公式学年+1年
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緑ヶ丘大学のセンタービル、どのど真ん中に設置されているガラス張りの建物。それは、社会学部メディア文化学科佐藤ゼミの構える体験型実習施設であるラジオブース。昼休みにはここからフロア一帯と中庭に向けて番組を放送している。
さて、3年になるにあたって本格的なカレンダーも打ち出されてきた。ゼミのラジオブースは主に3年生が担当することになっている。大学祭が過ぎた頃からは2年生からも何人かが選抜されて、お試し番組をやったりしていた。
何かがある度に俺は先生から名指しで仕事を請け負わされるハメになったり、フィールドワークで雨に降られたり。疫病神とまで言われる始末だけど、このゼミラジオに関してだけは、名前を呼ばれたのは災いではなく幸い。
「えーっと、設定をデフォルトに戻しとかないと」
今ではMBCCの機材部長となった俺は、先生からこのブースにある機材一式の説明書を手渡され、よーく勉強するんだよと丸投げされた。果林先輩が言うには先生は新しい物好きで、買うだけ買うけど使いこなせはしないそうだ。
とりあえず、説明書の束やブース内にも環境のあるインターネットなどを駆使しつつ、このブースで本気になったらどんなことが出来るのかを試してみる遊びを少し。昼の番組じゃあそんなことはなかなか出来ないから。
「あれっ、高木君」
「あ、小田先輩。お疲れさまです。どうしたんですか?」
「ちょっと部活の方に顔出してたんだ」
「ああ、そうなんですね」
通りかかったら誰かがいるみたいだったから覗いてみたんだ、と小田先輩は荷物を置いてブース後方の控え用長椅子に座った。と言うか俺からすれば小田先輩の荷物の方が気になる。確かアーチェリー部って言ってたっけ。
小田先輩は1つ上の代で主に機材を任されていた先輩だ。卒業論文も、本来は論文とするべきところを映像作品を含めた卒業制作にするというゼミ初の試み。だけど、それはとても小田先輩らしいと思う。最も自分の得意な分野を生かせる選択。
ミキサーという意味では当然俺の方がサークルっていうアドバンテージもあるから出来るには出来る。だけど、サークルで使わない機材の使い方や、パソコンとの連動、ソフト類の扱い方は一から教わった。伊東先輩に次ぐ“師”だと思っている。
「さっそく遊び場にしてるみたいだね」
「これ、先生から説明書渡されて。勉強しとけって言われたんで口実はあるんです」
「うわっ、何これ。俺こんなの渡されなかったよ」
「えっ、じゃあ独学ですか!?」
「基本は独学。あとはググったり」
「やっぱりそうなるんですね」
やっぱり期待値が全然違うんだなあと小田先輩は宙に投げるように言い放った。ただ、俺は知っている。小田先輩が卒制で使っている撮影機材がゼミで一番高性能の物で、授業などではお目見えしないとっておきの物だということを。
機材の性能だけで作品の出来がすべて決まるわけじゃないというのはわかる。その辺はセンス――特に、社会学的センスというものが左右するのだろう、こと佐藤ゼミにおいては。
「そう言えば、千葉さんと番組やるんでしょ? 楽しみだなあ」
「えっ、聞いてないですけど」
「月イチくらいで金曜の枠って聞いたけど。あれっ」
「そんな話になってるんですね……」
いつだって先生から降りかかる話は唐突だ。たった今小田先輩から入った情報だって、いつ何時気が変わってどうなるかわからないから、頭の片隅に留める程度。でも、ここの機材の能力を最大限に生かすなら。月に一度の暗躍も、悪くない。
end.
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TKGが暗躍を思い出した話。来年度はもうちょっと暗躍に向かってそれらしい活動をさせたい。
果林と桃華嬢の尻に敷かれてる印象の強い小田ちゃん、どうやらゼミ初の試みの真っ最中。いい機材を持たせてもらってるのはいいけど、おいくら万円〜みたいなプレッシャーもかけられてるんだろうなあ
キャラクターとしてのヒゲさんはある種の底知れない怖さがあるといいんだよなあと思う。まだそういう段階にも行ってないんだろうけどいつか。