年末になると、さすがに俺も実家に戻ってそれらしく過ごすことになる(慧梨夏も遠征していて留守にしているし)。俺は京子さんからのおつかいで浅浦家へ。腕まくりをして気合の入ったパパさんが、来る大晦日に向けた準備をしているところだった。
「パパさーん、これ、京子さんから。例のヤツだって言えばわかるって言ってたけど」
「あー、ありがとね。京子さんにもよろしく言っといて」
「はーい」
「あっそうだ。カズ、明日の蕎麦だけど上に乗っける天ぷらの具、伊東家の分みんなに聞いといてね。なんなら今から雅弘と買い物に行って来てくれれば助かるけど」
うちと浅浦家は親同士がまず幼馴染みで、現在も家族ぐるみの付き合いをしている。遠くの親戚より近くの他人を地で行くそんな間柄だ。新年の挨拶や年越しの挨拶もしっかりと。
パパさんが蕎麦打ちにハマってからは年越しそばも浅浦家でご馳走になるようになった。明日、うちの家族みんなでお邪魔することになっている。天ぷらの具か。どうしよっかなー、姉ちゃんは薬味いるだろうし。
「て言うか雅弘はどこ行ったの」
「アイツ今日バイトっすよ」
「この年末にまーだバイトなんかやってるかね。誰に似てこんなに働く子になったのやら」
「パパさんじゃないですかねー」
パパさんは「年末年始をしっかり休みたいからそういうスケジュールを組みました」ってドヤってたけど、スケジュールを組めるだけの地位に上がるにはどんだけ働いたんだよっていう話で。
そもそも、俺らも本来は年末のバイトは新刊なんかも出ないし多少は〜って思ってたけど今年はしっかり発刊しやがるのである程度は数字に見込みが持てますね、と偉い人が言っていましたとさ。
「ただいま。あ、伊東来てたのか」
「京子さんのおつかい。あっそーだ浅浦、天ぷらの具買いに行ってこいって」
「わかった」
バイトから帰ってきた浅浦は、買い物の前に少し休ませてくれと荷物を置いた。どっちにしても、俺もみんなのリクエストが来ないと買い物の内容を決められない。俺はかき揚げで姉ちゃんは薬味系として、父さんと京子さんだ。
ちょっと前に、天ぷらはみんな一緒でいいじゃんって言ったら、そんな適当なこと出来ないでしょ、と叱られたことがある。パパさんの蕎麦に対するこだわりなのか、はたまた別の理由があるのか。
「あ、きた。京子さんはミョウガと山菜、パパさん的に父さんの返信、どう思う?」
「あー、何でもいいよが一番困るのになー。一番グレード高いのってやっぱエビ? エビなら雅弘が食べるしどっちにしても買うでしょ」
「でも父さんそんな豪勢な物食べる方でもないし、俺と一緒のかき揚げにしとこっか」
「伊東家みんな野菜になるけど大丈夫? イカとかエビとかいい?」
「それはおかずとして普通に食べるんじゃないかなあ」
「あとカズ、彼女呼ばなくても」
「いいです」
「そんな即答しなくたって」
呼ばないのではなく、呼べないのだ。コミフェの戦利品消化に忙しいというのもあるし、宮林家には宮林家の暮れの過ごし方というのもある。来年は否が応でもこっちだろうから、せめて今年くらいは。
「雅弘、天ぷら決まったから早く行って来い」
「別に今日揚げるわけじゃないのに急ぐ必要ないだろ」
「年末のスーパーは戦場だぞ浅浦」
「そうだぞ雅弘。スーパーは戦場だぞ」
「伊東はともかく父さんに言われると無性に腹が立つな」
「ちょっ、何でカズは良くて父親はダメなの!」
「場数が違う」
行くぞと浅浦が車の鍵を取れば、俺は行ってきまーすとパパさんに挨拶をする。そうか、今年もあと2日か。ところで慧梨夏は今頃どこで何して……いや、野暮か。
end.
++++
久々に浅浦雅弘の姿を見たと思ったらもう年末だった。ただ、浅浦クンは年末年始〜が強いキャラなので1月は怒涛の酷使をしていきたい。
そして年越しそばの上に載せる天ぷらについて。姉ちゃんには聞かなくても薬味だって言い切るいち氏である。さすが弟だ。
いち氏の父さんはきっと物腰柔らかで優しい人なんだけども、そんな道雅さんに憧れて子供に雅の字を与えた浅浦家のパパさんであった