「あれっ高ピー、今日はいつものコーヒーじゃないんだね」
「ああ、見かけたから買ってみた」
高ピーと言えば、コーヒー牛乳。そう断言出来るくらいには500mlパックで買う物が決まっていた。コーヒー牛乳の銘柄はその時々のようだけど、雪印のコーヒーが半分以上かなあ。
今日の高ピーが飲んでいるのはそのコーヒーには違いないんだけど、パッケージが少し違ってた。よく見ると、大人のコーヒーと書かれている。甘さ控えめとか、そんな?
「確かにいつものよかすっきりはしてんだ」
「へー、美味しい?」
「まあ、味はあれがベースだから美味いには美味い。でも、あれが至高なのには変わらねえ」
そう言って高ピーは次の一口を吸い上げる。その顔を見れば、確かにいつものコーヒーには敵わないんだろうなあというのはわかる。きっと高ピーが大人のコーヒーを飲んでいる姿はもう見れないだろう。
高ピーはハードボイルドと言うか硬派……いや、何だろ。俺の語彙じゃちょっとわかんないけどとにかく雰囲気がある。だけど見かけによらずブラックコーヒーが飲めなかったりする。
それどころか結構な甘党だ。甘い物に甘い物なんて余裕で重ねるし。それでも自分が至高だとする甘いコーヒーの派生品、明らかに甘さが控えめになってそうな物を買うのはどういう心理なんだろう。
「まあ、メーカーへの信頼っつーのもあるだろうな」
「ああ、いつも飲んでるコーヒーの派生だからある程度の味は保証されてる、みたいなこと?」
「ギャンブルではないよな。いつものが至高だとは思ってんだけどよ、もしかしたらって可能性もあるワケだろ。試した結果いつものヤツの方が上ならやっぱりなって再確認するだけだ」
ある程度結果が保証されているとは言え、その「もしかしたら」に賭ける高ピーというのも何となく新鮮だった。でもそう言われると確かに派生のプリンを食べてるところも見たなあ。
ストローを外し、紙パックから直接コーヒーを飲み干して高ピーはさて購買に行くかと腰を上げた。さっき行ってきただろうにまだ何を買い忘れたのか訊ねると、コーヒーを買うと。
「まだ飲むの!?」
「余裕だろ」
そうさっさと行こうとするものだから、何となく俺もついて歩く。そこまでコーヒーが好きだったかなあと思ったけど、習慣付いているのかもしれない。俺もアロエドリンクをよく飲むし。
紙パックの並ぶ棚の前に立ち、いつものコーヒーを手に取った高ピーは満足そうだ。俺も同じようにアロエドリンクを手にした。やっぱりいつものに落ち着くのかもしれない。
「うん、これだ」
ひとつ、深く頷いた高ピーからいつものを一口もらうと、俺もこれだと思った。知ってると言うか、懐かしい。これはまだまだお店から消えることはなさそうだ、よほどのことがない限りは。
「コーヒーごときで大人だガキだって言われたくはねえけど、俺もまだまだ大人には早いっつーコトだ」
ただ、高ピーが本当に大人と呼べる大人になったとして。それでも手には同じ物を持ってる、そんな気がする。高ピーはこれと決めたらテコでも動かない、そんな信念を貫ける人だから。
end.
++++
コンビニで例のヤツを見かけたときに、これは高崎だろうと思ったので書いた。後悔はしていない。
ここ何日かの高崎話の中では割とテンション高め? でも好きな物飲んでたらそうなるよね。もしかしなくても酒以外で1番好きな飲み物かも。
やっぱり高崎は甘いのが好きなくらいがちょうどいいよね!