あれだけ学祭学祭と慌ただしく過ごしていたのに、それを通り過ぎてしまうと静か過ぎる。サークルも代替わりを迎え、第9期MMPは律を代表に活動していくことになった。
良くも悪くも圧倒的存在感の3年生が一線を退かれ、MMPはさぞかし寂しくなる。誰もがそう思っていた。そう、今この瞬間までは。なんて、ベタなパターン過ぎて。
「よーし野郎共、缶蹴りの練習だ!」
「おー」
「……あの、圭斗先輩缶蹴りの練習とはこれ如何に」
「緑ヶ丘とはもう話がついてるんだ。緑ヶ丘主催で2校の合同飲み会。その後に向島主催の缶蹴り大会が開催されることに決まったよ」
「ナ、ナンダッテー!?」
代替わり後初めての発声練習の場。新アナ部長のヒロがぐだぐだな進行ながらも一通りの練習をこなしたまではよかった。一段落がついて、圭斗先輩が仁王立ちでおっしゃったのがこれ。
緑ヶ丘との合同飲み会、そこまではいい。昔からウチと緑ヶ丘はそれなりに仲が良くて、2校での練習会なんかも開かれていたという議事は実際に残っている。でも缶蹴りって。向島主催が缶蹴りって。
「いいかい野坂。交流会と言えど、戦争だ。向島の威信に懸けて負けるわけにはいかないんだよ」
「はあ」
「りっちゃん、缶を貸してくれないかい?」
「へーい」
律の飲んでいたコーヒーの缶が地面にセットされ、次に圭斗先輩からお声がかかるのは菜月先輩だ。前に出てきてくれと。今度は何が始まるって言うんだ。
「ここで菜月さんのお手本だよ。華麗な足技に注目だ」
「缶を蹴っ飛ばせばいいんだな」
「ん、思い切り頼むよ」
スコーンと気持ちのいい音が秋の空に響き、放物線を描いて飛んだ缶は坂の下めがけて一直線。栄光への架け橋だー。すると、缶の飛んだ方から人の声。いてっという声は山の効果で反響している。
しばらくしてその声の主が遅れてやって来た三井先輩だとわかった瞬間、放物線を見送った面々は自然と拍手をしていた。物凄いコントロールだと。まあ、事故らなくて良かったとしか言えないけど。
「ちょっと、この缶飛ばしたのってMMPだったの!?」
「缶蹴りの練習だ」
「え、缶蹴りやるの?」
「緑ヶ丘との伝統の一戦だよ」
「へー、楽しみだなあ。本番は昼? 夜?」
「夜だよ。飲み会の後だ」
「じゃああまり飲み過ぎないようにしないと」
しかしまあ3年生のこの気合いの入りようだ。缶蹴りに対する情熱が2年生以下の比じゃない。3年生の先輩方にとっては缶蹴りやケイドロと言った遊びが日常だったとは言うけどこれは。
そして律がぼそっと呟く。代替わりして責任のような物がなくなった瞬間これだから、これからもっとエラい暴発が来ても不思議じゃないスわァー、ははァーと。
それでなくても現在のMMPに刻まれたムライズムなる悪ノリの系譜だ。その大本である村井サンの卒業が迫っている。3・4年生が惜別のラストムライズムをかましてきたって何ら不思議じゃない!
「律、ラブ&ピースで何とかならないか」
「ははァー、野坂、手遅れの星に願いをかけたッてどーにもなりャせんわ」
end.
++++
身体能力+アルコール耐性のMBCCと、ホームアドバンテージ+慣れのMMP。実際やるとどっちが強いのかな、缶蹴り。
というワケで代替わり後の話……のはずが圭斗さんがウッキウキだしでなんじゃかんじゃと……でも圭斗さんってこんな人。
よい子は道に向かって缶を蹴り飛ばさないようにしましょう ※この缶は三井サンが回収してきました