テストに入るとそうそうお酒を飲むことも出来なくなるなあ。
そんな話をしていたら、じゃあ今のうちに飲んでおけばいいという結論に達する辺り、自分たちもすっかりMBCCらしくなっているのかもしれない。
隣では、エイジが適当にテレビのチャンネルをピッピッと忙しなく切り替えていたけど、そんなに見たいモンもねーなとリモコンをビールの缶に持ち変えた。
「時間が時間だもん。本来ならお酒を飲むにも少し早いくらいだし」
「まあな」
言ってしまえばまだ夕方。夕飯時にもなっていないのにもう酒盛りを始めている自分たちにも問題はある、とこの場は片付けることにした。さて夕飯は何を食べようか。
「つか今日ここに来るまでにもめちゃ成人式っぽい連中がいたっていう」
「そっか、世間ではそうだよね」
テレビのニュースでも、成人式の様子が流れていた。今年は何万人が成人を迎えて去年からどれだけ減ったかとか、どこで逮捕者が出たとか。
自分たちは1年生だから、来年のこととなるそれをまだ他人事のように眺めていた。誕生日が夏のエイジはともかく、俺は年齢で言ってもまだ18歳。本当なら俺たちは酒を飲むにもまだ早い。
全国ニュースが終わって地方ニュースに切り替わったテレビからは、向島エリア内のある市の成人式の映像が流れていた。エイジが見てきた光景もあるだろうか。
市の名前で言われても位置関係はよくわからないのだけど、新成人代表の人が映し出され、スーツ姿の男の人が誓いの言葉を述べる場面。そこで覚える既視感。
「なあ高木」
「エイジ、見間違いじゃないよね」
「マーシーさん、だよな」
「だよね、野坂先輩に見えるよね」
そしてアナウンサーがその人の名前を読んで疑惑は確証に変わる。まさか知っている人をテレビで見るだなんて思ってもみなかったから、俺もエイジもテンションがおかしい。
野坂先輩が成人式で新成人代表として言葉を述べている場面に、さすが野坂先輩だという以外に感想はなかった。そこそこ大きな会場で行われている式だし、テレビも入っているし。
同じ大学でもない先輩のことでこんなにテンションが上がっているのは酒の所為だろうか。いや、きっとアナウンサーに言われる前に気付いたからだ。エイジもこの高揚を隠すことはしていない。
「でもさすがマーシーさんだ、あんな大舞台でも堂々としてんべ」
「すごいよね」
「やっぱ対策委員も議長となると肝が据わってんだべ。それでなくてもマーシーさんはなっちさん直属の後輩だし尚更だっていう」
「そうだよね、すごいよね」
「1コ上の先輩はチームワークもハンパないっていう」
「すごいよねえ」
「俺らも次期対策委員に指名されたものの、どーなるかね」
「どうだろうねえ」
誰が誰から受け継いだ言葉かという詳しいところは忘れたけど、「1コ上の凄さはその時にならないとわからない」という言葉が脳内で反芻されていた。
対策委員として動くことになった自分たちだとか、1年後の今頃、成人式に恐らく出ているであろう自分たちがどんな経験を積んだかということはまだわからない。
「まだ動き出してもいないっていう。誰が議長になるかもわかんねーんだ。俺かもしんないし、お前かもしんねーし」
「うーん、そんな度胸はないよね」
「ま、それはそれ、これはこれで今はとりあえずテストに向けて最後の酒盛りだべ」
「だね」
とりあえずは、一歩ずつ。
end.
++++
成人式のノサカイジりー、いえーい。向島の地方ニュースでノサカの勇姿が流れた!とかそんな体の話。
タカエイがノサカを殺すかのように誉めちぎってるのは他校の後輩から見たノサカ観とかそういう感じで……(笑)
なんかもうね、タカエイだろうとやっぱり酒びたりなのはMBCCの血だねきっと! 酒豪ゾーン!