「うわ、わかってたけど人が多い」
「当たり前のこと言ってんな浅浦、年末のスーパーは戦場だぞ!」
「お前はどこの主婦だ」
「主婦ではないけど、少なくとも普段から慧梨夏には食わしてるから場数はそれなりに」

 年末のスーパーとかいう戦場に、伊東を伴いやって来た。今日の本題は夕飯の材料。具体的に言えば年越し蕎麦とそのおかずの材料になる。うちの父さんが蕎麦を打つのにやたら気合を入れていて、毎年伊東家の面々を招待しているのだ。
 歳末商戦でスーパーはポイント10倍。物要りとポイント倍増が重なっての人混み。俺は既に挫けそうだ。そんな俺の尻を叩くのは、歴戦の勇士と呼んでも何らおかしくはない伊東。尻込みするどころか意気揚々と、水を得た魚のようだ。
 単に買い物であれば伊東一人で来ればいい。ただ、コイツは方向音痴という致命的な弱点があって、それがたとえ20年以上住んだ土地だろうとお構いなく発揮される。食材をダメにされないために、ドライバーとしての俺だ。