「あれっ、山口クン!」
「ホントだ、アニだ!」
「あー、ヒビキちゃんに大石クン! 久し振り〜! えっ、2人揃ってど〜したの?」
「さっきそこで大石クンとバッタリ会って、一緒に買い物してたトコ!」
急いでる訳でもないし、カフェに行くつもりだったんだーとヒビキちゃんが話を進めていく。気が付けば俺もその流れに飲み込まれ、一緒にお茶する雰囲気に。俺も急いでないし、いいんだけど。
大石クンの手には大きな紙袋がいくつも提げられている。大石クンは優しいから、きっとヒビキちゃんの荷物を持ってあげてるのかもしれない。いいね、ジェントルマンってヤツでしょ。
「はー、重かった〜」
「大石クンホント買い込んだよね」
「えっ、それヒビキちゃんの荷物じゃなかったの?」
「えー!? アタシが大石クンに荷物持ちさせてたと思ってたの山口クン!」
「あ、いや、大石クンが優しいからってコトで、別にヒビキちゃんが荷物持ちさせてるとかそんなんジャ〜」
「あはは、実際女の人が好きそうな物だもん、仕方ないよ」
そう言って大石クンは袋の中身を見せてくれる。ネイルケアの道具に、ヘアアイロン。こっちはハイヒールだ。それとは別に、綺麗なラッピング。中身はわからないけどかわいい包み。
「これ、兄さんにおつかい頼まれててさ。でも、ヒビキと会えてよかったー、さすがにこの買い物を1人でするのは知識もないし難しいもん」
「大石クンが1人で美容機器とかのコーナーで悩んでるのはそれはそれで見たかったけどね」
「ヒドイよヒビキ!」
「でも、おつかいなんて偉いね大石クン」
「うん、兄さん今日は一日中寝るって宣言してたし。でも、セールも今日までだからって」
大石クンの兄さんは女装家で、ベティと名乗って西海駅前でバーを営んでるという話は朝霞クンから聞いたことがあった。実際、入りやすくていい店らしい(朝霞クンたら抜け駆けしちゃって)。
親一人子一人ならぬ、兄一人弟一人で生活してきたからか、大石クンにとってベティさんは兄さんというそれ以上の何かがあるんだろうネ。
「アニは何の買い物?」
「俺? 特に理由もなくふらふら〜っと」
「って言うかさ、山口クンて何でアニなの?」
「あ、そう言われれば知らないなあ」
滅多に使わない俺のDJネームはアニっていう。それはそのまんま、兄のアニ。高校のとき、同じサッカー部にいた弟こそが山口で、俺はその兄だから山口(兄)でアニ。
その辺は実力の世界だよね。俺も航平に負けたつもりはないけどネ、航平には出来ないことが出来るし。でも、実際サッカーで食べていくことをより強く期待されてるのは航平だから。
「えー、ナニソレ。山口クンの方が先にいたのにー!」
「あ、そう言えばカズが言ってたよね。山口兄弟、特に兄の洋平は俺のヒーローだーって。俺もテレビで見たの覚えてるよ」
「面と向かって言われるとやっぱちょっと恥ずかしいネ」
あー、そーいや航平、いつ向こうに帰るんだろ。まだ大丈夫だろうし、お土産に出来る物でも買って帰ろうかな。ちょっとくらいいいよネ?
「あー、でもなー」
「どうしたのアニ」
「ううん? 航平が今日あっちに帰るって言うからお土産買って帰ろうかと思ったんだけど、よくよく考えたら彼女の方にいるかもしれないなーと思ったらネ。なかなか計算も出来なくって」
「山口クン家って兄弟仲いいんだね」
「いい方だと思うよー」
別にいい兄ぶりたいとかじゃないけど、航平は俺が降りた道の上で今も頑張ってるからね。支えになりたいとかそんな大それたことを言うつもりもないけど。まあ、家族だし。
「そうとなったらちづちゃんに聞いてみないと」
end.
++++
いい兄さんの日ということで、これまでは大体イシカー兄さんがメインだったけども今年はアニこと山口洋平をフィーチャー。ナノスパって弟の方が多いのよね。
たまの休みだし、こんな感じでバッタリ誰かと会ったって別にいいよね、というワケでヒビキとちーちゃんもバッタリ会ったらしい。
いい兄さんの日ということで、イシカー兄さんでも浅浦クンでもない兄さん……ベティさんの影をちょろっと出してみたよ!