「宇部、お前今日これから暇か?」
「ええ。どうかしたの」
「えっと、飲みに行かないか」
「いいわよ」
山口の奴、何が「朝霞クン今日メグちゃん連れて店に来てね」だ。テメーが何かやりてーならテメーが俺と宇部に声をかけりゃいい話なのに何で俺に宇部を連れて来させるんだ。
「洋平の店?」
「ああ。……まだ2時半過ぎか。店が開くまで時間潰すか」
これも一応山口からの指令だ。宇部を捕まえとけと言われている。ったく、俺にロクでもないことの片棒担がすからには内容くらい知らせとけっつーの。
そうする意味も解らずにただただ言われた通りにすることの気持ち悪さ。何か意図があるんだろうけど、イベントを企画するならするで情報の共有くらいしとけ!
――などと思いつつ、2時間半など移動時間も含まれば割とすぐに潰れてしまうものだ。学食はクソ寒いから、どこか適当なカフェで2時間ばかりうだうだと喋るだけだけど。
「よし、開いてるな」
山口がバイトしている店の前には、商い中と大きく書かれた板が道行く人を招いている。時刻は午後5時過ぎ。扉のすりガラスからは、ぬくもりのある色の光が漏れる。
「おーい、やまぐ」
山口、と言い終える前に目の前でパァンと何かが弾けるような音。そして飛び散る何かを思いっきり浴びる。あまりの大音量にビクッと固まり、跳ねる体。あー、ビビったー。
「メグちゃん誕生日おめでとー!」
「……って山口、テメー! 宇部を祝う体なら何で俺にクラッカー向けた! しかも目の前で鳴らすか普通! 火薬臭せーだろ!」
「いやわざとじゃないってゴメンゴメ〜ンホントゴメンってば〜朝霞クン事故事故!」
「お前次やったらマジでぶっ飛ばすからな、あぁ!? わかったな!」
「わかりましたゴメンってホント、でしょでしょ〜」
瞬時に沸いた怒りに掴んでいた山口の胸倉を離すと、くすくすと笑い声。その方向を見れば……宇部が、笑っている。怒りやら焦りやらに支配されていた俺たちも、さすがにこれには唖然として。
「メグちゃんどうしたの?」
「いいえ、そっちのあなたたちの方が好きだと思っただけよ。久し振りだと思って。怒鳴る朝霞と、緩んだ洋平。部活を引退してからは、もう一方の地ばかりだったでしょう」
ステージを抱えてキリキリしてる俺と、自称ステージスターとか言ってどこか間延びした、余裕のある立ち振る舞いの山口に対するもう一方の地。
(人から言われることによれば)コミュ力で生きてる気のいいあんちゃんな俺と、理屈っぽくて根暗でクソ真面目な山口。
確かに使い分けはするけれど、どちらがどうとかじゃなくどっちも俺たちの地だというのを分かっているのは自分たち以外ならそれこそ宇部くらいだろう。
「メグちゃんが笑ってくれたし〜、朝霞クンの犠牲はムダじゃなかったネ〜」
「勝手に殺すな。つか、何で今年になって急に宇部の誕生日なんか。いや、嫌だっつってるワケじゃねーぞ、お前の真意を聞きたい」
「ほら、俺たち、やっと何のしがらみもなくなったデショ? はい、細かいことは抜き抜き! はーい、座ってー! ご注文どうぞー!」
今までも俺たちと宇部は3人でうだうだとやることもあったけど、それは限りなくひっそりと、水面下で。部活での立場が自然とそうさせていた。だけど、そうか、しがらみか。
「宇部、おめでとう」
「ええ、ありがとう。今年はあなたも誕生日らしい過ごし方が出来ればいいわね」
「お前がそうさせてくれるんじゃないのか?」
「あら、私でいいの? 半年も経てば、あなたにも彼女の1人くらいいるかもしれないわよ」
どうだか、と手元にきたジョッキを宇部のグラスと合わせる。俺と宇部が飲み食いをして、山口は従業員として働いてる。今までと何ら変わりないように見えるそれだけど、少しずつ進んで、変わっていくのだろうか。
end.
++++
というワケで宇部誕ですが、きっと今日の向島エリアは雪なんかが積もってめっちゃ寒かったんだろうなあ……朝霞Pドンマイ(※洋朝めぐの3人では一番寒さに弱い)
雪の降る中ダッフルコートPと宇部Pがサクサクと地面にあるそれを踏みしめながら歩くとかってなかなか絵になりそうだけど、残念ながら描写はない。
ところで星ヶ丘のテスト期間っていつごろなのか……そして本来水曜は全休のはずの朝霞P、まさかこのためだけに洋平ちゃんから呼び出されたのか……