「神様仏様ノサカやよ!」
「菜月様この通り!」
掲示板前で繰り広げられるこのお辞儀合戦が実に低レベルであることだけは間違いない。MMPに同じ学部の人がいない僕は高見の見物を決め込むことが出来ているけど、菜月さんと野坂の表情がまた。
「村井サン文系やから留年かかっとらんはずやのに何でそんな必死扱いとるんですか」
「バカ野郎ヒロお前、俺は卒業がかかってんだ! 就職だって決まってんだぞ!」
「どーやったらそんなギリギリになるんかボクにはわからんですね」
「お前だってギリギリじゃねーか!」
テスト前にヒロが野坂に集るのも、村井サンが菜月さんに集るのも割とよく見る光景だ。この光景を野坂が低次元にも程があると言い切り、菜月さんもそれには同意なのか頷いている。
菜月さんは人に言える立場ではないけれど、ないノートはない物として場当たり的に何とかするから人に迷惑はかけていない、と言い張る。自力で何とかするからいいという問題でもないけれど。
「大体ヒロ、お前クリスマスに課題手伝えとか言って人を呼び出しといて、爆睡した俺を放置して帰った恨みは忘れてないからな」
「結局その後菜月先輩の部屋でラーメン作ってもらったんやからええやん! りっちゃんから聞いとるんやよ!」
「菜月さん、そんなことがあったの?」
「ああ。さすがにノサカがかわいそうになって」
「菜月が野坂を哀れむとか相当だな」
「村井サン、俺の苦労をお分かりいただけましたか?」
「ご愁傷様。――というワケで菜月様、小笠原のノートだけどー」
全然わかってないじゃないかと野坂の目が村井サンを蔑んでいる、ように見えるのは気の所為じゃない。こと学業に関してはMMPで野坂の右に出る者は現れないだろう。
相変わらずヒロと村井サンのお辞儀合戦は続いている。時折、目くそ鼻くそ、あるいはどんぐりの背比べのように互いを貶し、そしてお願いする対象を誉め讃えながら。
「ボクの心の友のノサカは休みの日だって頼めば出て来てくれるんですよ! 村井サンは休みの日まで勉強しんからわからんかもしれんですけどね!」
「そもそも休みに出て来なきゃいけなくなるのがどーかしてんだ。お前、菜月のノートを見たことがあるか? すっきりと要点がまとめられて、授業に出なくても内容がスッと入ってくるんだぞ」
終わることのない攻防に誉められ慣れていない2人が目を合わせ、大きなため息をひとつ。そして菜月さんがポツリ、行こうか、と。これ以上話を聞いていても埒が開かないと思ったのだろう。僕も同意だ。
「そういうことだからヒロ、俺は今回こそお前を助けない」
「あっ、ゴメンノサカどれを怒っとるん!? 基本情報受かったん抜け駆けやとか賄賂やとか言ったこと!? クリスマスに置いてったこと!? それともアレ? さっきノサカ買ったカルピス半分飲んだこと!? それとも対策の会議でのあれ? 電車で起こすとき足踏むのがアカンの?」
「……ヒロ、お前もっと野坂を大事にした方がいいぞ。絶縁されてないのが不思議なくらいだ」
「そう思うなら、村井サンにももっとうちを大事にしてもらいたいですね」
「俺がお前に何かしたか!?」
ドングリーズと現人神のやり取りを、さらに上から他人事として眺める僕は意地が悪いかな? でも、学部の違う人々のことをとやかく言う資格はない。
「ところで菜月さん、自分はノートやその他は大丈夫なのかい?」
「うちはほら、頼んでもないのに三井が勝手に持ってくるから」
「菜月さんも大概だね」
end.
++++
今回はMMPメンバーが大集合してかちゃかちゃなことになっているテスト前のお話(向島と星大は1週遅い)。
菜月さんが作ったラーメン〜の件は一昨年12月のエコメモSS NO.864「poor boy is coming to home」でのこと。
と言うかヒロね。ノサカにどんだけヒドいことをしてるのやら。想像するのも怖いね! ノサカもきっとあきらめてんだろうな!