「はー、やっぱカバンが新しいと身が引き締まるね!」
「ディレクター業務に身が入るなら俺も報われるでしょでしょ〜……」
戸田のウエストポーチがキレイになったのは、山口の財布から札が羽を生やして飛んでいった結果だろう。昨日はスポーツ用品店に出かけると言っていたから、そこで飛んだな。
「なんか、最近みんなご機嫌みたいですけど、いいことでもあったんですか?」
源の疑問はご尤もだ。周りを見れば、山口と戸田が昨日一昨日はああだこうだと盛り上がっている。流刑地班がこの時期にこうなのは、俺が1年の時からだから深く気に留めたこともなかったけど。
「ああ、昨日が戸田の誕生日で、一昨日が山口だったからな。この時期は誕生日ラッシュで浮かれるんだ」
「なるほどぉ。あー、でも知ってればお祝い出来たのに」
「山口と戸田は互いに集り合ってるから首を突っ込むと巻き添え食らうぞ」
流刑地班で1人だけ誕生日の時期が違う俺は、誕生日で浮かれた気分のところには近付かずにただただ台本と向き合うだけ。去年もそうやって過ごしていた。
去年の今頃はまだ戸田が班に加入していなかった。だけど、加入後に飲みながら誕生日云々の話をしていて山口と1日違いであることを聞いて驚いたのは記憶に新しい。
「お前の前のミキサーで班長だった越谷さんっていう4年生がいるんだけど、その人が明日のはずだ」
「へー、みんな近いんですね! 朝霞先輩はいつなんですか?」
「俺は7月末だから誕生日なんて無いような物だ」
「え、なんでですか?」
「その頃は丸の池ステージに向けて立て込んでるからな。それどころじゃない」
そんな風に話していると、横から山口がその頃の朝霞クンは日付感覚なくなっちゃうからね〜などと人のことを小馬鹿にしてくる。
8月アタマの丸の池ステージ本番までの時間感覚はしっかり持っているはずだ。ただ、ステージが近くなると戸田にも書類の日付を訂正されることが増える。不覚だけど。
「って言うか、ゲンゴローって誕生日いつなの〜? まだだったら覚えといて、余裕がある時期だったらしっかりお祝いしたいよねよね〜」
「えっ、そんな山口先輩とつばめ先輩のお祝いも出来なかったのに」
「い〜のい〜の、気持ちだけで。で、いつ〜?」
「この流れではちょっと言いにくいんですけど」
「まさか、丸の池当日とか?」
「あ、いえ。そうじゃなくて、今日なんですよ」
山口と戸田の驚いた叫び声に隣の班からパーテーションを殴られたところで、改めて発覚した源の誕生日とカレンダーを擦り合わせる。
ひょっとしなくても、22日の山口に始まり23日が戸田、24に源が入ってくれば、25日の越谷さんまでの間に空白がなくなる。
「ちょっと待って、これってすごくない!?」
「普通にすごいよね〜」
「洋平、これは飲むべき」
「お店、席取っとく〜?」
「取るだろ。朝霞サンの奢りで6月生まれに五種盛りとる〜び〜だ!」
「あ、俺はまだ未成年なのでコーラで」
「誰が奢るか」
山口と戸田がやれ焼き鳥だ酒だと盛り上がる中、俺は一瞬止まった手を再び動かす。もしこれから本当に飲むのであれば、それまでにやることをやっておかなくては。
今は別にいいけど、25日が過ぎればこの浮かれモードは容赦なくぶった切らせてもらう。言えば、本格的にステージの打ち合わせや練習が入ってくる前の、束の間の休息だ。
「でも、朝霞先輩の誕生日がないようなものっていうのも寂しいですね」
「大丈夫大丈夫、時期が時期だしレッドブル与えとけば喜ぶから」
「戸田、俺を何だと思ってんだ」
end.
++++
朝霞班の誕生日話。ゲンゴローの誕生日が明らかになったところで、本格的に朝霞Pだけ仲間はずれにされてるとかいうヤツ。
星ヶ丘も誕生日だからと言って特別どうこうするところでもないはずなんだけど、みんなでわいわいするのが基本的に好きな面々なので飲む理由にはする……ってどこのMBCCや
……と言うか時期が時期だけにレッドブルの差し入れは嬉しいはずなんだけどなあ朝霞Pにはwww