「抜け駆けや! 何やのノサカのアホ! 鬼! ウザドル!」
「お前誰がウザドルだ!」
「せやった、ウザいだけやよ!」
例によってわあわあ喚くヒロのパターンはお決まりのヤツ。いつも言っているように俺とお前の成績に雲泥の差があるのは日頃の行いであって、決して俺が賄賂を送っているとか教授がお前に嫉妬しているとかではない。
秋学期が近くなると、さてどうすると考え始める履修のこと。まだまだ一般教養を取るだけのコマ数的余裕はないけど、それでも学部固有の中からであればまだいくらか選択の余地がある。
「グラフィックデザインは楽しいらしいしこれは入れていこう」
「何でそんなワケわからんの入れるん」
「お前に履修をとやかく言われる意味が分からない」
「そもそも何でシラバス見ただけで楽しいとかわかるん」
「ゼミの先輩からいろいろ話は聞いてるし」
「えー! 何やのノサカネクラのコミュ障なんにそんなときばっか!」
「お前誰が根暗……いや、それは否定出来ないからともかくゼミ見学に行ってないのかお前」
「何で行かんとアカンの」
ヒロというのはこういうヤツだ。秋学期から始まるプレゼミにしても、どこのゼミも興味ないしせめてノサカおるところに行くわ、というだけの理由で所属を決めやがったやる気のなさだ(そもそも学部自体に興味がないらしい)。
いくらか設けられていたゼミ見学の日にしても、俺は何回か覗かせてもらって先輩とは学内ですれ違えば挨拶をするくらいにはなれた。ただ、ヒロから見学のけの字も出る気配はなく。いや、ヒロのことなら見学制度そのものを知らなかった可能性もある。
「履修するに当たって実に有益な情報を得られたし、やっぱり人脈って大事だ」
「何やの、そんなときばっか。あっ、ラクな授業の話とかなかったん?」
「まあ、ないことはなかったけど俺は取る予定ないし好きにどうぞ」
磐田先輩がこの講義は実技型でその講義は理論の座学中心だよーと親切丁寧に教えてくれるその横で、前原先輩がこれは課題がめんどくてあれは出席ちょろまかすのラク、などと裏情報的な物を入れてはくれていた。
きっとヒロにとっては前原先輩からの情報こそが欲する物だとは思うけど、敢えて言わない。始めから裏に回ってまともにやれるはずがない。別にヒロがどうなろうと知ったこっちゃないけど最終的に搾取されるのは俺だ。自衛しなくては。
「ねえノサカ、ゼミって何曜日の何限なん?」
「金曜4限だ」
「うわっ、めんど! ボク金曜1限から4限までやん」
「へえ、もう1限が決まってるのか」
「ノサカが去年ボクのこと見捨てたから必修残っとるんやよイヤミとかさすがノサカ根暗でいけずやね」
「って言うか金曜はどっちにしてもサークルがあるんだからそういう日を中心に埋めた方がいいんじゃないのか」
「せやかて2限からとかのがええやん」
「それは自業自得だ」
そうだ、忘れてたけどヒロは去年必修を落としてたんだった。当然それは例によって自業自得なんだけど、何もかもを俺の所為にされたときはキレかけたな。好き勝手にバイトしたり旅行したりしてるから授業に出れないんじゃないか。
「ヒロ、履修が決まったら圭斗先輩に提出しなきゃいけないんだぞ」
「ノサカとほぼ一緒なんやからノサカので代用出来んかな」
「俺は必修を落としてない点が決定的に違う。お前と一緒にするな」
「何やの。どうせ基本情報だって抜け駆けしたんやろ」
「秋に受けるのは応用情報だ」
「ほらやっぱり! あれだけ一緒に勉強したんに何でノサカばっか受かるん!」
「俺がお前といるときだけ勉強していたと思ったら大間違いだ」
わあわあとヒロがまた俺に対して好き放題言っているけど、ぶっちゃけもうノーダメだよな。慣れってすげーわ。ヒロがどうなろうと知ったこっちゃないし抜け駆けでも賄賂でも何でもなく日頃の行いの積み重ねということを何故認めない。
end.
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例によってヒロがわあわあとノサカに文句を言っているノサヒロ回。そろそろノサカがノーダメージになってきてヒロドンマイ
今年からはノサヒロの所属するゼミの先輩の存在などが出来たので、そういう話も出来てとても楽しい。人脈最高。
ひょっとしなくてもクズっぷりでヒロと前原さんが意気投合してノサカとバンデンが困らされるパターンのヤツでないだろうかと……