『サドニナの評価ってどうなんですかねこーたせんぱ〜い』
「どうもこうも、数字の通りじゃないですか」
『ふえ〜ん!』
パソコンのスピーカーから、つんざくような泣き声。もちろんそれは泣き真似で、泣かれたからと言って私にはどうすることも出来ないんですけど。サドニナとのネット通話は突然に。
サドニナは歌って踊れるアイドル声優を目指しているらしく、現在は主にネット上で歌の動画をアップしたり有志のインディーズ作品でネット声優みたいなことをしたりして活動をしているようです。
ただ、サドニナ本人が思うような評価がなかなかもらえないようで、こうして私の顔を見る度に泣きつかれる始末。懐かれたのは最初にまともなモニターをした所為ですね、ひょっとしなくても。
『こーた先輩、サドニナは歌も上手になってますよね!?』
「最初よりは聞けますよ」
『ほらー!』
「ただし、最初が酷すぎたというのが前提です」
『わかってますよー、一般の上手い人の域にも達してないーとか言われたのは忘れてませーん』
私自身が人のことを言える歌唱力では決してないのですが、誰が聞いても思うことをそのまま濁さずに言ったのがその評価です。実際、サドニナよりは菜月先輩や野坂さんの方が歌唱力は上だと思いますし。それは現在でも。
『じゃあ何がダメなんですかぁ〜、サドニナより酷い歌だっていっぱいあるのに数字はのびてるし〜!』
「本音が過ぎますよ。まあ、原曲にただ似せるならサドニナの歌はわざわざ聞きませんよ。そのような声や歌唱力の人はごまんといるんですから」
『どストレートな評価をありがとうございますぅ〜』
画面の向こうで頬を膨らましているのがわかるようですね。声で相手に伝えるという点では電話だってひとつの有効な練習ツールだとは思うんですけど。言うと毎日のように着信が入りそうですし黙っておきましょ。
「発声だとかリップ音だとか、そういうところでは聞きやすくなったんですが、それを意識しすぎてるのか今度は逆に機械的に歌ってるだけになってるんですよ」
『なるほど』
「曲をどう解釈して、表現するかですよ。それは曲を読み込んで、聞き込まないと出来ません。曲に関するライナーノーツがあればなおいいんですが。そこからどうオリジナリティを加えてその歌い手の味にしていくのか。カバーと銘打つならなおさらです」
同じ曲でも演る人が違えばその解釈も無限に出てくるものだと思います。単に機械的に真似して歌ってたんじゃ機械音で構成された物と何ら変わらないじゃありませんか。むしろ下手にヒトな分残念さが極まるんです。歪な部分がノイズになると言いますか。あくまで、私の考えですが。
「あとは、プロデュースやマーケティングの戦法を学べばいいんじゃないですか。どれだけ上手くても動画を見てもらえないなら意味はありませんから」
『ふむふむ』
「正直に言えばサドニナはまだまだ発展途上です。だからこそ敢えてサドニナ成長録的な感じで聞いている人に成長をリアルタイムで見てもらって親近感を覚えさせるという手段もありますし、考えようですよ。サドニナが音楽的魅力だけで結果を出したいのか、存在そのものの魅力で結果を出したいのかという話です」
『こーた先輩物知りですね!』
「いえ、私などただのいちユーザーに過ぎませんよ」
スピーカーからは、キンキンとした声が。いろいろアイディアを出しているようですけど、好きにしてもらって構わないんですよ。私はプロデューサーや黒幕ではなく、単なるいちユーザーなので。
end.
++++
年末からあまり動きがなかったんじゃないかと思ってみるサドニナの野望。神崎有能説は引き続きサドニナに通用するのか。
お歌以外のこともナンダカンダとアドバイスしてあげる神崎、あくまでいちユーザーなんだけども、案外世話焼きなのかもしれない……まあ、対ノサカを見てれば世話焼きはわからんでもない
でも、音楽に関することという意味ではオタクどうこうを抜きにしても相談する人選としては間違ってないような気がしないでもない。