「朝霞君、今度鰻を食べないかい?」
「おっ、いいね」
定例会後、隣で聞こえる単語に含まれる夏らしさ。しかしさすが圭斗、ウナギなんてまたリッチな物を平然と食べようとしてるなあ。俺には手も届かないぜちきしょい。
だけど、不思議だったのはその誘いの矛先。まあ、元々圭斗の方からご飯に行こうとかって誘うのは定例会じゃあまり見ないけど。基本俺からだし。はっ、もしかして俺が食べる物は庶民的すぎて圭斗には合わないとか?
「圭斗俺も俺も!」
「いいけど伊東、何しに?」
「いや、だからウナギ?」
「僕たちは一時的な帰省のついでだけど、お前は現地解散だよ」
「マジか! その辺で食べるとかスーパーで買うとかじゃなくて!?」
「お前はバカか! その辺の鰻が僕の地元に勝るとでも!? ましてやスーパー!? 寝言は寝て言ってくれないか」
本格志向の圭斗様がウナギに懸ける情念と言ったらもう。俺の常識なんて通用するはずありませんよね。一時的な帰省のついでっつーか、それはもはやウナギが本題で帰省はついでじゃんか。
――なんて言おう物ならまた圭斗様の雷が落ちかねないけど、カオルはそこまで本格派だったか? まあ、元々生活自体が結構謎だけどさ。さすが星ヶ丘、謎のベールが分厚いぜ。
「つかカオルも山羽だっけ」
「圭斗とは地域が違うけど。圭斗は西の政令指定都市だけど俺はエリアの真ん中らへん」
「ふーん」
「山羽は東西に広いからね」
「それで途中まで圭斗に乗っけてもらって鰻食べて、そこから電車で帰ろうかと」
「つかそもそも何でウナギ?」
「と言うか夏に鰻を食べるという発想にならないお前が僕には信じられない」
まあ、圭斗様からすりゃスーパーとかで安く買える外国産がウナギにカウントされないんだろうけど。そしてカオルに山羽の人間はみんなこうなのかと聞くと、全員がそうでもないとの返答。ま、そりゃそうだよな。
言ってしまえば向島だってウナギの産地だし、下手すりゃ全国でも有数なのに圭斗と来たらあくまで地元がナンバーワンとでも言いたげだ。まあ、それだけ誇りがあるのは素晴らしいけどさ。
「カオルもすごいこだわんの?」
「俺はそうでもない。でも夏だしバテるから食べとこうかなと」
「夏バテ防止かー」
「俺、ステージやるには致命的に体力ないし」
何においてもステージ中心に生活が回っているカオルもカオルだなーと思う。本人が致命的と言い放った体力のなさ故にバテないようにするとか風邪予防を年中やってるとか。さすが鬼の朝霞Pだ。
お前は普段料理やるなら何か普段料理しない男でも簡単に出来る夏バテ予防メニューでも教えてくれないかと逆に聞かれる始末。生憎、俺には栄養学の知見はほとんどない。それこそウナギだろう。
「それで結局伊東、お前もついて来るのかい?」
まあでも幸い圭斗様の地元から緑ヶ丘まではビックリするほど遠いってワケでもないし、さほど頑張らなくてもバイクで行けそうだ。いや、迷うのも怖いしたまには電車に乗るのもいいな。
「よーし、圭斗様の誇るウナギを俺も食べさせてもらおうかな」
「ん、じゃあそういうことで」
帰りには、お土産にパイでも買おうかな。
end.
++++
毎年お馴染み圭斗さんの鰻話ですが、今年はMMPではなくまさかの定例会でした。罪な朝霞Pである。
同じエリア出身でも圭斗さんと朝霞Pの鰻熱には温度差がある模様。まあ、圭斗さんが特別熱いんだろうけどね。
仲間外れにされそうで焦ったいち氏がかわいい回。でもいち氏にはずっと庶民的ないち氏であってほしい。