Maniacer's Spiral (R)

「やりたいとは思ってるんだ」
「へー、じゃあ大学祭の中夜祭ステージに参加申し込みしとくね」
「まだ申し込むな！　と言うか気が早いぞ和泉、まだ結成もしてないのに」

　こんなときの和泉は目や口よりも音が物を語る。やるなら早くしろ、誰かコード進行出来る奴を連れて来い。そんな風に急かされているのはわかっている。
　音楽は世界共通語ダーとかナントカ言うけど、音楽以外の面は難しい。和泉は軽音サークルに所属していて、ある程度楽器を触る知り合いも多い。
　ただ、今と同じように過去にも気紛れジャズバンドをやろうとしたけど、和泉の知り合いが私にマッチした試しはない。私が普通に音楽を語っただけでドン引かれるとかいう連中ばかりだった。

「芹ちゃんの知り合いで誰かいるー？」
「いないことはないんだ」
「じゃあその人でいーじゃん、ナニやる人？」
「奴はピアノなんだが、奴を落とすにはそれ相応の準備と覚悟と脅すネタが要る」
「バンド経験者なの？」
「いや、私が聞いた限りではないはずだ。ピアノは独学ながら洋食屋でピアニストのバイトしてたりしてて面白いんだけどな。たまにアレンジの相談にも乗ってるし」
「えー！　その人にしーよーうーよー！」

　全身で和泉が駄々をこねるのが、腹の中にも振動になって伝わる。どうやら、これだけの情報で奴に興味を持ったらしい。きっと私が「面白い」と言ったからだと思うんだけど。
　ただ、あの出不精のリンを動かすにはそれ相応の準備と覚悟と脅すネタが必要だ。そうでなければわずかな隙を見つけてやらない理由を押し通す。実にめんどくさい男だ。

「そいつにしようとか簡単に言うけどな和泉、結構な労だぞ」
「わかった、それじゃあ芹ちゃんがその人を説得出来なかったら、そのときは俺が芹ちゃんを１日好きに出来る権利もらえることにしようよ。そうでしょ？　芹ちゃんがバンドやりたいって言ってるんだから」
「全力で口説きに行くわ」
「えっ、そんなに俺に好きにされるのが嫌なの芹ちゃん！　って言うか口説きに行くって表現が何か嫌！」
「ジャンジャンうるせー和泉！　シンバルやめろ！」
「やめない！」

　和泉に１日好きにされるとか、予定にはまだ早いが死んだ方がマシだ。和泉がアホ過ぎて、ナニをされるかわかるけどわかったモンじゃない。
　そうとなったら全力であの出不精のリンを落としに行く覚悟だ。そうだ、私には必殺の脅し文句があったじゃないか！　スマンリン、私の人生のために２ヶ月犠牲になってくれ。


end.


＋＋＋＋

青山さんはどこまでぶっ飛ばしていいのかよくわかりません！　ドラム触ってるだけならセーフだから…！
さて、そろそろブルースプリング結成に向けた動きも見えて来るんじゃないかということでそんなこんな。
リン様への脅し文句はお馴染みのアレなんだけれども、果たして今年のリン様にもこれまで同様通用するか！