「俺なりにお前のことを考えて選んでみた。使ってくれ」
「……あ、ありがとう」
朝霞クンから突然呼び出され、指定された場所に行くといきなり目の前に突き出されたシンプルな包み。何だろう、何かな。そわそわして止まらないよね!
朝霞クンが言うにはこれはホワイトデーのお返しで、バレンタインのチョコが俺のことを考えてくれてたのは伝わったからーとのこと。伝わったんだ、よかったー。
「朝霞クン、開けていい?」
「ああ」
どきどきしながらラッピングを少しずつ開いては、朝霞クンの顔をチラッと見る。少し開いてはチラッと見てを繰り返してたら開けるなら開けろと叱られる。すいませーん。
意を決してガバッと開くと、そこにはまた箱。箱と、さらに包装紙にに包まれた平べったい、薄いもの。ちょっとがっくりきたよね。1枚開いてまだ中身がわからないなんて。
今度はちゃんと一気に開いていくと、固い箱の中身はボールペン。いろんな色の芯やシャーペンの軸も一体化してるヤツ。スタイリッシュで朝霞クン本人が持ってそう。
「朝霞クン、これって」
「見ての通りボールペンだ。俺も使ってるけど使いやすいぞ。台本書くならパソコンだけじゃなくて紙も使うだろ。紙の上でもいろいろ考えるなら筆記具は第一に選ぶべき相棒だからな」
「さ、左様ですか……」
おそろは嬉しいけど、この調子なら平べったい方もちょっと予想がつくなあ……ほーら! やっぱりノートだ! ノートの詰め合わせ。……まあ、朝霞クンらしいと言えばらしいけど。
「でもこれ、ちゃんと縦書き用だし紙質がいいんだ。ほら、ツバメのマークが入ってるだろ。ペン先が引っかからずにさらさらと書ける上質紙なんだぞ。もう片方は絵コンテ描くのに便利だ。他校で映像やってる友達のお見舞いに持ってったら喜ばれたからお前にも需要あるかなって思ったんだけど」
ホワイトデーのお返しって、よくあるキャンディーとかクッキーを想像していたアタシがバカだったのか。
ううん、これがダメってワケじゃない。朝霞クンがアタシのことを考えてくれてたのはよー……く! わかるんだけどね? ムードってモンがないでしょうよ!
「さすが朝霞クン……何やっても書くことに繋がるね」
「何言ってんだ。元はと言えばお前だろ」
「えっ?」
「あのチョコ、レポートのサポートっつってただろ。だから俺もお前の台本のサポートをするべきだと思った。甘いモンだったらラムネがベストだったんだろうけどな」
確かに。最初に書くことのサポートをしていたのは他でもないアタシ自身だった。好きとか付き合うとか、そんなことは一言も言っていない。そりゃあこうなるよね。反省。言った以上には伝わんない。
「何はともあれ、ありがとうございました」
「脚本、頑張れ」
「うん」
もらったものをひとまずしまって、先のことを考える。この先、脚本を書くとすれば2本か3本か、多分それくらい。やれるだけやりたいとは思うけど、就活もあるし卒論もある。思うより書けないかもなあ。まあ、目の前のこの人にそんな言い訳染みた話は通用しないんだろうけど。
「伏見、せっかくだし映画でも見に行くか」
「映画もいいけど甘いものが食べたいです」
end.
++++
朝霞Pとふしみんのちょっと早いホワイトデー。他校で映像やってる友達ってのは長野っちのこと。
どうやら朝霞Pにとって筆記具は大事な相棒らしい。多軸なのはいちいち持ち帰る手間が省けていいらしい。ちょっと値は張るけどね。
甘い物ならラムネがベスト。この辺の件については星ヶ丘サイドでやってみたいお話ではある。来年度やれるか。