「メグちゃん、カメラから離れてよかったの?」
「浦和さんに頼んであるから問題ないわ」
星ヶ丘大学の大学祭3日目。放送部の企画ステージはタイムテーブルの通りに進んでいる。今のところ大きな事故もなく、順調に進んでいるという印象。
俺はと言えば、次に控えた出番の前に少しばかりの息抜きを。朝霞班は昨日と今日で1時間ずつの枠をもらえている。朝霞クンだから当然と言えば当然だけど、昨日と今日でやることは全く違う。
2日間ステージがあると、2日とも同じ企画をやるっていうパターンもあるにはある。今回もそういう形式を執っている班は当たり前のようにある。でも、その辺は朝霞クンだから。
「宇部班はさすがだったよね。まとまってるって言うか、あらゆるケースを想定してあったんじゃない?」
「企画を立てる以上、想定外なんて許されないわ」
最後の出番の前に少しだけ取れた自由時間は、カメラを回すメグちゃんに声をかけた。特にそれという理由もなく、ただ、何となく。思えば、こうしてメグちゃんと2人で話すのは久し振り。
「朝霞班はどうなの? 昨日とはまた変えてくるんでしょう?」
「そうだね。朝霞クンは昨日と同じで満足するPじゃないし、俺も、昨日と全く同じ台本でも同じには出来ないMCだから。変えようとしなくても変わっちゃうよね」
「あなたはそれでいいと思うわ」
「もしもの話、してもいい?」
「ええ」
「もしメグちゃんの班に俺がいたら、俺をどう動かしてた?」
少し考えて、メグちゃんは首を横に振った。
「一昨年ならともかく、今はあなたをただ見ていたいわ。その“もしも”の話はもう考えられない。あなたは朝霞班のステージスター・山口洋平。そうあるあなたが好きよ」
「ありがと」
昔、メグちゃんと付き合ってた頃。今と同じようにこうやって2人でステージの話をしたことがあった。メグちゃんの台本で動く俺。俺が最大限生きるステージをいつかお膳立てするからという約束。
俺も、メグちゃんの台本をより映えさせるステージスターにならなきゃね、と返した。その時点で班はもう違っていたけど、ヘルプとかそういうのでどうにでもなると思っていたから。
流刑地の人間と幹部。立場が違うとこうまで交われないものかとこの部活の体質にはため息しか出なかった。それでも俺は、どこでだって、誰とだって楽しくやりたかった。
「メグちゃんの台本ならともかく、朝霞クンの台本をやれるのは俺だけだからね」
「あなたがいなかったら朝霞は破滅への道を真っ直ぐ歩んでいたと思うわ」
「朝霞クンと心中するって決めてたから」
「私もあなたと心中する覚悟を持つべきだったわね」
「……メグちゃん、今まで全部一人で背負わせてきて、ゴメンね。俺だけ好き勝手にやらせてもらって――」
「言ったでしょ、足りなかったのは私の覚悟」
それは、部活でどうなろうと俺との関係を貫き通す覚悟であり、腐りきったこの部の体制をどうこうする覚悟。機が熟したら、なんて言っていられるほど余裕なんてなかったんだと思う。
俺がステージに立たせてもらえてるのは、朝霞クンはじめ班のみんながいるから。だけど、普通にやってたんじゃ枠なんて十分にもらえない中で、実力だけを見て枠をくれたメグちゃんのおかげ。お膳立てはしてもらってる。
「恵美」
「なに?」
「もし今日が終わって、このまま部活を引退したら……その、俺ともう1回つ」
自分でも何を言おうとしたかわからないまま感じるのはケータイからの振動。呼び戻してくれてよかった。このままだったらこれから自分が何をするのか全部吹っ飛ぶところだった。
「あー、朝霞クンこれ絶対怒ってるヤツだ。ゴメンねメグちゃん、今の、なかったことにして」
「ええ。もしもの話は好きじゃないわ。ステージが終わって気が変わらないならはっきり伝えてちょうだい、NOの返事をしてあげるわ」
「ありがと。目が覚めた」
「行ってらっしゃい」
「うん、行ってきます」
end.
++++
洋平ちゃんと宇部Pのあれやこれや。洋めぐが実に美味い。あの頃にいろいろあったこの2人だけど、これからどうなるのやら。
たまにヘルプとかで洋平ちゃんは宇部Pの台本をやることがあるんだろうけど、自分がメインで長いステージをやるということはきっと実現しなかったんだろうなと。
もしも〜だったらと言い始めたらキリがないけど、その時その場所で懸命に生きることを選んだ者たちのお話。