「俺、高崎の本気が時々怖い」
「あ? 人の部屋に上がってんだから文句言うなつべこべ言わずに手伝え」
「えー!?」
最近拳悟からやたら連絡が入ってきてたけど、いつものように無視をしていた。だけど、ふと思い出した冬支度には車があると助かる。そう思い立って拳悟に連絡を入れると犬みてえに尻尾振って来やがった。
「机立てて壁際にやってくれ」
「こう?」
「そうだ」
部屋の中央にあった机は壁際に。そして手元には上の住人から借りてきた、うちのより性能のいい掃除機。これで床もしっかりと掃除をする。普通の掃除に見えるが大事な冬支度。
さすがLの掃除機は音も静かだしその割に吸引力がすごい。やっぱちゃんとしたきゃこういうのもある程度金かけなきゃいけねえんだなと思う。でも学生の買うレベルの掃除機じゃねえなこれは。
「よし。拳悟、机戻してくれ」
「はーい」
「で、布団はどうした」
「ベッドの上」
「広げるぞ」
ベッドの上にはこたつ布団。今回の冬支度はこれだ。どうせこたつを設置するならこたつ布団は綺麗にしておかなければならない。仕舞う前にも干してはいるが、洗濯という発想になったのは今回が初めて。
朝晩はグッと冷え込むようになって、そろそろおでんや鍋が恋しい季節だ。熱燗があるとなおいい。そこで俺は、社会的に死ぬのを覚悟でこたつ解禁を決意した。
こたつ布団の洗濯となると、コインランドリーだろう。すると車で運ぶ方がいい。ただ、俺には車がない。そこで辛うじて部屋に上げられる拳悟だ。布団ついでに洗濯できる物は何でもぶち込んでコインランドリー・ブルース。
「おおー、こたつだね」
「こたつだな」
「高崎、線は? スイッチスイッチ。つけようよこたつ」
「つけたいのは山々だけど、つけたら死ぬ。それでもいいか」
「いいよ。一緒に死のう高崎」
これは一度入ると抜け出すことの出来ない要塞だ。スイッチを入れる前に今後生活するに足る物資は十分か確認をしておかなければならない。用も足しておかなければ。
「あ、酒とアイスがねえな。食料もちょっと少ない……拳悟、買い物行くぞ」
「え、今からー? こたつはー?」
「こたつ入れる前に買い物しとかねえとゆくゆく餓死するからな」
「じゃあさ、鍋しようよ鍋」
「つか俺が作るんだろそれ」
「そうだよ? 俺より高崎の方が上手じゃん料理。俺は運転手だしー、こたつ布団の洗濯手伝ったんだから今日はご馳走してよ」
「しょうがねえな、やるか」
ひんやりとした空洞に足を突っ込みながら、今日の鍋に必要な材料と当面必要になってくる食料などをメモしていく。このメモに不備があると俺は死ぬ。社会的にとかそんなんじゃなくて死ぬ。
「そういやこたつ解禁の供え物もねえな」
「こたつの神様か何かがいるの高崎の中には」
「こたつと言えばミカンだろ」
「ああ、確かに」
「俺は宗教なんざカリカリのベーコンを崇める会にしか興味ねえな」
「なにそれ」
「アメリカかどっかにそんなのがあるらしい」
買い物メモにはベーコンも書き足された。とりあえずは今日の鍋だ。そう言えば土鍋と卓上コンロはどこに仕舞ったっけか。買い物に出る前にそれも探しておかなきゃな。冬支度も大変だ。
「あ、そういや暖房使う前に電気の契約も変更しなきゃいけねえんだった」
「冬に対する高崎の本気が怖い」
end.
++++
高崎の冬支度は結構本腰を入れた感じになると思うの。こたつで隠れる部分にはしっかりと掃除機もかけるよ!
その冬支度、本当は早い段階でやりたいんだと思うけど、あんまり早くやっちゃうとそれこそ社会的に死ぬのでギリギリまで我慢はしていたらしい。
それこそ冬眠してたいだろうからなあ……冬の高崎の堕落した話もやりたいものだ。