「よーしお前ら、食え!」
「わー、ぐつぐつしておいしそーですねー!」
目の前には、ぐつぐつと煮えたぎる鍋。腕まくりをして得意気にしている春山さんの自信作だ。普段は横暴でムチャクチャな春山さんだが、料理は普通に美味い物を作ると認めざるを得ない。
変わり種というワケではなくごく普通の寄せ鍋だが、そこは春山さんのこだわりなのか市販の鍋つゆのような物ではなく自分で味付けをしていた。具も至って普通だ。
「ユースケ何食べる? よそおうか」
「いや、自分でやる」
「そう?」
今日、川北宅で唐突に行われている情報センターの鍋パーティーは、物珍しそうな顔をして鍋を覗き込むこの烏丸が発端だ。
それは唐突の質問。誕生日ってワガママ言っていいんだよね、というそれ。それはどういう関係性の相手に対して、どのレベルのワガママなのかの程度にもよる。
烏丸の場合、オレの常識がそのまま通用するとも思えず一応話だけでも聞いてみた。すると、今日が誕生日であると。パーティーをしてみたいと言うではないか。
「でも、言ってみるものだよね。ユースケありがとう。やっぱりユースケに話してみてよかったよ!」
「いや、この程度ならワガママにも入らんだろう。ねえ春山さん」
「そうだな。たまには鍋でもつついてクイッとやるのも悪かない」
よーし食えーと春山さんは鍋奉行らしく川北と土田にも鍋をよそっている。主賓ということで先に具をよそってもらっていた烏丸は、その匂いを嗅ぎ続け、おいしそうだなーと正座をしたまま。
「おいリン、お前は何を食うんだ」
「適当でいいですよ。タラと白菜は入れてください」
「へーへー、ほら」
「ありがとうございます。春山さん、もう一杯どうぞ」
「おっ、リンにしちゃ気が利くな」
トン、と目の前に置かれた器からは、湯気と一緒に立ち上る香り。お前も飲めと横で春山さんがオレにも日本酒を注ぐ。うん、タラが美味い。
「烏丸、食わんのか?」
「あっ、食べる食べる! あったかいご飯も珍しいんだけど、こうやってみんなでお鍋を囲むってことが多分初めてだからしみじみしちゃって。いいものだね!」
おうどんがおいしい、と器の中身を勢いよく啜っておかわりと子供のように烏丸が器を突き出せば、鍋奉行の春山さんはよーしもっと食えと大盛りにして返すのだ。
パーティーと呼べるほど大それたものではない。だが、こういう機会はオレにとってもそういつもかもあるワケではない。顔が違えば多少はあるが、少なくともこのメンツではそうそうないだろう。
「春山さんて意外に料理上手なんですね!」
「そーだろダイチ、意外に出来るんだぞ私は」
「このだしで食べるおうどんがホントにおいしくって…! ずっと食べてられます!」
「他の具も食べろ」
「えっいいんですか!? ユースケにタラをもっと食べさせてあげてくださいほらユースケあーん」
「自分で食う」
シメの雑炊も準備は出来ていると春山さんはいつものように得意気だが、この雑炊に関しては期待している。春山さんは意外に料理が出来ることをオレも知っているからだ。
「はー……こんなにおいしいご飯を食べたのなんていつ振りだろ……いつ死んでも悔いはないや」
「烏丸サン、それ、昨日も言ってャシたぜ」
「冴ちゃんの料理ももちろん美味しいよ! また食べさせてほしいな!」
「あー? なんだダイチ、冴、お前ら同棲でも始めたのか?」
「冴ちゃんはうちにある本を読破するそうですよ! 頑張りますよね!」
わーおいしいなーと眼鏡を曇らせながらうどんを啜る川北は、この件をスルーすることを選んだようだ。よし、オレも春山さんが烏丸と土田を問い詰める隙にもう少し食っておこう。
「あっ、林原さん飲んでますかー? どうですかー?」
「お、もらおうか」
end.
++++
一方その頃星港大学の方では情報センターの面々が鍋を囲んでいた模様。寒いみたいだからちょうどよかったね!
というワケでダイチ誕。パーティーがしてみたいというささやかな願いを面白いことが好きなリン春がスルーする理由がなかった(ダイチ発だということもある)
今回の会場提供者はミドリなんだけど、ミドリのこたつ机は丸いので5人とかいう中途半端な人数だけど比較的楽に座れたんじゃないかと思いたい。