「終わったな」
「うん。これでおしまい」
大学祭が終わった。大きな事故もなく、無事に。終わってしまうとあっと言う間で。舞台の枠組みやテントは跡形もなくなったけど、明日からは普通に授業が再開されるなんて思えない余韻。
放送部は大学祭を区切りとして代替わりになる。3年生はこれで引退して、ここからは1・2年生だけで活動をしていく。他の大学さんみたく秋学期いっぱいまで顔を出すということもなく。
朝霞クンは、足が鉛になったみたくその場から微動だにしない。腕を組んだまま、どこかを見つめている。それを囲む俺たちも、何となくその場から動けずにいた。
「山口先輩、本当にこれでおしまいなんですか」
「うん。俺と朝霞クンはこれっきり。でも、ゲンゴローとつばちゃんにはまだ先があるから、頑張ってね」
つばちゃんが、どことも言えない宙を睨みつけている。視線の先にあるのは闇だ。大学祭で使っていた電飾や照明も片付けられ、学内は少しずつ光を失っている。
「朝霞先輩、本当におしまいなんですか」
「ああ」
「分裂とかしないですか。朝霞先輩なら人ならざるモノの何かダークマターとかそんな闇の力で空間をねじ曲げて」
「俺を何だと思ってるんだ」
いくら朝霞クンでも空間をねじ曲げたり分裂したりは出来ない。つばちゃんとゲンゴローに訪れる最初の試練はプロデューサーとアナウンサーが一気に抜けてミキサーとディレクターしか残らないこと。
班にPとアナがいなければ、ステージをやるのはかなり難しい。改めて突きつけられた現実で重くなった空気を裂くように、朝霞クンが腕組みを解いて口を開く。
「源」
「はい」
「お前には、ここでしか出来ないことと、ここでやるべきことがある。しっかり戸田を支えてくれ」
「はい」
「戸田」
スッと差し出された右手を、つばちゃんはなかなか取ろうとしない。多分、取ってしまうと、朝霞クンがいなくなることを認めてしまうから。ステージがやれなくなるという現実に近付いてしまうから。
代々頭数の少ない、流刑地と呼ばれるこの班では話し合いや上からの指名も何もなく次の班長が決まることが多い。去年は、雄平さんが引継の握手に左手を差し出すことで班長を指名したけれど。
今年は1人しかいない2年生のつばちゃんが次の班長だと決まってる。迫る現実を、つばちゃんはきっと1人で背負わなければいけないと思っているのかもしれない。ステージをやれなくなることに対する不安は前からあるみたいだし。
「つばちゃん」
「つばめ先輩」
「ん」
やっと、つばちゃんが朝霞クンの手を取った。
「戸田、火を絶やすな」
それは、今までの先輩から受け継がれてきた班のことであり、つばちゃん自身の心の火のことなのかなと思った。どちらかと言うと、後者の意味合いの方が強いのかもしれない。
「ここは、守りに入ったところで得られる物は何もない辺境の地だ。攻めろ、必要があればぶっ壊せ。どんな手を使っても生き延びろ」
「はい、必ず」
固く交わされた手が離れ、みんなの視線が明日に向いた。つばちゃん、ゲンゴロー、頑張れ。俺と朝霞クンもそれぞれの道で頑張るよ。
「それじゃあ朝霞班、解散!」
「はーいそれじゃあ打ち上げ行くよ〜」
「よーし、串とる〜び〜だー!」
end.
++++
星ヶ丘の放送部は学祭で本当に3年生の活動はおしまい。MBCCとかMMPみたく秋学期いっぱいまでいるというワケではないようです。
というワケで朝霞班解散回。ゲンゴローはこの班になくてはならない存在になったし、これからのつばちゃんはどうなるのか。
でも結局は串とる〜び〜に落ち着く辺りが朝霞班らしいところなのかもしれない。隙あらば飲んでるのはMBCCといい勝負な気がする。