「げっほげほっ」

 激しい咳が止むことはなく、重い体を引きずるようにやっとやっと歩を進める。たどり着いたロビーのソファに崩れ落ちてからも、タオルで口元を覆って咳を繰り返す。
 圭斗先輩に言わせればこれはこの時期の風物詩なのだそうだ。向島の気候が体に合わないのか、菜月先輩はこの時期になると夏風邪を患われるようになった、と。
 菜月先輩は辛そうにしている姿を他人に見られたくないはずだと思いつつ、辛そうにしているのを放っておくわけにもいかず。何かが起こらないとも限らないし一応付き添うことにした。