慧梨夏サンの車が駐車場にスーッとやってきて、そのままアイドリングしている。ただ、慧梨夏サン本人はまだ体育館にいて、運転しているのは慧梨夏サン本人ではないことが分かる。
「じゃ、うちお迎え来たんでお疲れでーす」
「お疲れ様っす」
慧梨夏サンの背中が遠くなると、それまでは大人しくしていた三浦が一気にうるさくなる。ちょこまかと何かを覗き込むような。実際、慧梨夏サンの車を覗き込んでいる。
「おお〜っ、あれが慧梨夏さんのかれぴっぴさんですね!」
「お前見たことなかったか」
「見たことがあったとしても覚えてないよね! は〜、やっぱかわいい顔してるっすねー」
ごくたまにだけど、慧梨夏サンの車を彼氏サンが運転するということもあるらしい。大きな物を買い物したいとか、そんな事情があるときとか。
俺もこっちに来たばかりの頃は、家財道具をちゃんと揃えるのに慧梨夏サンの世話になった。こっちに来たばっかの頃は原付すらなかったから、サークルも慧梨夏サンの送迎だった。
「あのかれぴっぴさんが女装したらああなるんだよね!」
「……ああなるんだろうな。つか、なったんだろ」
「顔の可愛さと線の細さだね!」
うんうんと三浦は納得をしている。確かに慧梨夏サンの彼氏サンっつーか伊東サンの弟さんっつーか、は、男としては華奢な部類に入る。
学祭のメインイベントとも言われた女装ミスコンにも出ていたらしい。そのプロデュースを任されていたときの慧梨夏サンは、それはもうイキイキとしていたのを覚えている。
「背もそんな高くないっぽいしね」
「つかお前から見りゃ結構な男がデカくなくなるだろ」
「まあね! あっ、でもキャップさんはデカいっす!」
「そりゃな」
169センチの三浦からすれば尚サンなんかは自分よか小さいし、176ある俺だってめちゃくちゃデカいワケではない。180を超えないとなかなか。とのことらしい。
女が彼氏に求める条件として高身長が言われていたのはいつの時代のことか。今のことはよく知らないけど、慧梨夏サンみたく大きすぎない方がいいという人もいるにはいる。
「だから、小さい女の子がかわいいみたいに言われるしあたしもそう思うけど、何かが間違ってあたしくらいの女子がいいっていう変な人が現れないかなとも思うワケよ!」
「ふーん」
「あっさては鵠沼クン興味ありませんね!?」
「まあ、お前の恋愛事情には特に」
そんなことを話している間に慧梨夏サンの車は行ってしまっていた。ラブラブを見せつけやがってーと三浦は憤慨している。
「でもまあ、恋愛って別に身長で決まるモンでもないじゃん?」
「でもひとつの要素ではあるよね。こんな話聞いたことあるよ、35センチとかそれっくらい身長差あるカップルで、女の子の方が見上げるのに首疲れるから別れたいって」
「マジかよ男座らせるとか何かすりゃよかったんじゃん? 場所さえ許せば寝転ぶとか」
「えっちすけっちわんたっち!」
「は?」
「それはともかく座ったところで目線って変わんなくないですか! はっ、35センチもないだろうけどキャップと尚パイセンで実験してみましょー! ほらっ、鵠沼クン!」
「いや、つかキャップ卒業したじゃん!?」
「ほんまや! おらんやないかーい! グラスがない!」
何と言うか、割と何もかもがどうでもよくなってきている。人様の恋愛事情に首を突っ込むとロクなことがないだろうし。慧梨夏サンみたくフルオープンな人ばかりでもないだろうから。
「お前そのノリとテンションだけで押し切ろうとするのどうにかした方がいいぞ」
「そうですかね!」
end.
++++
「割と何もかもがどうでもよくなってきている」というのはこの話をノリとテンションだけで書いていた当時のエコさんの心境。
なかなか女子では珍しいアホっぽいキャラになりつつある三浦さっちゃん。鵠さんにはもしかして女難の相でも出ているのだろうか
うん、確かによくよく考えたら169センチのさっちゃんからすれば169センチのいち氏はそんなデカくない