「汁粉と善哉の違い?」
「そう。何がどう違えばおしることぜんざいっていう名前になるのかって気になったことない?」
伊東の家から鏡開きでもらった餅を焼きながら、もう一方のコンロでは小豆を煮ている。それを眺めながら、ぽつりと宮林サンが呟いた疑問が、その事柄だ。
「つぶ餡かこし餡かみたいなことじゃないのか?」
「浅浦クンもちゃんと調べたことはないのか〜」
「時々、身に馴染んで当たり前になってることでも不思議に思うアンタの好奇心を尊敬する」
そうやって調べることによっていつかネタになるでしょ、と趣味の同人活動を軸に物事を考えているのはともかく、わからないことがあれば調べるというのは基本だ。その姿勢は見習っていきたい。
「でも、おはぎとぼたもちみたいに同じ物ってワケでもないもんね。調べるのも面白そう」
そして彼女は携帯ゲーム機を開いた。最近のゲーム機はインターネットに繋がるのです。辞書ソフトもダウンロードしてあるから、と誇らしげに言う様だ。と言うか人の家の無線に勝手に繋ぎやがったな。
彼女が調べた結果、善哉は甘い煮豆、汁粉はつぶし餡もしくはこし餡を溶きのばした汁あんこだということがわかった。だとすると、俺が今作っているのは汁粉だということになる。
「浅浦クン、おしるこもいいんだけど、小豆を別にちょっと取り分けて小倉にしようよ」
「いいよ」
「うちはつぶあん派だけど、浅浦クンはどっち?」
「俺はこし餡派かな」
「ああ、そんな感じする」
「どっちも好きだけど、どちらかと聞かれれば」
あんことは関係なくそもそもの疑問を投げかければ、どうして俺がこの人に汁粉を作っているのかというところになる。うちに来るなり買い物袋を掲げて「これで調理を願います!」だもんな。
伊東家からの餅を持って来たのがこの人だという時点でまずおかしいのだけど、大方伊東は高校サッカーを見てて、美弥子はバイトか卒研で忙しくしているのだろう。
宮林サンは和菓子も好きな人だけど、家政夫…じゃない、彼氏の伊東があんこ嫌いという事情もあって汁粉だの善哉だのを作ってくれとは言い難かったのかなと考えるのが妥当だろう。
「出来たおしるこを持ち帰る用のタッパーもあるからね」
「アンタ一人で食べるにはタッパー大きくないか?」
「みなもと一緒に食べるからね。みなもも楽しみにしてたよ」
「それなら関さんも連れて来ればよかったのに」
「みなもは今出版部の原稿と戦ってるから」
「ああ、本当。頑張るね」
汁気のある物をタッパーで持ち帰るのは技術が要る気もする。作らせる量が多かったのもちゃんとした理由があったんだな。いつも突拍子なく無茶振りをしているものだと思っていたけど。反省。
しばらく煮た小豆を汁粉にするべく手順を踏み、焼いた餅を入れればとりあえずは食べられる物になる。お椀片手に餅を引っ張る宮林サンの表情は、緩い。そして、別の皿には小倉あん。
「浅浦クン、美味です!」
「お粗末様です」
「でもこれ、おしるこでありぜんざいでもあるという点では表現に困るよね」
「汁粉だ。さっき調べただろ」
「国語辞書的に「善哉」とは、実によいの意で相手の言動をほめたたえる語、ともあるので、このおしるこは実にぜんざい。もとい、よきかな」
「アンタ、それが言いたかっただけなんじゃないのか?」
バレちゃしょうがない。そう言って彼女はカンニング用に開いていたゲーム機を閉じた。
end.
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ナノスパ鏡開きの定番、伊東家の餅話。いや、その割に伊東姓が不在ですが! ら、来年の今頃には慧梨夏が伊東姓になってるから……
去年?はリン美奈の「イッツビーン」でやったくだらないダジャレ話であり、浅浦クンが粒あん派かこしあん派か明らかになる回でもあり。
そして慧梨夏w 浅浦クン宅の無線に3DS勝手に繋ぎやがったw ほほう、浅浦クン宅は無線を飛ばしているのね。そっか、書斎ロフトだもんね。