朝はだるい。だけど、目が覚めて突きつけられる現実。もしこの状況で日課の掃除なんかしようものなら、俺は縛られてベランダから吊り下げられるだろう。
床には宴の痕。宴とは言うけど実際にはサシ飲みだ。リキュールの瓶にビールの大樽。バスケットボールくらいの大きさで、何リットルとかで売ってるヤツだ。そしてそれを持ち込んだ人が横たわる。
「どーしろっつーんだ……」
この高崎先輩という人が厄介で、休みの日の朝から掃除をすると俺が寝てるのに真上で掃除をするなと殴り込みに来たりする。寝ることが何よりの幸せで、それを阻害する者は誰だろうと許さないと。
昨日この人が酒を持って俺の部屋に殴り込みに来たのは、テスト期間という理由で開催されることのない俺の誕生日を祝う体の無制限飲みを埋め合わせる、という口実で俺が飲みてえだけだ、とのこと。
何が本当なのかはわからないけど俺も酒好きだし次の日は日曜だしテストのことも考えなくていい、ということで喜んでその人と杯を交わした。よくあるサシ飲みの、それ。
前述の通り寝ることが至上の幸福と言う高崎先輩は、休みの日だとそれこそ昼まで起きることはない。その時間になると俺は日課の掃除を終えているから、生活リズムの違いが俺を震え上がらせた。
「とりあえず、起こさない程度に片すか」
床に置かれた瓶や何かを撤去するくらいなら大丈夫だろう。瓶同士をぶつけないよう、そーっと。俺が歩く音で先輩を起こしても大変なことになるだろう。
どうして歩く音や振動に、真下の部屋ならともかく同じ部屋に先輩がいて怯えなきゃいけないんだ。チラリと様子を窺うと、それはもう安らかな顔をして眠っている。幸せそうで何より。
時計は午前11時を回ろうとしている。高崎先輩が起きるまであと3時間は見なければいけないだろうか。そろそろ腹も減ってきた。食べるものは一人分でも大丈夫だろうか。
「ん……ふあ……」
しまった、大きく踏み出しすぎたか。むくりと起き上がったその塊に、身が凍り付く。だるまさんがころんだやってるときもこんな俊敏に反応できたことなんてないのに。
状況がわかっているのかいないのか。どうやらまだ意識がはっきりしていないようで、先輩はただただぼーっとしている。二度寝するのかしないのか、次はどう出てくるんだ。
「……L、そっち行くなら水、持ってきてくんねえか」
「あ、はい」
多分、あの人のパターンなら……ほら、あった。冷蔵庫の中には俺が入れた覚えのないミネラルウォーターのペットボトルが入っている。こーゆーのを勝手に仕込む辺りあの人らしい。
「これすか」
「ん」
起き抜けの水で体に線を通し、ぼやぼやしていた意識も少しは回復したらしい。サンキュ、と一言もらえば改めておはようございますと時計の針に対して少し遅めの挨拶をする。
「今何時だ、2時くらいか」
「11時っすね」
「まだ11時か。割に静かだな」
「先輩がいるから掃除は控えてたんすよ」
そう告げた瞬間先輩はベッドの上に陣取り一言、じゃあ今から始めろ、と。アンタは何がしたいんだと思ったけど、それ以上動く様子も見られない。
「どうした、さっさと始めろ」
「あの、先輩、ベッドの上から退いてもらわないと布団が干せないじゃないすか」
「それを早く言え」
どうやら先輩の意図は、掃除が終わったのを確認してから二度寝する計画だったらしい。一応、掃除をする権利は尊重されているのだろう。それだけでも大分優しい世界になった気がする。
end.
++++
L誕翌日談。高崎が午前中に自然起床するとかいう奇跡。でも割と日曜日はL宅の掃除の音で午前中に起こされてたかもね!
そしてビールをリッター単位で持ち込み冷蔵庫に水を仕込む高崎がまあやりたい放題ですわwww
久々に高崎とLの話をやったような気がする。夏休みにも何回か出来たらいいな、と言うかするような気がするね。