「紅葉を見に行こうよう」
とあるサークル活動日に突然現れた4年生の先輩方が急に何を言うのかと思えば、こ、紅葉…? これが村井サンの発言であればはいはいって流せるんだけど、麻里さんだと言うのがわからないんだ…!
「確かに行楽シーズンですからね。紅葉を見るにはいいですね」
「圭斗さんならわかってくれると思ってたよ。紅葉を見に行こうようツアーやろうよ」
「さっきから麻里がずっとこうなんだって」
「でも、たまにはそういうのもいいかもしれませんね」
さすが圭斗先輩だ、真顔で紅葉を見に行こうようと繰り返す麻里さんにこれ以上ないお手本のような返答。さすが圭斗先輩だ、俺には到底達することの出来ない域にいらっしゃる。
「圭斗さんは乗り気だけど、2年生の興味なさったら」
「2年生にそういうのを求めるだけ無駄でしょう。りっちゃんならまだ希望は持てますが」
「や、自分紅葉のド真ん中みたいなトコに住んでるンでそこまで有り難みがナイっつーか」
「逆にね」
「そースね。麻里サンには申し訳ないンすけど」
「りっちゃんの地元はあれでしょ? 町並みも結構綺麗で栗きんとんが有名で」
「や、それは町の方で市町村合併前のガチ地元はそれこそ山スよ」
それでも麻里さんは律の地元の話に興味が湧いたのか、どういうところなのかと説明を求めている。律もそれに対して面白おかしなトークで想像を掻き立てた。
紅葉を見に行こうようツアーの話は律の活躍で一旦は脇に反れた。麻里さんはダジャレではなく本当に紅葉を見に行きたいそうだけど、どうしてそれをここに求めたのやら。
「うちも、紅葉だったらボートに乗って見たいな」
「ん、ボートかい?」
「峡谷の中にある湖を、手漕ぎのゴムボートに乗って進むんだ。両脇から迫る山肌や紅葉が圧巻らしい」
「へえ、そんなところが。それはどこなんだい?」
「緑風だな」
「遠いな」
手漕ぎのボートに乗って菜月先輩と見る紅葉だなんて、画になって仕方ないに決まっているじゃないか! そんなオプションがあるなら紅葉を見に行こうようツアーにも喜んで参加するのだけど。
いや、ボートがなくたって紅葉と菜月先輩の組み合わせはいいに決まっている。なんなら菜月先輩には背景なんてなくたっていい。圭斗先輩にしてもそれは同様だ。
「野坂、お前煩悩がだだ漏れだぞ」
「はっ。ちなみに村井サン、どんな煩悩が漏れていたのでしょうか」
「要約すると、圭斗と菜月は素晴らしい」
「ナ、ナンダッテー!? 正解です…!」
「つーか紅葉ってどんなメカニズムでなるんだっけか。気温差がどうこうだっけ?」
「簡単に解説をしましょうか」
「いや、いい。お前がそういう話をすると長くなりそうだ」
「そうですか」
そういう話が長くなるというのも偏屈理系男と呼ばれる所以なのかもしれない。仕方ない、そういうことのメカニズムなんかにも科学的な興味を持って育ってきたんだ。
「ノサカ、うちが気になる。解説を入れてくれ」
「よろしいのですか?」
紅葉のメカニズムについての科学的解説を頼むと菜月先輩に言われてやらないワケがない! 子供の頃からそういうあれこれの勉強しててよかったー! ありがとう母さん!
「結局、麻里は紅葉を見に行くのかね」
「言ってしまえば、このサークル棟のある山も紅葉は進んでいるんですよ」
「遠出するまでもなかったっつーヤツか」
「まあ、麻里さんが本気を出せばダイさんを引きずって行くくらい容易いでしょう」
「それな」
end.
++++
紅葉を見に行こうようって言いたかっただけのヤツ。麻里さんお誕生日おめでとうございます
多分缶蹴りの練習後に4年生がやって来られたものだと思われるのだけど、4年生は4年生でイベントを起こしたい模様。でも紅葉狩りはまともなのかしら
何かいろいろすっ飛ばして菜月さんと圭斗さんには背景すらなくていいとか言っちゃうノサカも十分ぶっ飛んでた