「センター内で騒ぐ、機器・備品類を破壊するなどの迷惑行為により、他の学生の学習が阻害されると判断される際、スタッフは当該学生に忠告し、改善されないようであればセンターからの退場を命じることが出来る。迷惑行為が悪質な場合ならびにスタッフの命令に従わない場合、スタッフは当該学生の情報センターの利用を停止することが出来る。それにより取得出来なかった単位等に対し、星港大学及び情報センターは一切責任を負わない」
「何のつもりだこの野郎!」
「情報センターの規定により、退場を命ずる」
文字通りに摘み出された人のいた席のマシンを容赦なくログオフし、カードキーを手にまっすぐ事務室に向かう林原さんのブレなさだ。きっと今の人をブラックリストに登録するのだろう。
それまではどことなくざわついていたセンター内の空気は一気に張り詰めた。情報センターでやらかすと本当に追い出されるのかと、蛍光イエローのスタッフジャンパーに対する目も変わったように思える。俺が歩く音も、しっかりと聞こえる。
情報センターという場所はその施設の性質上、テスト期間前後や履修登録期間中が繁忙期に当たる。普段から利用している人はともかく、こういう時期にしか来ない人は規則なんてあってないような使い方をするから困ることもしばしば。
さっき林原さんが言っていたのもこのセンターの利用規約の一節。さっき摘み出された人は隣の人と本当にウルサくしていたから、他の学生さんからの苦情で注意したけど聞いてくれなくて。林原さんにヘルプを求めたらこうなりましたとさ。
「川北、退場宣告も出来んでこれからどうするつもりだ」
「でも林原さん、何回も言ったんですよ静かにしてくださいって」
「言っても聞かん奴を摘み出すくらい出来んと、ナメられるぞ。ねえ春山さん」
センターの業務が終わった午後9時、事務所内で仕事終わりの一服を。今日の一件について、もうちょっとこの空間を律する者としての自覚を強く持てとチクリ。
受付のマシンと向き合って今日のブラックリスト登録を整理している春山さんは、相変わらず苦虫を噛み潰した顔をしている。随分と仕事を作ってくれたなと。
「まあ、リンほど極端にやれとは言わないけど、川北はもう少し強く出てもいいな」
「でも、注意するのも怖いんですよ、殴られるんじゃないかとか」
「その際はブラリ登録と同じ要領で身元を割って、学生課に訴えれば何らかの処分が科せられるだろう」
「林原さんは怖くないんですか?」
「いちいち怯えていたら仕事にならん」
林原さんの言うことはごもっとも。そしてこう続ける。
情報センターのスタッフ、特にB番はその性質上忌み嫌われることも多いし逆恨みをされることも少なくはない。でも、迷惑行為をする学生のおかげで真面目に自習している人が不快に思うのであれば、B番のいる意味はない、と。
「どこから金をもらってるのか、というところだな。オレたちの雇い主の大学はこの施設で学生に健全に学習をさせたいのだろう? 一人の不届き者を摘み出さずにいればそいつからの恨みは買わんかもしれん。だが、その他の学生からあのスタッフは大学から金をもらっているのに仕事一つまともに出来んのかと恨まれることになるだろう。それに、雇い主の注文にも応えていないことになる。マシンに強ければいいという物ではないぞ、B番の仕事は」
「そういう考えもあるんですね」
「リン、お前もそういう考えを持ってたんだな」
「閑散期は給料泥棒に等しいですが」
まだもう少し続く情報センターの繁忙期。もし機会があれば、本当はない方がいいのだけど、毅然とした姿勢でいられるように。蛍光イエローが怯えてちゃ、話にならない。
end.
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ミドリはちょっと臆病なのかしらね。そしてリン様は例によって\リン様マジリン様/なので不届き物を摘み出すなんて余裕だよ!
仕事を作っても作らなくても春山さんが苦虫を噛み潰したような顔をしているのが基本だけど、今回のブラリ登録に関してはどうだろうね!
リン様が情報センター利用規約をなんとな〜く覚えているのは給料泥棒の期間になんとな〜くセンターの利用規約を眺めているからだよ!