「みなさん、飲み物は行き渡りましたか?」
「はーい」
「それでは、無事に植物園イベントも終了したということで、1年生の歓迎会と兼ねることになって申し訳ないですが、打ち上げを始めたいと思います。乾杯!」
かんぱーいと声が揃い、グラスが合わさる音が響く。青葉女学園大学放送サークルABCの花形イベント、植物園ステージの打ち上げと新入生歓迎会は毎年同時に行われていて、ある種の伝統。
現時点で1年生はアナウンサーのサドニナこと佐渡仁那、ユキちゃんこと上野美雪、そしてミキサーのミラこと新庄美咲の3人がいる。このイベントではパートに関係なくステージ進行の補佐をしてもらった。
これからも新しい子が入ってくるかもしれないけど、一応いい時期ではあるし打ち上げの時期でもある。金銭的な面もあるし同時にやろうというのが同時開催の始まりという説。
「来年の今頃はサドニナオンステージですね! サドニナがステージで輝く姿に誰もが心を奪われるんですよ!」
「アンタ何言ってんの」
「Kちゃん先輩ひどいー! イジワルー!」
サドニナがウルサいことを除けば至って普通の、お酒のあるお食事会という感じの女子会プラン。そもそも、酒豪ゾーンの緑ヶ丘でもない限り、どこの大学でもそんな感じだと思う。
まったりとした空気の中、「Kちゃん見た?」と思い出したようにヒビキ先輩が話を切り出した。何の話かさっぱりわからなかったから、何をですかと尋ね返す。
「ステージから見えたんだけど、シーナさんが彼氏連れて来てたね」
「それは見てないです。直、アンタ見た?」
「ボクは着ぐるみの視野が狭くてそれどころじゃなかったよ」
「そうか。沙都子は?」
「アタシはシーナさんの気配を感じると無意識に避けちゃうから」
「そうだよね」
シーナさんという4年生の不良債権……はちょっと言い過ぎか。超絶問題児、いや、やっぱり不良債権だ。その不良債権が今更何の用だったのか。単に彼氏自慢だとは思うけど。
「シーナさんてもしかしてあの人ですかー?」
「サドニナ、見たの?」
「大した顔もしてないのにブリブリして気持ち悪い感じの! 紗希先輩が挨拶してたから知ってる人かなーとは思ったけど!」
「うん、サドニナが見た人で合ってるよ。アタシ挨拶したのシーナさんだけだから」
「ミキサーやってる最中に男連れてそんなトコまで近付くとか何考えてんだと思ったけど先輩なら余計何考えてんだですよ!」
知らないという武器をブンブンと振り回すサドニナに、2・3年生は笑いを堪えようとしている。だけど顔が歪んで、さらにサドニナが追い打ちをかけるように暴言を吐いていくから。
サドニナは声優志望でオーディションを受けたり歌の動画をインターネットに上げたりして本人曰く「活動」しているアイドルなんだそうだ。シーナさんとは「自分を見てほしい」という共通点がある。
正直オタクでも何でもないアタシからすればサドニナの行動はよくわからないし時々ものすごくイタく感じる。だけど、シーナさんに比べればまだまだかわいいし、健全だという事実。
「サドニナ、4年生の先輩の悪口なんてよく言えるね」
「だってだよユキ、4年生だろうとイタい物はイタいし言っちゃえば関わりもまだないし、見ててイライラした」
「でもサークルを見に来たらどうするの?」
「そのときはサドニナのまばゆい光で浄化して無に帰すから!」
これにとうとう2・3年生が噴き出してしまったのは言うまでもなく。サドニナのまばゆい光というのはともかく、4年生は1年生の若さにはどう向き合っても負けるんだから、いざとなったら……うん。
「はい、ご飯が不味くなるのでシーナさんの話はやめよう」
「そうしましょー!」
「お口直しに、1番サドニナ歌います!」
「大人しくしてて」
end.
++++
青女の闇を若い力が浄化するのか?という話。サドニナとシーナさんは相性悪そう。うん、良くなさそうだね!!!
今年は何気に夏合宿関連で大変なことになるミラの話も少しずつ出していきたいので名前くらいはここらでちゃんと出しておこうと。そのうちミラも含めたABCの話はやりたい。
サドニナと保護者啓子さんのあれこれも何気に好きだったりする。分かり合えないけど、だからこそ成り立つあれこれだと思ってみる。