「世界のシゲトラ」
「出るのか」
対策委員からのお知らせ後、夏合宿の参加者名簿をご覧になられた菜月先輩と圭斗先輩の語尾には芝生が青々と茂っている。
ちなみに、芝生というのはネットスラングで言うところの嘲笑のダブリューをいくつも並べた「www」というヤツ。という意味合いで俺は理解している。
菜月先輩と圭斗先輩が何に反応しているのかと言えば、鳴尾浜茂虎という、厳つい名前。つばめが言うには星ヶ丘のミキサーで、3年生の参加者だ。
「先輩方は、鳴尾浜先輩のことをご存知なのですか?」
「ん、野坂、彼のことを話すには僕たちが1年生の頃の話から始めなければならないけれど、いいかい?」
「悦んで!」
ナ、ナンダッテー!? こんなところで菜月先輩と圭斗先輩のあの頃話が聞けるだなんて! 何がきっかけかわからないけどありがとう鳴尾浜先輩!
「スキー場DJで、僕と菜月さんが同じ班だったということは何度か話したな」
「はい」
「班の1年生は3人で、もう1人いたミキサーの1年生がこの鳴尾浜君、もとい、世界のシゲトラだ」
「ふひっ、世界のっ、ひーっ、シゲっトラっ」
「あの、菜月先輩。笑い過ぎによる過呼吸にはお気を付けください」
「大丈夫だ、ひひっ」
菜月先輩が1年生当時の12月から撮り溜め続けているサークルのアルバムにも、スキー場DJのページが何ページかある。と言うか圭斗先輩も菜月先輩もお若い。
オレンジがかった茶髪の圭斗先輩に、赤茶色の髪をした菜月先輩(と言うか菜月先輩のお写真が残っているのがレアすぎてこの写真を携帯で今度撮ろう)。それと、眩しい金髪をした人がいる。
「これが世界のシゲトラ」
「先程から気になっていたのですが、何故、世界のと付くのでしょうか」
「由来までは知らないけど、ネタには事欠かないということは菜月さんの反応を見てお察しいただければ」
菜月先輩は相変わらず苦しそうに笑っている。元々笑いの閾値はそこまで高くないらしいけど(ただ、笑いのツボは少しズレているらしい)、それでもこの苦しみ方は異常だ。
「そう言えば、菜月さんが彼のモノマネを会得していたよ。やってもらったらどうだい?」
「ナ、ナンダッテー!?」
「はーっ、はーっ、やっと落ち着いて来た」
「菜月さん、彼のモノマネをぜひ」
「世界のシゲトラのモノマネと言うと、キュー振りだのクロスフェードでいいんだろ?」
「ん、そうだね」
機材の前に座った菜月先輩は、アナウンサーがいる方がいいと言って圭斗先輩をアナウンサー席に置いた。と言うかモノマネだなんてレアすぎるだろ。
「こほん。あー5秒前ー、4、3……アァイッ」
「みなさんこんにちは、MMPこんにちはの時間になりました。本日お送りします特集は、インターフェイスにおける権力闘争の現場です」
「あいいーよーいーよー、トニーちゃん声張ってー」
ミキサー席で小刻みに体を揺らす菜月先輩の異様さだ縦に首でリズムを刻みながら体は横に揺れる。それでもって、キュー振りやらフェーダー操作が雑に見える。
と言うかマイクに入るんじゃないかという勢いで横からガヤを入れているのだけど。しかもこれはモノマネだ。モノマネでこうなら本物はどうなるんだ!
「こんな感じか」
「ん、野坂は意味のわからなさに固まっているようだね」
「はい、まさしくその通りです。意味が分かりません」
「これはほんの序の口で、彼のエピソードはまだある」
「扱いはめんどくさいけど三井ほどじゃないから心配するな」
「だとすれば救われますが」
圭斗先輩が仰るには「朝霞先輩曰くアホほどプラス思考」との情報もある。言動にネタが事欠かなくてプラス思考……うん、まあ、三井先輩タイプのめんどくささじゃないなら……いいや!
end.
++++
やっつけ。星ヶ丘の永世中立班にいる世界のシゲトラと、菜月さん&圭斗さんのちょっとしたあの頃話。忘れた頃にまたエピソードぶっこむかも。
三井サンタイプのめんどくささじゃないなら何とかなるだろうと考えることを放棄したノサカであった。
しかし写真を写メろうだなんてノサカよ、考えることがちょっとアレになってきているような気がするぜ!