遣うようになった。
若いうちにそうやっておけば、案外長生き出来るかもしれない。大きな病歴だからこその長寿、なんてのもロマンだよなあなんて。バナナしか食べてない日に思うことではないけど。
夜は何を食べよう、めんどくさい。でも食べないとまた病床送りになる。そんなのまっぴらだ。ちゃんとサイズの合うクロックスを買い直さないといけなくなる。
レトルトのおかゆってまだあったっけ……ない。昨日食べたのが最後か。面倒だなー、買い物。ネットスーパーに頼んでも明日だろうな、届くの。
知ってる中にはアレが欲しいと言えば出してくれる財布を持つ女子もいるけど、あれは特殊だし。いいなあ、俺もそんな財布が欲しいものだね。
仕方ない、今日の夜もバナナでやり過ごして、明日が良い日になるまじないでも調べようか。それでもダメならネットスーパーだ。
end.
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まさかの長野っち単独みたいなあれこれ。チラッと高崎、菜月さん、朝霞Pの影が映りこんだりと思うところはいろいろ。
サイズの合うクロックス云々に関しては新年度以降にやれたらいいなと思っております。ってかそんなのばっかだなあ
今年の秋ごろ復帰した長野っちなので、まだナノスパにリニューアル復帰してからも1年に満たないのよね。長野っちは古参にしてまだまだこれからのキャラです。