「いっちーせんぱーい、来ましたー」
「お邪魔します」
今日は無制限飲みを開こうとLの部屋に集合。いつもなら幹事は高ピーだけど、今日は俺が幹事としてこの会を仕切っている。無制限飲みは突発的に行われる宅飲みの総称だけど、誕生会の側面もある。何を隠そう、今日は高ピーの誕生日。
先に別件で買い物をしていたらしい果林とタカシに買い忘れていた物を頼んだり、俺はと言えばコンロがひとつしかないLの部屋での料理に奮闘。電子レンジをフル活用するよね。Lは酒と餃子の準備に忙しくしている。
「って言うかバイクないけど高ピー先輩出かけてるような感じ?」
「台風近付くってわかってたしバイトじゃないか?」
「あー、天気が悪いと頼みたくなるピザ屋の宿命ってヤツね」
高ピーには今日の会のことをまだ伝えてない。でも、Lの部屋なら高ピーの部屋の真上だし、ちょっと呼んだら来てくれないかな的な。バイトに行ってても、自分の家の上ならひょっとしてーって。
「L、餃子包んでるの?」
「ああ。高崎先輩だけでも結構食うのにお前がいるならどれだけ包んでも足りないし、手伝ってもらえると助かるけど」
「わかった、やり方教えて」
「えっと、まずは――」
Lと果林が共同で餃子を包み始めたところで、部屋できょろきょろして退屈そうにしているのはタカシだ。やることがないのか、Lの部屋の片隅にバーコーナーのように立ち並ぶ酒瓶のラベルを読んでいる。
「つーかさL、高ピーって何時まで働いて来んのかな」
「いやー、そこまではちょっと」
「もしこれで夜の11時までとかだったらちょっとなーって思って」
「あー……ま、まあ、それでも今いるメンツ、カズ先輩以外夜に強いっすし、あの人はそれからでも食うと思うんで呼ぶだけ呼びましょう」
「何だろう、今日ほどお前が頼もしく見えたことがない」
現在時刻は午後6時半。まあ、何気に結構いい時間なんだよな。俺は高ピーが帰って来るまで飲まないにしても、1・2年生にはちゃんとご飯を食べさせてあげたいし。悩むところ。
「あ」
「どうしたL」
「帰ってきたっぽいっす」
Lくらいになると、些細な音で高ピーがいるかいないか気付けるらしい。高ピーが帰ってきたというその言葉を信じ、メールを打つ。MBCCって何気にライン入れてない子多いんだよなあ、タカシもそうだし。
大量の餃子はセット済み。もちろんビールと白いご飯も。「Lの部屋で無制限やるから来てねー」というメールには、「今行く」との返信。すると、外からカンカンと階段を上る音。うへー、緊張するなー。
「うーす」
「あっ、高ピーおつか……れええええっ!?」
いや、ウソだろ。目の前の光景に、もしかして俺ら邪魔してんじゃねーか的な考えがふとよぎって。
「……えーと、うちが来て良かったのか?」
「あー! なっち先輩! どうしたんですかー!」
「高崎とご飯食べる約束になってたところにこうだろ。緑ヶ丘の集まりの中に突撃するのは何気にちょっと気まずい」
「1・2年も全員半年以内に同じ班になってんだから問題ねえだろ」
「そうですよなっち先輩! ご飯はみんなで食べる方が楽しいんですから! ねえタカちゃん」
「そうですね」
「それにLの部屋ならなっち先輩が好きそうな甘いお酒も出来ますし! ねえL!」
「リクエストあったら言ってください、適当に作るんで」
なんか1・2年生の順応性がすごい。突然のなっちさんの登場に一番キョドってるのが俺っていう。しかも髪下りてるし。いや、高ピーの誕生日になっちさんとかこれ完全にデート的なヤツじゃんかみたいな野暮なことを考えてしまうのが悪いんだろうけど、えー……。
「わっ、餃子だ」
「たまにこうやってコイツが作ってくれるのを食ったりしてんだ」
「えっ、手作り?」
「ラーメン屋のサイドメニューみたいなことだ」
「はー、すごいなー。うち、餃子なら焼くのもいいけど水餃子が好き」
何はともあれ、無事に無制限飲みが始められそうでよかった。冷蔵庫の中には高ピーが好きな重いチョコレートケーキがあるんだけど、多分なっちさんにもケーキの需要はあるだろうしオッケーにしとこうか。
end.
++++
MBCC+誕生日=無制限飲みの図式はやっぱり今日も。日曜日で良かったやら台風で大変やら。
Lの部屋だったらという可能性に賭けたいち氏であったけれども、なんかエライ現場を目撃したかのような驚きよう
台風とか大雨とか、天気が悪い時は高崎にとっての稼ぎ時だぞ! と言うか休む間もなく働くことになるんだぞ!