カランカランと鳴り響く鐘。本来なら嬉しい音色のはずなのに、それが運んでくるのは一抹の不安。狙いとは少し外れてしまったのもある。そして、ずっしりとした重量感だ。
「ただいまー」
「ん、お帰り菜月さん。どうだった? 生協のクジは。沈んだような顔を見るとダメだったのかな?」
「いや、当てるには当てた」
「菜月先輩は3等を当てたンすわ、見事に。ちなみに景品は自分の持ってるこれスわ」
ドスンとりっちゃんの肩から下りたそれに、圭斗はじめその場にいたMMPメンバーの顔色が変わる。パアッと明るくなるのはノサカと奈々。圭斗はまた随分な物を、と驚いたような顔だ。
「3等は緑風産コシヒカリの新米5キロ、大当たりス」
「素晴らしいです菜月先輩!」
「さすが菜月先輩、くじ運も神です日頃の行いですねッ!」
「実家からも10キロ届いたばかりなんだぞ……しかもうちがそんなにご飯食べないことを知っててこの当たりは何なんだ、それなら2等のポータブルゲーム機、ダメでも4等の文房具2000円分引換券の方が良かった」
このくじ引きは生協の購買でやってたキャンペーンだ。500円でくじ引き1回の券がもらえるというヤツで。はずれはお菓子の詰め合わせ、2等はポータブルゲーム機などなど景品はなかなかにいい。
そんなこんなで普通なら一人暮らしには嬉しい主食の米だけど、うちから見れば「当ててしまった」感が強い。就活が始まればこっちにいないことも多いだろうし。実家からもらった米さえ全部食べきる自信がない。
「子どもの頃からそうだ。このテのくじ引きで3等のカニセットを当てて、カニならはずれのお菓子セットが良かったって言ってたののデジャヴだ」
「菜月さん、よく考えるんだ」
「何をだ」
「何も、菜月さんがひとりで消費しなければならないという決まりはないんだよ」
「……何が言いたい」
そして圭斗はフッ、と口角を上げ、右の拳を結んだ。
「野郎ども、カレパーの時間だあああ!」
圭斗の雄叫びに、ミキサー陣がうおーいと盛り上がる。しかし、圭斗がカレーパーティーにこんなに積極的なのも珍しいと言うか、何と言うか。
「菜月さんのカレーが食いたいかー!」
「おー!」
「圭斗、お前のテンションに裏がありそうな気がするんだけど」
「ん、菜月さんのカレーが恋しくなってね。これからは食べたいときに菜月さんは無しということになるだろうから、頼みやすいうちに頼んでおこうと思っただけで、僕の我が儘だよ」
もちろん、僕もお米の消費にも出来る限り協力するつもりだと圭斗がいつも通りの澄ました顔で言う。確かにカレパーなら米の消費は激しいけど。圭斗の我が儘、か。
「圭斗」
「何だい?」
「次はお前が作る鍋かおでんだ。それで、最終的に雑炊もする。お前のワガママを通すんだから、うちのワガママも聞いてもらうべきだ」
「ん、わかったよ。僕の本気を見せてあげよう。12月を楽しみにするんだね」
予期せず当ててしまった米5キロだけど、舞い込んで来るのはワガママを通した会食の機会。米は言いたいことを言うきっかけになったのかもしれない。
「しかし、米5キロはなあ。持ち帰る方の身にもなってもらいたい物だな」
end.
++++
○年ぶり2回目のクジでお米大当たり回。例によってゲームを狙いに行った菜月さんは残念でした。
今回の圭斗さんはテンション高らかに右手高くカレーパーティーの開催を宣言しているけれども、菜月さんもただでは起きないのである。
圭斗さんの本気の鍋かおでん……いつかは食べてもらえなかったからね、リベンジをしないといけないね圭斗さん!