「うーん、まだもうちょっとグラグラするかなあ」
サークル室に入ると、ミキサー席で何やら作業中。ふらふらするMDデッキと格闘しているのは1年生ミキサーのミラこと新庄美咲。
デッキがふらふらするというのは、物理的な話。MDデッキを支える脚が取れてしまってから久しい。型も古いし、本来ならデッキを新調するべきだろうけどABCにはお金がない。
「ミラ、何やってるの?」
「あ、直先輩おはようございます。デッキの脚、段ボール敷いただけじゃあんまりなので、脚を作ろうかと思って」
そう言ってミラは工作を続けている。取れてしまったMDデッキには、ミラの作る義足が取り付けられようとしていた。細かい調整を繰り返しながら、しっくりくる脚に。
「やっぱり、デッキ自体がまだ使えるから買い替えないみたいなことなんですか?」
「うん、ま、まあ、そういうことなんだろうね。機材の買い替えに関しては紗希先輩の判断だから」
「安い物でもないですもんねえ」
「そうだね」
何も知らない1年生に今更MDデッキが買えなくなった原因のことを話す必要はないとボクは思う。だから、本体がまだ使えるのだからと説明は留めた。
まさか、この部屋でやらかした先輩の後始末のために壁を塗り替えたりしてサークル費がカツカツになっているだなんて言えるはずもない。ボクだって思い出したくもない。
サドニナはもしあの人がまたここに来るようなことがあれば自分のアイドルオーラで追い返すと言っているけど(無知の利だろうか)、ミラはそういうタイプでもないから関わらない方がいい。
「これ、脚はどうやって作ってるの?」
「ボトルガムのケースで元ある脚に近い型を何となく作って、植物園イベントのときに余った綿を入れてぎゅーっと押し固めつつ針でチクチクやって隙間を埋める感じです」
「へえ、すごいね。ミラ、図工とか得意だったの?」
「そんなでもないですよ」
微調整した脚を、MDデッキの下に敷いてみる。ガタガタと軽く揺らしてみるけど、それまでより揺れが小さくなったような気がする。この感じなら番組を作るときにも支障なさそう。
「ミラ、いい感じだよ」
「本当ですか?」
「うん。簡単に取れないようにガムテで軽く止めておこうか」
「ありがとうございます」
これでもうしばらくは大丈夫だと思う。デッキを急いで買い替える必要がなくなれば、どうして機材が買えないのかという内政事情を話す必要もなくなるだろうから。
「おはよう」
「紗希先輩おはようございます。あっ、見てくださいこれ。ミラがMDデッキの脚を作ってくれたんですよ」
「ホントだ! すごいね、揺れないし。ミラ、ありがとう」
「あ、いえ、そんな大したことは…!」
「そしたら、デッキも揺れなくなったことだし練習しよっか」
「はい!」
初心者講習会でもらってきたレジュメを握り締め、ミラは紗希先輩が機材を解体する様子を眺めている。ミキサーを触る前に、今日は組み立ててみようという練習。
ボクはと言えば、ミラがどうしても詰まったときには手助けが出来るように。それでいて、ボク自身ミキサーとしてはまだまだ。紗希先輩からいろいろなことを盗みたい。
「はい。それじゃあ、直クンとミラで協力して組み立ててね」
「はーい」
「直クン、ミラが困ってても助け過ぎちゃダメだよ」
「わかりました」
end.
++++
青女春夏の1年生ミキサー・ミラをここで。まだキャラが固まってないけれど、割と大人しい感じの子じゃないかなあとは推測出来るのでこんな感じ。
彼女もだんだん濁っていくのかと思うと心が痛むのですが、仕方ない……すべては巡り合わせである。もうちょっと性格とか詰めたいね。
直クンは例の件に関しては割とズバッと物を言う印象。みんなを傷付ける存在や出来事はやっぱり許せないのかもしれない。