丸の池の前ならテスト期間だからともかく、大学祭の前は普通に授業がある。どうでもいい授業ならともかく、ゼミはサボるなって前々から釘を刺されまくってるし。
本来ならゼミの時間だろうとその気になればステージのことを考えていられるけど、何なんだろうなマジでここの教授鬼だろ。よりによって発表をぶち込んでくるとか確信犯じゃねーか。
「おはよー、ひいっ!」
シャーペンを持った右手は用意した発表資料の上、同じくボールペンを取った左手は台本の上でそれぞれ動かす。どちらがガチなのかは両利きとは言え左メインであることからお察しいただきたい。
恐る恐る。そんな様子で音を立てないようすとんと席に着いた伏見は、俺の様子をチラチラと窺っている。お前が何かしたところで今更機嫌を損ねたりすることもないが。
「あ、朝霞クン大丈夫…?」
「何がだ」
「焦点定まって無さそうだし、手なんかどっちも動いてるから」
「手はどっちも動かしてるんだ」
「そ、そう」
どっちも動かしているとは言ったものの、右手はおまけ程度にしか動かなくなった。やっぱりここぞと言うときにノってくるのは左手だ。いや、何の上にあるかという部分だろう。
「伏見、お前はどうなんだ」
「何が?」
「部活は」
「撮影は終わったし、あとは細かい編集だから見守ってるだけだよ」
「そうか、編集は編集を担当する奴がいるのか」
「そうだね」
映研にもそういう分業制じゃないけど、パートのような物があるというのは初めて知った。ウチの班に置き換えれば、ラジドラで戸田に託した編集作業を見守る段階といったところか。
「朝霞クン、いつにも増して熱が入ってるね」
「最後だからな」
「え、最後なの?」
「放送部は3年の学祭で代替わりして引退するけど、映研は違うのか」
「映研は4年の卒制までガッツリ」
「同じ文化部でも部が違えばいろいろ違うんだな」
もちろん、4年になれば就活だの卒論だの、やらなければいけないことはいろいろ入って来る。3年までと同じように部での活動を、と思っても難しくなるだろう。
卒業するまで部で映像に携わっていられる映研を羨ましく思うだろうと思ったけれど、意外にそれに対しては淡泊な自分に気付く。4年になってもステージを、なんて。想像したこともない。
「学祭で上映するんだったよな」
「そうだよ。よかったら見に来て」
「見に行きたいのは山々だけど、見に行く時間と余裕がある気がしない」
「じゃあ、出来たらDVDに焼いて朝霞クンにあげる」
「そうか、悪い」
感想ちょうだいね、と伏見は椅子の上で膝を抱える。いつからか、俺はすっかり伏見のご意見番のようになってしまっている。自分が映像を齧ったワケでもないのに。確かに映画は好きだけど。
俺は放送部を引退するけど、伏見は映研で活動を続ける。これからも、伏見の泣き言を聞いたり頼まれもしない説教をしたり、作り上げた作品を見たりするのだろうか。
「朝霞クン、右手止まってる」
「知ってる」
「発表大丈夫?」
「大丈夫な気がしない。絶対確信犯だろ」
「いいじゃん、今やっとけばテスト前とかにぶつからないし」
「テストなんかどうにだってなるんだ。今の俺にはステージが第一だ」
右手の下に敷いていた発表資料は諦めてしまうことにした。今更悪足掻きをしたところでどうこうなるものじゃない。ペン先は左手一点集中。
「朝霞クンのステージ、見に行くね」
「ああ。時間が合えば。とは言っても俺が壇上に立つワケじゃないからな」
「朝霞クンがそれだけ入れ込んでるステージ、ちゃんと見たいから」
「泣いても笑ってもあと1回だ」
end.
++++
どこの大学でも大学祭の前だろうが授業は普通にやってます。出ないタイプの人でも出なければならない授業はあります。
両手にシャーペン持ったところで動かせるのは片方だろうに悪足掻きをしてしまうのはこの時期だからか。
ふしみんに関してはきっとこれからも朝霞Pにいろいろ相談するだろうしどうなるんやろな、ふしみん