「対策委員からの連絡は何かあるかな?」
「はい。えーと、夏合宿の参加申込書が出来ました。例年の感じで言えば、MMPの人には出来れば参加して欲しいです」
初心者講習会が終わってもうすぐに夏合宿に向けて動き出していた。早いところ参加者を割り出して班を編成して、番組を作って〜という流れに持って行かなくてはならないのだ。講師は誰にしよう問題はもう少し先回しでも大丈夫。講師候補は現在選定中! という体だ。
対策委員の会議で刷っていた合宿の開催要項兼参加申込書を1人につき1部配布する。開催要項の下に点線が振ってあって、そこで切り取るというアナログな仕組みだ。アンケートアプリでも使えば良かったんだろうけど、それはそれでまた面倒な点があったりするし。
「今年の夏合宿は8月最終週の水曜から金曜、28日から30日までの日程で行われることになりました。場所は毎年お馴染みの星港市青年自然の家で、参加費が7700円になります」
それに目を通しながら、1・2年生は参加するの方に丸を打って早々に点線より下を俺に出してきた。話が早くて助かります。例年の感じで言うと、緑ヶ丘と向島はそれぞれ参加率が高いんだよな。ラジオメインの大学だし。と言うか、せめてこの2校には参加してもらわないと回らないんだよなあ。
菜月先輩と圭斗先輩は、さすがに今年は出ないと思うよという雰囲気を醸していらっしゃる。実際去年の夏合宿に3年生は出ていなかったし、今年もどうかな? という感じだそうだ。その前までは普通に3年生の参加者もわちゃわちゃいたそうなんだけど、時代の流れかな。
その一方、そんな時流に逆らわんとする勢いの3年生がお一方。三井先輩だ。三井先輩が俺に差し出した点線の下部分に打たれた丸の場所如何ではとんでもなく面倒なことになりそうな予感しかしないのだけど……で、出たー!? 三井先輩! なぜ参加の方に丸を打たれたのですか!
「えーと、三井先輩? 合宿に参加、されるのですか?」
「当然じゃない野坂。お手本になる存在がないと締まらないでしょ? やっぱり、僕のように上手い人がお手本になって、技術を繋いでいかなきゃいけないじゃない。えっ、菜月と圭斗、出ないの?」
「うちはそろそろ地元で車の免許でも取るかなあって思ってたぞ」
「あー、確かに取るなら夏休みだよね。圭斗は?」
「僕はバイトに精を入れたり、旅行でもしようかと思っていたよ」
「え〜? 菜月はともかく、圭斗は本当にそれでいいの?」
「逆に、僕に何を期待するというのかな?」
「あ、えーと、それは……」
「向島インターフェイス放送委員会定例会議長としての威厳ではないでしょうか! それから、番組面で言えばそこらの学生には出せないムーディーな、大人枠のアナウンサーとして――」
「おい三井、どうしてノサカを起こした」
「ゴメン、まさかここまで反応するとは思わなかった」
圭斗先輩の話題に飛びつくのは当然じゃないか、スルーする意味が分からない。それはそうと、三井先輩が出てくると非常に面倒なことになるような気がする。初心者講習会の後、一応三井先輩対策として合宿への3年生の参加をどうするって話になったけど、3年生の参加に制限を設けない方向で行くことにはしたんだ。外したか。
ただ、言っている字面に関して言えば、全部ではないにしろ賛同したい部分もあるにはあるんだ。3年生の技術や経験を繋いでいかなくてはいけないという点で言えば、講習会の講師問題の時にもあったようにそれは間違いなくそうだ。だけど、それを言っているのが三井先輩となると、途端に胡散臭さが前に来ると言うか。
「僕とペアになるミキサーは上手いアナウンサーと組めて本当に幸せだし、僕を抱えることになる班長にとってはそれはもう大きな経験として、とても成長出来ると思うんだよ。僕が合宿に参加することはプラスしかないから安心して野坂」
「俺たち対策委員は三井先輩の前科を忘れたわけではないので、あまり手放しに信用出来ないということだけはお伝えしておきます」
「えっ、ヒドいなあ。講習会のことだったら事故じゃない」
「3年生にも合宿に参加する権利はあるのでここでどうこうすることは考えていませんが、場合によっては対策委員議長権限で三井先輩をどうこうすることも視野に入れていますので」
「ちょっと待って!? 野坂が圭斗に似てきたんだけど!?」
「圭斗先輩に似ているとの評価は非常に光栄です」
「そうじゃない、誉めてないよ!」
「ん、定例会議長をディスったね? 国家反逆罪を適用しよう」
「ヒドい!」
「圭斗、それはさすがに横柄だぞ」
「ん、冗談じゃないか菜月さん。議長ジョークだよ」
議長ジョークはともかく、三井先輩が合宿に参加するとなると考えることは増えてくる。まず、誰が三井先輩を引き取るかの問題があるし。それから、ペアを組むことになるであろう子は誰になるのかなどなど、いろいろ。まあ、それは明日の対策委員で話し合うことにしよう。ガチ会議だ。
「しかしまあ、夏合宿か。もうそんな時期になったんだなあ」
「ん、とは言え僕たちはもう外野だからね。後は現場に任せようじゃないか。ん、現場からの報告は受けるし心配はしなくていいよ」
「あ、えーと……菜月先輩はご実家で自動車免許の取得というミッションがあられるので難しいとは思いますが、圭斗先輩はもし向島にいらっしゃるようであればぜひモニター会にはお越しいただけると嬉しいです」
end.
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本当にこんな季節になってきたんだなあとしみじみします。もう7月なのか……
ここ最近は気付いたら菜圭が合宿に参加する流れだったけど、そういう話になる前の件もそろそろ引っ張って来ないとなあと今日のお話
うん、菜圭は本当に合宿に参加する気じゃなかったんだなあ。頑張れノサカ